第6話 和紗の混乱
廊下にひっぱり出された後新ちゃんに手を引かれすたすたと彼のペースで歩いて行く。朝のときとは大違いだ。
「新ちゃん・・・」
今日の朝の兄ちゃんのおかしな言動。きっとそれは私が昨日のことを忘れてしまったからなのだろう。何も無かったように接する私を不思議に思ったに違いない。
「・・・・・・・・・・・・」
何て切り出せばいいのか。
「悪い。実はあの写真出回るの今朝の時点ではっきり分かってた」
はいっ?どうゆうこと?
「羽鳥から画像つきで夜中メールが来たんだよ。」
マジですか。羽鳥さん…がか…でも新ちゃんが羽鳥さんやめろって言ったならこんなことにはならないと思う。彼女は噂好きだけど節度は守るしなにより友人なんだから…
「俺はあえてそれを広めるのを止めなかった。」
新ちゃんは分かっていながら羽鳥さんを止めなかった。そういうことでいいのか?
でもいったい何故?
私との・・・あのシーンを広めても良いと思うはずが無い。羞恥心がないのか。
それ以前に男みたいな奴と噂になること事態が甚だ迷惑だろうに。
「何で・・?」
「何でって?」逆に新ちゃんは私に問う。
分かんない。
分かんない。
その『分からない』顔を見て新ちゃんはふぅっと溜息を吐く。
「分かった!!昨日のは新ちゃんのどっきりで、その後の反応があまりにも面白くなかったからあえて羽鳥さんを止めずに学校に広めて私を今度こそ驚かそうとした!とか?」
無理にこじつけて理由を考えてみると新ちゃんの顔が面白くなさそうに歪んだ。
「いくらなんでも馬鹿だろう」
「!何それ」
「鈍の極みだ」
酷い!昔から家族にも友人にも言われてきたけど新ちゃんの口から出たのは珍しい。
彼はそう思っていても口に出さないからだ。でも今はっきり言い切っているということはそうとう頭にきているしるしだ。
「もう一度言う。あれはどっきりじゃない。俺は好きだ。本気だ。」
・・・・・・・本気?
「言葉の意味分かるか。馬鹿でも分かるように簡単に言ったつもりだが」
・・・・・・・いや分かったよ。言葉の意味は。
だけど新ちゃんの心が分からない。
私が好き?
ありえないから。
「和紗。もっとよく考えてくれ。俺のこと。俺があれを止めなかったのは和紗お前のせいだ。
俺がお前のことを意識してもお前は何時までも鈍のまま。女からの、男からのも告白もっきぱりと断ることも出来ない。ほかっておくと絶対誰かに取られると思った。
だから広めた。周りを牽制できると同時に嫌でも俺のこと意識する」
確かに意識はする。
だけどそんなことのために私はこんな目にあっているのか。
それにムギさんのこともばれた。
ムギさんになれてももう前のように気ままに庭で過ごすことは出来ない。後ろ指刺されて噂される。きっと。
「新ちゃん勝手だよ・・・・」
私の気持ちは無視?
学校中にあんなのふれ回されて・・・一日中誰かが噂してるんじゃないかとびくびくして。
こんなのたえられない。
「私のことも考えてよ。…もう知らない勝手にすれば」
新ちゃんの手を振り切ってカバンを奪い取り長い長い廊下を走りだす。
「和紗!」
背後から新ちゃんの声と走りだす足音が聞こえる。
私は呼び掛けに応じず一心不乱に足を動かす。
彼は足が速い。こんなとき運動が苦手な自分に辟易する。
何でついて来るのよ!ほかっといて・・
逃げ出したかった。現実から。ムギさんがばれたことと新ちゃんの言葉からの逃避。
「和紗!」
やばい・・・・・
人は危機に陥ったとき自分の最大限の力がだせるらしい。
私は手に持っていたカバンから下駄の片方を取り出し後ろへ投げつける。もう片方もなげやりになりつつ後ろへ抛る。
続いてカバンの中で私の手に運悪くつかまったケータイが投げつけられる。
私は物を投げつけながらも走るスピードを緩めない。
私の後を追いかける足音は消えていた。
追いかけてくれはしない。
自分が新ちゃんの手を振り払った。
後ろを振り返っちゃいけない。新ちゃんを顧みてはいけない。
新ちゃんは私を望み私はそれを拒否した。
昔の関係は大崩れ。
明日からなんて会えばいいのだろう。
新ちゃんは私にどう接するのか。
何も無かったように話す?それとも…拒絶を表した私を無視する?
ムギさんにもなれない。
新ちゃんとも気まずくなる。
私はどうなってしまうの・・・・・・・
誰か教えて・・・・・・・




