第5話 ムギさんのピンチ
Q.人は予期せぬことが起きるとどんな行動をとるのだろうか
****************************
「和紗ー起きなさいー」
リビングからお母さんが二階で寝ている私に届くような大声で起こされ、掛け布団を払いのける。
が寝起きの体はひどく重たかたので重力に任せてもう一度横になる。
(なんでこんなに疲れてるんだろう・・・・・)
昨日何かしたっけ
えーっと昨日は・・・?
あぁ!
新ちゃんと一緒に本屋へ行ってそれからアイスを食べてラーメン食べて店員さんに兄弟に間違われたり。
ラーメンが美味しくて・・・・
新ちゃんに奢らせて・・・
それで真っ直ぐ家へ帰って・・・
あれ?それからどうしたっけ?
う〜ん
あれからー
あれからー
えっとー
そうだ!あれから新ちゃんと少し話して別れたんだ。
納得した私は気だるい体を起こし着替えるために箪笥を開ける。さぁ今日の始まりだ!
私は気合を入れるために両頬を手でぱちんと叩く。
「・・・痛い」
強く叩きすぎた。
****************************
Q.人は予期せぬことが起きるとどんな行動をとるのだろうか
A.和紗の場合忘れる。
****************************
ご飯を食べ玄関の扉を開けると新ちゃんが壁にもたれていた。
「新ちゃんおはよう。今日はどしたの?」
姿を現した幼馴染に向かって微笑みをなげる。
いくら家が近くても一緒に登校することはない。たまたま出くわしたときは一緒に行くけどね。
「えっ?あぁ」
新ちゃんは微笑んだ私に対してぎこちない笑顔で笑いかける。
ん?新ちゃんどうした?
私は何時ものペースで歩き出す。新ちゃんは私に合わせてゆっくりと歩き出す。歩幅が違うもんね。身長そんなに変わらないのになぁ。
「…和紗。昨日の話なんだけど・・・」
新ちゃんは口ごもる。さっきの笑顔といいこの口調といいうやっぱり変だ。
「昨日?どんな話したっけ?」
う〜ん思い出せない。
「和紗・・・」
新ちゃんは低い声で私の名を呼ぶ。新ちゃんの纏っている雰囲気がよどみ始めたような・・・そんな感じがする。
「何?」
「なんでもない」
ぶっきらぼうに答える。不機嫌そうだ。
「今日は・・・色々あるかもしれないが落ち込むな。俺が責任とってやるから。
あと今日も一緒に帰るから逃げるなよ。」
「えっ?」
新ちゃんはそれだけ言うと私を置いてスタスタ行ってしまった。
「いったい何・・・?」
悩みとかあるのかな・・・?
話したいことがあるのかな?
***
キンコーンカーコン
時は既に授業もホームルームも終わり放課後。
(新ちゃんが来るって言ってたな)
何時もは新ちゃんから逃げるように庭に行ってしまうけど・・・
今日は新ちゃんの様子がおかしかった。大人しく新ちゃんを待っていよう。
それで新ちゃんに悩みなんかあったらどんと受け止めてあげよう。
「和さんちょっといい?」
ホームルーム終了のチャイムを今かと待っていたようにすばやく駆け寄り話しかけてきたのは羽鳥真由美さん。彼女の後ろに付いてきているの草木藍さん。
彼女たちと仲はいい。何か羽鳥と草木さんって同類の匂いがするのよね。そう甘い秘密の香りがプンプンする。
「このことなんだけど」
そう言って見せられたのはケータイの画像。
「うぇっ!」な・何だこれは。
羽鳥さんに見せられたのは新ちゃんとムギさんのキ・キスシーン。結構な距離で撮影されているが顔はバッチリ鮮明に写っている。それにムギさんの格好はかなり目立つ。
な・なんだこれは!!
ムギさんは私の筈だ・よ・・ね。
なのにこんなことした覚えがない。
「珍しいでしょう。麦藁帽子被ってないムギさん」
(突っ込み所はそこかい!)
もっとあるでしょう。
何でムギさんが学校の庭意外に現れたかとか、(傍から見たら男)のムギさんが何故新ちゃんとキスしてるとか。
ムギさんが私に似てるとか。
この写真のムギさんは私にそっくりというか私・・・私だよね・・・?
だが新ちゃんと・・・こんなことした覚えは無い。というかするはずが無い。
「これ羽鳥さんが撮ったの?何時撮ったの?」
私は他の女子みたいに噂好きを演じて聞き出そうとする。
「昨日の六時半をまわったくらい」
羽鳥さんは人差し指を頭に当て思い出す。
(六時半か・・・・・丁度家に帰ってきたときだ。・・・・・・・)
考えこんだ私の腕を羽鳥さんは現実から引き戻すように強めに掴む。
あの光景がフラッシュバックする。
私の腕を掴み壁に押さえつけて
いとも簡単に捕まえた新ちゃん。
間近に聞こえた新ちゃんの息遣い。
熱い声。
「あっ」
思い出した。確かに私は新ちゃんと―――――
「このムギさん帽子がないからはっきりと顔が見えるわね」
羽鳥さんが痛いところを突いてきた。
何時ものムギさんは麦藁帽子を目深に被っているため顔をはっきりと見せたことがない。それはややこしい(騒ぎになったら大変だから)ことが嫌いなので、ムギさんが学校中に有名になって取り返しがつかなくなわないようにと自分で決めたルールがあるからだ。
なのに羽鳥さんや草木さんに知られてしまった。
「『ムギさん』
あなたのことよね。」
どうすればいい。
頭が真っ白になり逃げ道が作れない。
それを肯定と受け取ったのか羽鳥さんはたんたんと言う。
「どうするの。このことクラス中、いえ学校中に広まってるわよ。って広めたのは私なんだけどね」
羽鳥さんは悪びれていない。
噂好きなんだよこの人は。
「・・・・・」
黙り込む。周りの視線が痛い。騒ぎを起こすのが嫌いで静かに暮らしていきたいだけなのに。
「和紗」
助け船かはたまた火に油か新ちゃんがやって来た。
黙って新ちゃんを見詰める。
(泣いちゃいけない)
必死で歯を食いしばる。彼を見たとき涙腺が一瞬緩んで視界が揺れた。
新ちゃんはそんな様子を見ると私の一番近くにいた羽鳥さんを睨む。
「ナイト様の登場ですか」
新ちゃんはその冷やかしをもろに受けながら私のサブバックを持って教室から連れ出す。そして最後に教室にいる人々に向かって宣言する。
「みんな知っていると思うが見ての通りムギさんは女だ。それでもまだこいつに告白したい奴は俺と争うことになるな。それを念頭におけよ」
ぴしゃりとドアを閉める。残った人々は新希の言葉に呆然している。ただこの二人を除いて。
「面白くなってきたわね」羽鳥は心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
「かわいそうにあの二人。あなたが絡むと余計大変になるわ・・・・・・
よく考えれば私も被害者かも…」
「人情の縺れこそ私の精気。他人の不幸は蜜の味よ。」
「そうかな。私はあなたと関わって良かったと思ってる。いろいろしでかして私をぐちゃぐちゃにしてくれたけどね・・・大切なこと・・・分かった気がする・・・」
だからきっとあの二人はうまくいく。…気がする。
確証は無い。なんとなく、だ。
草木の言葉を聞いた羽鳥は恥じらい照れた笑顔を浮かべたのだった。
Light:あなたはいったい何者?
羽鳥:人間。
・・・・ダメだこりゃ。作者もお手上げキャラ・羽鳥。少々暴走気味。




