第11話 和紗とムギさんのネガイ
最終話です。
「和紗ああいうのは『なんぱ』っていうんだ」
ひどく真面目な顔で先程のことを説明しだす。
現在観覧車に揺られている。説教みたいで景色を味わう暇が無い。
「上手くかわせれないと思ったら無視して逃げればいい。」
ナンパかぁ さっきの人たち男だったから私をちゃんと女としてみたのだろうか。
逆ナンされた経験はあっても普通のは無かった。
逆ナンは相手が女の子だから適当にかわすことが出来ても相手が男の場合はそうはいかない。
あれが男と女の差。あんなに触れられるのに嫌悪感を抱いたことが無かった。
「うん。気をつける。今度から遊びに行くときは絶対ムギさんの格好で行く。」
「何でそうなるんだ・・・・・」
新ちゃんは俯き深い溜息を吐く。
せっかく観覧車に乗っているんだから景色を楽しもうよ。
「だいたい和紗は自覚が無いんだ。男の格好をしていても気付く奴はいるし、和紗が男だと思って声をかけてくる奴もいる。」
はぁ でもそれなら防ぎよう無くないですか。
「だからこんな格好はダメ。女の格好は家だけ。せめてムギさんなら許せるけど・・・」
こんこんと続く新ちゃんの説教。
だんだん新ちゃんがお父さんに見えてくる。
勿論そんな言葉は左耳から入り右耳から出て行く。
新ちゃんの説教は嫌いだ。
「和紗聞いているか?」
「あ・うん」
「とにかく気をつけろよ」
おー終った。まだ観覧車一周分の話の長さで良かった。長いときは永遠に同じ話がこんこんと続くからね・・・・・
「お疲れ様でした。」
係員さんが扉がなれた手つきで扉を開ける。
「新ちゃん行くよ」
すたすたと新ちゃんを気にせず歩いていく。さっさと行かないと説教がまた始まってしまう。
それでも新ちゃんはきちんと私についてくる。
「あのさ…俐委さんがね『可愛い』って言ってくれたの」
唐突に話をきりだす。
「女の子として可愛いっていってくれたの。うれしかったよ。」
後ろを振り向き新ちゃんと目を合わす。どんな話でも新ちゃんは聞いてくれる。
「そうか」
「さよならしたけどまた会えるって信じたいんだ」
ぽんぽんと新ちゃんが私の頭をたたく。
新ちゃんの目がふっと細められこちらを見つめる。やわらかく穏やかな目。
胸がとくとくする。
あたたかい血が胸の中心に集まってくる、そんな感じ・・・
「信じてみれば?会えるまで俺が変わりに可愛いっていってやるよ。
何度も何回もな」
すっごい歯の浮くようなセリフ。
こっちが恥ずかしくなるよ。
新ちゃんはぷいっと顔をそらす。
分かるよ。私には。顔を見なくても新ちゃんの表情が。
熟れたトマトのように真っ赤になっている彼の顔が鮮明に浮かぶ。
自然に笑みがこぼれる。恥ずかしがっている彼の顔がもっとみたい。
「言って。可愛いって。俐委さんの何倍も言って?」
新ちゃんはその場で顔を覆いしゃがむ。彼の恥ずかしさがピークを超えたのであろう。
後ろから彼の頭をぽんぽんとたたく。
さっき彼がしてくれたように。
新ちゃんはちらり指の隙間から片目を出す。
「和紗…可愛いい。可愛い。オヤジスタイルのときでも・・・可愛い。和紗が小さいときから見てた。昔も今も可愛い。」
新ちゃんは手で完全に顔を覆う。
小さくなっている幼馴染の背がいつもより小さく見える。
私にたくさんの『可愛い』をくれた。
「俺にとっては姫さんだ。」
なんだろう・・・?この気持ち・・・
小さな背に触れてたい。抱きしめたい。
この男を大切にしたい。抽象的でもやもやとした気持ち。
「新ちゃん。こっちむいて」
新ちゃんは手を顔から剥がしそして深呼吸。無理に落ち着こうとでもしているのだろうか?
「新ちゃん」
観念したようにこちらをゆっくりと振り向く。
私の目にはその動作がひどく緩慢に映る。
新ちゃんの唇にそっと口付ける。
体が勝手に動く。
新ちゃんは驚き後ろへ倒れる。目は見開いたまま固まる。
私はその目を見て自分のしたことに気がついた。
不確かだ。私が新ちゃんをどう思っているか。なのに・・・
「新ちゃん。私、分かんないよ。でも可愛いって言って欲しいよ。新ちゃんの姫さんでいたい」
これが私の確かなもの。はっきりとしていない・・・でもこれははっきりとした。
新ちゃんの隣にいたい。
どんな形でもいいと思った。
あなたのヒメさんでいたいです。
これはオヤジ高生のささやかな願い―――――
完結しました。ここまで読んでくださりありがとうございます。最終話を書くのはこれが初めてのことで喜びも大きいです。
ですがまだまだ鍛錬が足りません。より良い作品が書いていけるよう努力していきます。