ただいま、桜木町
桜木町は、やはりカップルで賑わっていて、
楽しそうに男が、彼女の買い物袋を、
『持つよ』と奪っていく。
駅から山下公園へ行く途中のこの橋で立ち止まる。
4年前、この橋で彼女に振られた。
『ごめん。私の好きな直也じゃないから、もう』
そんなトラウマの地に、俺は転勤してきてしまった。
だけど久しぶりの横浜に初恋の時のように緊張し、
不思議とうきうきもしていた。
山下公園を歩いていると、やはり桜並木は海とぴったり合って、なんだか美味しそうでお腹が減ってしまう。
俺の卒業した大学の学生が、花見をしている。
懐かしい。
だんだん、その花見をしている学生が、過去の自分たちにすり替わっていった。
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「おい!直也さっきから黙ってんなよ!」
雄二がずっと、野次を飛ばしてマジうざい。
「お前、俺と2人の時はずっと『おっぱいは世界遺産』ってたろ?!」
「やだ、なにそれ」と仁美が俺を見ながら言う。
「ち、ちがう」
「俺もお前が、『女大好きすぎて、女になりそう』
って言ってるの、聞いたことあるわ」
と、和也がわざと真剣な顔でエピソードを増そうとしているのが、本当に勘弁してほしい。
結奈が、「もう直也君は、異性として見ないことにした」と笑いながら言う。
「うちも〜」と、茜が言う。
「いや、お前ら盛りすぎだって」と俺が焦っている隙に、「今年も頑張りましょう。乾杯〜〜!」とみんなが勝手に乾杯を始めて、みんなくすくすわらう。
映画サークルを立ち上げた、初めてのみんなでの
飲み会。
「部長だれにすんの」と雄二、
「ん、まあこのサークル作ろうって言った、直也でしょ」
「いやいや、和也やる方が」
「じゃあ、部長は直也ということで、
乾杯!」
乾杯〜〜と2度目の盛り上がり、
「これから、幹事兼部長よろしく」とくすくすわらいながら、和也と雄二が笑う。
「せけえぞ」
そんなこと言いながらも、この居場所はすごく楽しくて、
春匂いと、桜越しのランドマークタワーになぜか心がうきうきしていた。
映画なんて一回も使ったことないけど、
みんなでやれば、できそうな気がしていた。
サークルだって、こんな人が集められると思ってなかったから。
大学のキャンパス。
すっかり桜が咲いて、映画とかに出てきそうな大学のサークル勧誘が始まっていた。