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自宅警備員=ニートではない  作者: 七城 七瀬
第一章 希望に溢れる三千世界
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誘い

 俺ら兵士の就業時間は九時から十七時。公務員か。


 現在の時刻は十六時を過ぎている。これから別の場所に向かうとなれば帰れるのは17時を超える恐れがある。俺らは一分たりとも残業なんてしない。俺らにそんな社畜みたいな発想はない。まぁ、帰っても特にすることはないんだが……。漫画読んでラノベ読んでアニメ見るだけだ。だが、原作者達がこぞって地下にこもったので続きが読めない。それならまだマシな方。ゾンビになっちゃったせいで永遠に続きが読めなくなる作品も多い。マジ辛い……。作者の死は自分の死以上に辛い。


「じゃあ残り時間はその辺ブラブラするか」


 おい、サボってるみたいじゃないか。


「私もう帰りたいんだけど。眠いし」

「まだ夕方なんだけど……」


 時間の感覚が麻痺している。ニートにはよくあること。


「十七時までは外にいろよ。バレたらうるさく言われるぞ」

「じゃあ寝るから理人か要のどっちかおんぶして」


 職務放棄してんじゃねーよ。義務を果たさないくせに自分の意思を主張する。これがゆとり教育が産んだモンスターか。これだからゆとりは困る、俺もだけど。


「俺箸より重たいもの持てないんだ。要、お前に任せた」

「箱入り娘かお前は。左手に持ってる刀はどう説明する?」


 ぽいっ。


「刀捨てた! マジかお前! 刀は武士の魂じゃないのか!?」


 何言ってんのお前。こんな鉄の塊に魂宿るわけない。ただ単に字面が似てるだけだ。


「武士じゃないし、そもそも俺の腕力じゃ珠理はキツいって」

「ちょっと! 私がデブみたいじゃない! めちゃめちゃスレンダーよ!」

「余計なとこもな」

「っ! わ、私隠れ巨乳だし!」

「隠れすぎて行方不明なんですけど! 捜索隊はまだですか?」


 そんなやり取りをしていたらいつの間にか十七時を過ぎていた。いつもこんな感じで一日が終わる。俺ら怠けてるな……。まぁ、平和だったということで。

 街は今日も異常なしでした。




 そして翌日。


 部屋に差し込む日差しで俺は目を覚ました。

 爆発音が聞こえてこない朝というのは素晴らしい。発砲音も聞こえない。平和な朝だ。こんな朝は久しぶりだ。もしかしたら、今まで長い夢を見ていたのかもしれないと思ってしまいそうになる。


 だが、俺は知っている。この期待が泡沫のように消えることを。

 俺は知っている。このカーテンを開け、外の様子を見るとすぐにゾンビが目に入ってくることを。

 俺は知っている。今のこの世の中に平和という概念が存在しないことを。

 俺は知っている。朝の静けさが嵐の前の静けさと同じものだということを。

 さて、心の準備もしたし、思い切って外を見るとしよう。


「……あれ?」


 部屋の窓から周囲を見渡すと、そこには誰もいなかった。……おかしいな。いつもなら俺が起きてくるのを待ってくれているゾンビが何体かいるのに。

 出待ちなしとか辛い……。毎朝、芸能人気分で家を出ていたのでゾンビがいないと自分の人気が下がった気がしてしまう。ゾンビキラーの俺なんて嫌われて当然なんだけど。少し寂しさを感じながら俺は今日も戦場に向かう。


 いつもの待ち合わせ場所に着くとすでに三人がいた。


「おはようみんな、相変わらず早いな」

「理人おはよぉ。聞いてよ、今日ここに来るまで一体もゾンビに会わなかったんだよぉ。しかも三人共。珍しいよねぇ」

「え? みんなも? 実は俺もここに来るまで一体も見かけてないんだ」

「昨日鈴さんも言ってたけど、この最近この地区のゾンビって少なくなったよな?」

「倒しすぎたんじゃないの?」


 それはないだろう。だって俺らほとんどだらだらしてるだけだし。

 それなのに実際少なくなった。数が減ったかどうかは置いとくとしても姿は見なくなった。事実、今日は一体も見かけていない。


 以前は角を曲がればゾンビと激突するというラブコメみたいなことが日常茶飯事だった。それなのに今は角を曲がっても誰もいない。いない方がいいんだけど。そして今日は一体も見かけていない。思い返せば、昨日も死体回収をしている時からゾンビは見ていない。

今朝のように、突然いなくなったら寂しい気持ちになってしまう。押してダメなら引いてみろ理論だな。やだ、ゾンビったらお茶目さん。


「どっかに隠れてるんじゃないの?」

「ゾンビって知能ないだろ」


 地下にこもった研究者達の実験結果からするとゾンビにまともな知能はないらしい。それどころか視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感全てないらしい。ゾンビには何もない。


 ただ人を襲うだけだ。

 ただ人だけを襲う。

 それだけが唯一の知能と言っていいだろう。


 どういうわけか生者と死者を認識でき、人間とそうでない生物を区別できる。まるで人間を殺すために生まれたような存在だ。人間を殺すために死んだと言ったほうがいいのかもしれない。現に犬や猫、鳥、魚などの生物には指一本触れない。カラスとかそこらに転がった死体つついてるし。それ食って大丈夫なの? って思うが全然大丈夫そうだ。ピンピンしてる。こうなってくると人間なんかより動物の方がよっぽどたくましい。


 人だけを傷つけ、死者へと変えるゾンビ。

 謎は深まるばかりだ。


「たまには遠出してみるか?」


 俺らは基本的に遠出はしない。ゾンビが来るのをひたすら待つ主義だ。なぜなら帰れなくなる恐れがあるからだ。野宿することもできるが危険すぎる。暗闇の中では仲間とゾンビを区別しにくくなる。どこから来るのかもわかりにくい。振り返ったらすぐ近くにいましたということもあるらしい。それが原因で壊滅したチームも多い。なので九時から十七時までという就業時間がある。


「そうだな。まだ午前中だし遠出してみるか」


 俺らの勤務地は東西南北の四つの地区にわけられ、俺らと同じフォーマンセルの兵士たちがゾンビと戦っている。俺らが勤務している場所は東地区に分類される。他の場所も同じようにも三つか四つにわけられている。


 今いる場所は八十八町という場所だ。隣の千代浦町に向かうとしよう。千代浦町も東地区に分類されるが、俺たちはめんどくさがって今まで行ったことがない。


「なんだかピクニックみたいだねぇ」


 ……こんな殺伐としたピクニック絶対無い。

 そう思いながら俺たちは珍しく他の街へ向かう。


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