5.笑顔男
ひょい、とダンゴを口の中に入れる。
ぬちょ。ぬちょぬちょぬちょぬちょ。
……………。味が、ない。そして、食感が気持ち悪い。なのに、変に口の中に残る。
美味しくない。……薬だから、当たり前かもしれないけど。
ぬちょ……。
いやいや、ホントに気持ち悪い、吐きそうかも。いや、吐きたい。ぺってしたい。
「う………。」
じんわりと、涙が出る。まずい、もう駄目。
……私は、出されてた水で、一気に流し込んだ。でも、……水が、めちゃくちゃ冷たかった。
「げほっ、げほぅ」
……………むせた。
神楽ちゃんが、心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫?」
ごほっ、ごほ。ちょい、待ってね。私は神楽ちゃんの前に手を出して、「待って」のポーズ。
「は、い。けほ、問題ありません。」
…………おかしいなぁ、神楽ちゃんは、この薬を普通に食べてたと思うんだけど。私と神楽ちゃんとで、出されてたものが違ってたら、ちょっと怒るんですけど。
その後も、何度か咳をしてから、喉を落ち着かせる。あー、もう、嫌になるんですけどー。
「………落ち着かれましたか?」
ニコニコしながら、笑顔男が話しかけてきた。おぉ、言葉が理解できる、素晴らしい。
でも、……私に言ってるんだよね、はぁ、答えたくないわ。あのニコニコが、心底、嫌。ただただ、嫌なのよ。なんで、とは聞かないで。私にもわからないから。
はぁ。心の中でため息を吐きつつ。
「はい、もう問題ありません。」
と答えて、頭を下げて礼をしておく。うむ、顔を見なくていいって、すんばらしい。ずっとこうしてようかな。
「どうか顔をあげて下さい。……丸薬はどうでしたか?」
……ち、やっぱり顔はあげなきゃ駄目か。
ダンゴがどうだったか、だと?めちゃくちゃマズかったわよ、当たり前でしょうが、あんた私がむせてたの、見てたでしょうが。…………まぁ、むせたのは、水の冷たさにに驚いたからだけど。
せめて、味がついてたらなぁ。まだ食べられたでしょうけど。
顔をあげて、答えようとしたら、神楽ちゃんに先を越された。
「えっと、抹茶味で、おいしかったですよ。」
なん、ですって。抹茶味!いいなぁいいなぁ、………………ずるいなー。
って目で神楽ちゃん見たら、壁際でずーっと頭をさげて礼をしていたフード男たちが、だんだんと、騒然とし始めた。
「おい、聞いたか、あれが、うまいだとよ。」
「あんな丸薬、よく、うまいとか言えるよな。」
「信じられん、これが異世界人、巫女の力なのか……?」
「あの娘、どれだけの魔力・才能があるんだよ……」
「とりあえず、これで国が助かるぞ!」
…………。待って、やっぱりこのダンゴ、美味しくないのが普通なの?
で?魔法の才能によって、味が変わる?ちょい、女性にそんな謎の薬を食べさせるなよ………。
おいしい、イコール、魔法の才能有りってことは、おいしくなかったら、魔法の才能がない、のかな?つまり私は、魔法の才能がない、と、いうことに………。
………うぅ、魔法、憧れだったのに。ひどい……、ひどいわ、レイカさんにも魔法の才能がありますよと、誰か言ってよ……。
なんてことを考えていても、あちらの方々は、次々に驚きをあらわにしていく。
騎士団長(推定)は、「こりゃ驚いた」とか言ってるし。蒼髪のおじさまは、目を細めて神楽ちゃんを見てるし。
笑顔男は、変わらず笑顔だし。………えぇー、怖。怖いんですけど。
そして、その笑顔男が動いた。スッと両手を出して。
______パンっ
と、手を合わせ。
「静まれ。」
と、たった一言。………それだけで、耳が痛くなるほどの静けさを覚えた。……………いやいや、怖い、怖すぎる。始終笑顔なのが、怖すぎる!きっと、深緑フードと、フード男たちは後で怒られるんだわ、プルプル震えてるもの。
そして、神楽ちゃんに、
「名前を教えてもらってもいいですか?」
と、問いかける笑顔男。
……………よし、自分から名乗れと言うのよ、神楽ちゃん。それがきっと、ベストアンサー。
「えっと、睦月神楽です。ムツキが名字で、カグラが名前です。あなたのお名前も、聞いてもいいですか?」
あら、普通に返したわね……。
「もちろん、いいですよ。私は、フラウス。フラウス=ジュス=カヨボンド。カヨボンド国の第一王子です。」
ふーん、王子、ねぇ。まぁ、なんとなくそうかもな、とは思ってたけど。
………ところで、私、人の名前覚えるの苦手なのよね。と、言うことで、まったく他意はないけど、「フラ(←)フラしてたら臼(←)で殴られた」って覚えるわね。…………本当よ、他意はないわ。
……それにしても、普通、臼で殴られたら死ぬわよね。というより、よく持ち上げたなってカンジですわー。やばい、想像したら笑える。トップ記事は、こうね。「王子、なぜか臼で殴られる」