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 助けて、と飛び込んできた友人をジェニは目を瞬かせて迎え入れた。慌ただしく走ってくるのも珍しければ、手放しですがられるのも珍事だ。

 なにごと、と思うよりも、なんか楽しそうだな、という予感の方が勝った。

 用件は、買い物にいっしょに行ってほしい、だった。

 何で、と聞けば、かなりためらってからレーの身に起きた今朝の大事件を途切れがちに話し始めた。




****




 いきなり世話焼きになった聖騎士に、買い物をして来いと脅された。ざっくりまとめればそんな事情を、ぽつぽつとレーは語った。一応分かったけれども……ジェニはいまいち納得出来ない。

「レーちゃんは……」

「うん」

「いつの間に聖騎士セアと仲良くなったの?」

 関わりがあったのは知っている。悩みながらごたごたしてたのも知っている。が、まさか関係が継続しているとは知らなかった。

 だってレーは、面倒が嫌いなのに。

 近くにいれば確実に面倒になりそうな相手と、まだつながっていたのが驚きだ。

「仲、いいかな……」

 非常に疑問、な顔でレーが首を傾けた。確かに、とジェニは言い換えた。

「じゃあ、なんでお付き合いしてんの?」

「話せば長いことながら」

「全然かまわない」

 構ってほしかったのだろうが、今日は休みなのだ。十分時間はある。

 やっぱり途切れがちに、レーはバネスの一件を話した。ちょっと取り付かれて、なんて変な言い方だが、要は勝手に付きまとっていた男がいたとの事。

 へえ、とジェニは感心した。

「勇気ある~」

 つい口に出すと、レーが怪訝な顔した。気にしないで、と躱した。いろいろ説明はされたが、つまりは。

「虫よけ?」

「むし、かな。うん。まあでも……そうかな?」

 それにしてはセアの態度が変な気もする。

 ただの虫除け相手に、そこまでするのだろうか。というか、よくまあ虫よけなんて引き受けたな、というのが正直なところだ。

 ちらり、と童話じみた聖女と聖騎士の物語が頭をかすめた。

 いやいや。とさすがに霧を払うように否定する。いくらなんでも、冗談すぎるだろう。

「……それだけ?」

 突っ込めば、明らかに何かあります、という渋い顔になった。

「ええと、その……あとは諸事情ありまして……じゃ、だめ?」

 どうしても言いたくないらしい。なら、無理はしないのがジェニだった。

「いいよ。レーちゃんなりに理由があるってのが分かったし」

「じゃ、申し訳ないけど」

「うん。早速今日行こうか」

「今日っ!?」

「だって休みじゃん。二人とも。早い方がよくない?」

「よ、よくない……」

 引き攣った顔が出来るなら買い物も行きたくないのだと告げている。が。

「だってうかうかしてると、聖騎士セアが買物しちゃいそうだよ?」

 話の端々からうかがえる聖騎士の勢いを、きっと甘く見ない方が良いとジェニは判断した。

「……行く」

 もっともな言葉に、苦りきって……本当に仕方なさそうにレーは立ちあがった。聖女の支給着では、少々不便なので、二人して適当な服に着替えた。

「まあ、でもレーちゃんの服買うのは、賛成だな」

「そ。そう?」

「だってひどいもん」

「ひ、ひど……そんなに?」

 かなり衝撃を受けた顔で、レーが固まる。ジェニは容赦なかった。

「だって外行きの服を持ってないんだもん。神殿でだって、代わり映えしない支給着を二、三枚で着まわしてるし」

「え……だってみんなと同じ」

「同じ? レーちゃん本気で言ってる?」

「??」

「あ、知らなかったんだ」

 まあ、ずっと神殿で暮らすレーには、ちょっとハードルが高いかもしれなかったが。

 ジェニからすれば、『見ればわかる』のだ。

「あの気位高いオネーサマ方がほんとにただの支給服をはいそうですかって着ると思ってる?」

「う……」

 言われてみれば……とレーは今さらに思った。

「そんなバカな事が」

「あるわけないでしょ」

「うん」

 にこっと笑えば、素直な返事が返ってくる。

「だから、あれはたしかに同じに見えるけど、全然違うの。素材も、金額も、ほんとにまったく」

 気を付けてみれば、とある聖女の布地には透かし織りで文様が浮かんでいたし、別の聖女には豪奢な刺繍が細かに施されていた。裾も、袖も、襟元にも。

 その辺の審美眼は……割とジェニは確かだった。

「ちなみにジェニは」

「あたし? そのままの時もあるけど……ちょっと見栄張るとき用のもあるよ。大体、支給服って別に着なきゃいけないものでもないし」

「規則は……ないね」

 ちょっと記憶を探って、レーはその通りだと頷く。

「なのに似た服着ているのは、ただ単に聖女の一番近いイメージでこの服になってるせいだよ」

 白を基調とした布地。袖は七分ですこし広がりがあり、丈は膝とくるぶしの間。裾と袖には神殿の刺繍が、銀に近い灰色で刺されている。

「これ着てれば聖女。聖女でなくてもなんちゃってにもなれますっ」

「なにそれ」

「あたしがよく使う言い訳。酒場とかで聖女かって聞かれたらそう答えるの」

「ジェニ……」

「うっかり着替えないで行っちゃったときだけだよ」

 えへ、と誤魔化すジェニに、レーは頭痛がした。

「とにかく……行きますか」

「りょうかい」

 全然楽しそうじゃないレーを連れて、ジェニは昼間の街に繰り出した。





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