青鬼の恋
妖怪の血を引く青年の孤独な葛藤。
彼は鬼だった。
悪人を指して言う比喩の類でなく、妖怪の類を示す言葉通りの鬼だった。
彼の曾祖父に当たる生粋の鬼が人間の娘と恋に落ち、以来彼とその子孫は妖ならざる人の世に身を置いて生きていた。
その鬼の息子である彼の祖父も、その娘である彼の母も、伴侶としたのは人間だった。
故に、彼の身体に流れる人ならざるものの血はごく微かなものである。
微かなはずであるのに、彼はどうしてか、親類の誰よりも、曾祖父に似た身体を持っていた。
つまり、鬼に似ていた。
あるとき、彼は恋をした。
鬼に似た身体を、その気性をなんとか人の子の枠に押し込め、通う学び舎で彼は恋をした。
さして目立たないながらも、彼の目には星のようにきれいに映る娘だった。彼はいたく苦心し、彼女と想いを通わせた。手を取って出掛け、自分に向けてくれる笑顔が、声が、彼女の全てが彼は好きだった。
彼は泣いていた。
彼女と逢った日の夜、誰もいない彼の部屋の隅で、彼は泣いていた。
彼女と恋をすればするほど、自分の中の鬼が囁く。
彼女を、喰らってしまえと。
彼女の柔らかい頬が好きだった。
(牙を立ててちぎってしまいたい)
彼女の細い指が好きだった。
(爪を突き刺して切り裂いてしまいたい)
彼女の少し色の薄い、眦の上がった目が好きだった。
(抉って飲み込んでしまいたい)
灯りのない深夜の静寂のなか、彼はかすかに突起のふたつある前髪の生え際を抱えた。
涙で手が滑る。悲しみに涙がこぼれるのは紛うことなき人の性だ。
それなのに、こんなにも人になりきれない。
Tシャツを着て、ジーンズを穿いて、人であろうとこんなに努めているのに。
ああ、どうして、どうして自分は、
彼女を守りたいと思わないのだろう。
ああどうしてどうして、
彼女を引き裂くことばかり考えるのだろう。
彼は曾祖父を呪った。
あなたが人の子と恋に落ちなければ俺は、こんな苦しみを知りはしなかったのに。




