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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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青鬼の恋

作者: 文村 奏
掲載日:2014/09/28

妖怪の血を引く青年の孤独な葛藤。


彼は鬼だった。 


 悪人を指して言う比喩の類でなく、妖怪の類を示す言葉通りの鬼だった。


 彼の曾祖父に当たる生粋の鬼が人間の娘と恋に落ち、以来彼とその子孫は妖ならざる人の世に身を置いて生きていた。


 その鬼の息子である彼の祖父も、その娘である彼の母も、伴侶としたのは人間だった。

 故に、彼の身体に流れる人ならざるものの血はごく微かなものである。


 微かなはずであるのに、彼はどうしてか、親類の誰よりも、曾祖父に似た身体を持っていた。

 つまり、鬼に似ていた。



 あるとき、彼は恋をした。


 鬼に似た身体を、その気性をなんとか人の子の枠に押し込め、通う学び舎で彼は恋をした。

さして目立たないながらも、彼の目には星のようにきれいに映る娘だった。彼はいたく苦心し、彼女と想いを通わせた。手を取って出掛け、自分に向けてくれる笑顔が、声が、彼女の全てが彼は好きだった。




 彼は泣いていた。


 彼女と逢った日の夜、誰もいない彼の部屋の隅で、彼は泣いていた。


 彼女と恋をすればするほど、自分の中の鬼が囁く。




彼女を、喰らってしまえと。




 彼女の柔らかい頬が好きだった。

(牙を立ててちぎってしまいたい)


 彼女の細い指が好きだった。

(爪を突き刺して切り裂いてしまいたい)


 彼女の少し色の薄い、眦の上がった目が好きだった。

 (抉って飲み込んでしまいたい)




 灯りのない深夜の静寂のなか、彼はかすかに突起のふたつある前髪の生え際を抱えた。


涙で手が滑る。悲しみに涙がこぼれるのは紛うことなき人の性だ。

それなのに、こんなにも人になりきれない。

Tシャツを着て、ジーンズを穿いて、人であろうとこんなに努めているのに。



 ああ、どうして、どうして自分は、


 彼女を守りたいと思わないのだろう。


 ああどうしてどうして、


 彼女を引き裂くことばかり考えるのだろう。



 彼は曾祖父を呪った。




 あなたが人の子と恋に落ちなければ俺は、こんな苦しみを知りはしなかったのに。



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