008話
、結局一日をダラダラと過ごして潰した。
溜まっていたゲームを消化し、片手間にソシャゲの体力を消化。
実に有意義な時間だった。
社会人になってからは仕事に追われてばかりで自分の時間がなかった。
たまにはこうして過ごすのも悪くない。
SSを読みながら時計を確認すると既に12時近くになっていた。
「ぼちぼち、か」
誰に聞く訳でもなく一人で声に出して改めて確認する。
また始まるのか…。
ソファーに凭れ、天井を見上げる。
後数分もしない内に意識が落ちるだろう。
次のゲームは何だろうか。
案内人は徐々に難易度を上げていくと言っていた。
二日目の難易度、初日の昨日よりかは難しいのは間違いないだろうが難しいのベクトルによって判断が変わる。
そんなことを考えながら運命ゲームの始まりを告げる睡魔に身を委ねた。
-二日目-
気がつけば昨日と同じように教室にいた。
辺りを見回しても人の気配はしない。
今日も一人でのスタートのようだ。
勝手が分かる二日目の最初、初日は余り動けなかったが今日は呼び出しを受ける前に体育館へ行ってみることにした。
校舎内部の間取りはあらかた記憶している。体育館の場所も同様だ。
体育館に向かっている最中、他の参加者と廊下で鉢合わせした。
「あー…どうも、昨日ぶりですね」
「おー兄ちゃんか。久し振り」
ヤンキー風の若者は俺を見ると片手を挙げて挨拶をした。
初対面の人にはそれなりの礼儀を持って接する、社会人の常識だ。
「すいません、ちょっとお名前の方失念してしまったんでもう一度教えて頂けませんか?」
「須藤だ。23歳。兄ちゃんの方が年上だろ? 堅苦しい敬語は辞めてくれ。普段通りに接して大丈夫だ」
「…確かに、俺の方が年上だ。悪いがそうさせて貰う」
俺の四つ下だったのか。
昨日の様子を見る限り初対面にしては馴れ馴れし過ぎるだろ。
「すまんが兄ちゃんの名前も教えてくれ。正直昨日した自己紹介は殆ど覚えてないんだ」
須藤は申し訳なさそうな顔で言っているがあの後にゲームがあったのだ。
そんなことを記憶している程の余裕がなかったことは充分察することが出来る。
「高橋、高橋律だ。高橋で構わない」
「高橋ね、一応さん付けした方が?」
「面倒だろ。呼び捨てで構わん」
「助かるよ、年はいくつなん?」
「27だ。お前から見たらおっさんになるのか?」
須藤は長い金髪を邪魔そうに後ろで縛っていた。
馬の尻尾にも見える髪の毛が須藤の動きに合わせて揺れるのが面白い。
「いや見た目は凄く若い方じゃね? 最初見た時10代かと思ったよ」
まぁ…確かに年齢確認はよくされる。
「童顔じゃん」
人が気にしていることをズケズケと土足に泥を付けて踏み込んで来る奴だ。
苦手なタイプなのは間違いない。
そんな須藤を伴い再度体育館へ向かう。
須藤も呼び出しを受ける前に体育館へ行く最中だったようだ。
途中、すれ違った教室の中に他の参加者が扉の窓から見えたが敢えて無視をした。
関わり合いを持った所で俺にメリットは無い。
下手に親しくなると死んだ時の感傷がデカくなる。
デメリットだらけなので声を掛けようとした須藤を抑え通り過ぎた。
今のところはこいつ一人で充分だ。
体育館へは普通に入れた。
てっきり呼び出しをされるまで開けることは出来ないと思っていたがそんなことはなかったようだ。
靴を履き替え館内に入るが俺と須藤以外は誰もいなかった。
「俺たちだけ、か」
「まぁ俺や高橋が異常なだけで誰も自分から行動を起こそうとは思わんでしょ」
一理ある。
動いていようと待機していようと特に何か変わる訳でもない。
「そういうこと。時間までのんびりしとく? 倉庫とか色々調べる場所あるけど一応見ておくか?」
成る程、確かに体育館の壁には倉庫と思われる扉があった。
須藤の提案に乗り、倉庫を調べることにする。
「まっ、予想通りの倉庫って感じだろ。むしろ倉庫以外に見える奴がいるんなら小一時間問い詰めたいわ」
鍵は掛かってなかった。
南京錠が付いていたが鍵穴は潰れているようで塞がっている。
「バレー関係の道具やバスケのボール…まぁどう見ても普通の倉庫で確定」
須藤は跳び箱に座りながら辺りを見回している。
色々と調べてみたが本当にただの倉庫なようだ。
「須藤、バスケは出来るか?」
「簡単なルールなら知ってるぞ。まぁ人並みには出来ると思うけど…」
上々だ。適当なボールを拾い、須藤に投げる。
「バスケ、しようぜ」
「………は?」
やることもないので須藤とバスケをした。
球技全般は得意な俺の圧勝だったがなかなか楽しかった。
「人並み以下だったな」
「お前が無駄に上手いんだよ…。こんなに動いたのは何年振りか分からんわ」
「そうだな…俺も仕事ばかりで体を動かすようなことはしてなかった。休みの日は基本的に室内で過ごしてたしな」
「社会人になりゃみんなそんなもんよ…学生の頃は何の部活やってた?」
部活か…。
帰宅部なので青春の思い出は皆無だな。
「帰宅部でこれ? バスケやれば良かったんじゃね?」
確かに、当時は様々な運動部から勧誘を受けてた。
体を動かすのは好きだ。嫌なことを忘れられるからな。
息を整え、休憩がてらの世間話に花が咲く。
暫く雑談してると例のチャイムが鳴った。
昨日と同じ、何とも言えない複雑な音声が生徒は体育館へ集合する旨を伝えていた。
「そろそろだな」
「まーた始まんのかよ…」
随分と嫌そうな顔をしている須藤。
何かあったのか?
「昨日のクイズが酷かったんだよ。多分、人によって内容は違ったと思うけど」
ほう…そうだな、そういえば他人のクイズに関しては盲点だった。
「俺の方はよく分からん少女と狼の三択だったよ。しかもタチの悪い引っ掛け問題。運転免許の試験並みにタチが悪かった」
我ながら素晴らしい例えだ。
「あー悪い、免許持ってないんだわ。俺は東京住みだから。だから高橋の言ってるこもは良く分からん」
………。
「それで? どんなクイズだったんだ?」
「簡単に言うと幼馴染や親友が出て来て殺し合いをする場面での三択」
それは…また随分とスプラッタな場面だ。
「だろ? しかもそれをおっ始めてやがってさ、その途中で止まったんだけどその止まるまでの間に親友は腕を一本切り落とされて幼馴染は足首を切断されたからな…」
相当な得物を二人とも持っていたんだろうな…。
多少悪質だったが、健全なクイズだった俺は運が良かったのか悪かったのか、判断に迷う。
その後運命ゲームに関する記憶をリアルに引き継ぎが出来ることを須藤に話し、現実世界でも合う約束を取り付けた。
須藤は東京、俺は神奈川。
充分会える範囲内だ。
だが須藤の方は運命ゲームの記憶を引き継いでいない。
その状態で会いに行っても初対面だと須藤は思うだろう。
そこで誰にも知られていない秘密を合言葉にするようにした。
そのことを言ってくれれば俺はきっと信じる、とのことだ。
「それで、その合言葉はどうするんだ?」
「俺には姉がいる。その姉が寝ている隙を狙ってキスをしたことがあるんだ。それを話してくれれば大丈夫だ」
「…実姉相手に欲情か、理解出来ん」
「ガキん頃の話だよ!」
男兄弟で育った俺には縁の無い感情だ。
だが姉や妹と肉体関係を持っている人間は表沙汰になっていないだけで腐る程いる。
無論、同意か強引かの違いはあると思うが。
「分かった。覚えておく」
「本当に誰にも言うんじゃねーぞ!? 今はそんな感情一切ねぇからな?!」
そこは別にどうでも良い。