004話
三択クイズ。
本当にこいつは適当だな。
案内人ってのはこんなのばっかなのか?
「心外だな、私はこれでもマトモな部類だよ?」
これ以上酷い案内人…想像出来ない。
まぁ知っていたらそれはそれで驚きなんだがな。
「それに適当に決めている訳じゃないさ。きちんと段階を考えてこの先の展開も想定してるしその為の仕込み的な要素も含んだ上での三択クイズだからね」
それなりに考えているようだ。
命が懸かっている、生半可な態度でこの先の俺たちの運命を決められては困るのだ。
「遮ってすまなかった。続けてくれ」
「いやいや、構わないよ。さて、クイズに関してだけど、君たちにはこれから脳内イメージを見てもらう。その最中に一時停止する場面があるんだけど、その場面において最も最善だと思われる選択をして欲しい」
「………それだけか?」
「そう、それだけだ。他に難しいことは何もない。先程挙げた選択も三つの選択肢の中から選ぶだけだ」
ヤンキー風の男が案内人に猜疑に満ちた視線を向けている。
勿論俺も案内人の言葉を鵜呑みに出来る程お花畑な頭を持っていない。
何かしらの罠がありそうな気がしてならないのだが…。
「あぁ…本当に今言った通りだよ。そこに何も悪意はない、信じてくれ」
今この状況下に強制的に連行されたこちらとしてはとてもじゃないが信じられない。
他の面々も同じようだ。
先程適当ではないと言っていたが…話を聞く限りやはり適当なイメージを払拭することが出来ない。
「とにかく話を進めるよ」
だがどうせ逃げれる環境ではない。
信じようと信じまいと俺には何も出来ないのだ。
何よりここで嘘をつくメリットが案内人にはない。
その気になれば今この瞬間に俺たちを文字通り瞬殺出来る力を持っていてもおかしくないし、そんな奴が嘘をつく必要性は存在しない。
ひとまず先程の案内人の言葉を信じるとして続きの話に耳を傾けることにした。
「一人ひとりが見る脳内イメージは全部違う映像にする予定だよ。どんな感じに進むのかっていうと、さっき言った通り君たちにはある映像を見てもらう。その場面には君たちも存在してるんだけど何も触れないし動くことも出来ない。まぁ要するに大人しく映像を見ていろってこと。勿論他の人や動物、センサーも含めて君たちを認識することは出来ないから安心して映像に集中して欲しい」
ふむ…アニメなんかによくある過去の回想的な感じか?
「おっ、そうだね、君の言うような感じだと思ってくれて構わないよ」
だいたいは理解出来た。
というか案内人、アニメ見たことあるのかよ…。
「アニメはいいね、人類の宝だ」
どこか聞いたことのあるセリフを笑顔で話す案内人。
まさかのアニオタである。
「っと、脱線したね。続けるよ?」
未だにその正体が謎の案内人。
そのアニオタという一面を垣間見たような気がする。
知らなくていい情報だと俺は思うが、他の参加者には何か人間らしさを感じたのだろう、どこか安堵した表情を浮かべている。
というか全員がアニメに対しての理解があるということに驚きを隠せない。
「一時停止する場面は人によって違う。そこらへんは各自で判断して欲しい。一時停止すると空中に三つの選択肢が浮かぶからどれか一つを心の中で選ぶ、それだけだよ。正解ならこの場に帰って来れるはずさ」
「もしも不正解なら?」
俺の問いに全員が緊迫した表情を浮かべる。
「死んで貰うよ」
表情を変えずに話す案内人だがその内容は全員にとって予想外だったらしい。
無論、俺にとっては想像の範疇だったので対して驚かない。
「おっと、この件に関しての質問は受け付けないよ。これは既に決定事項だ、覆ることはない」
口を開こうとしていたヤンキー風の男が再び閉じた。
現実離れしたこの状況に思考が付いていかないのか、女性陣は惚けている。
投げやりな空気感が館内を支配してる感が否めない。
「仮に不正解者が複数名存在してる場合は不正解者だけでクイズを繰り返してもらうよ。一人になるまでそれを繰り返して最終的に最後まで負け残った人はゲームオーバー」
矛盾はないし理解も出来る。
理に適っている。
「質問疑問はあるだろうけど全ては無意味なこと。というわけで、行ってらっしゃい!」
始まりと同様に俺の意識はブラックアウトした。
気が付くと俺は森の中にいた。
薄暗い森の中だ。
木々の隙間から申し訳ない程度の僅かな木漏れ日が差し込んでいるだけで他に光源は存在しない。
俺の体で唯一動く部位は眼球だけだ。
案内人の言った通りで何も出来ない。
となると、俺の存在は誰からも認識出来なく、物体が当たってもそのまま通過するのだろう。
暫く辺りの様子を窺っていたが本当に何の変哲もないただの森のようだ。
自然林か人工林か、そんなどうでもいいことにまで思考が及ぶ。
自生している木々の種類にまで思考が及んだ時、変化が起きた。
聴覚は生きているようで木々の隙間から音が聞こえてきた。
足音だ、人の走るような足音が聞こえる。
それに続くように何かが追うような複数の音。
音の聞こえる先を見つめ、動かない体で思わず身構える。
音が徐々に近付き、すぐそばまで近付いてきた。
今俺がいる場所は森林の中の空いた空間、伐採されて出来たと思われるスペースだ。
テニスコート程の広さを持つここにその音の主が姿を表した。
少女が木々の隙間から走り抜けてきた。
一瞬呆気に取られるがそのあとに続いて木々を抜けて来た狼らしき生き物を見て察しがついた。
大方追う捕食者と逃げる餌の関係だろう、勿論少女が食われる側だ。
長く白い髪を振り回し少女が俺の眼前まで逃げてきた時、場面が一時停止した。