003話
「はーい! 皆さん注目っ!」
突如響いたその声は酷く場違いな程に底抜けな明るさを持っていた。
直感的に案内人だと判断する。
先程まで誰もいなかった体育館の壇上に、誰かがいた。
「はじめまして、選ばれし皆さん!私は今回の運命ゲームの案内人です。これから皆さんには運命ゲームを行って貰います」
やはり。
この白髪の少年が今回の案内人。
そしてこれから行われるのは運命ゲーム。
俺の考えは間違っていなかったようで人知れずホッとした。
だが他の面々は違ったようだ。
「ちょっと! どういことよ! そもそもここはどこ!? 運命ゲームってなんなのよっ!」
「っそうだ! つーかてめーはなんなんだ! いつからそこにいんだよ!」
女性の金切り声を筆頭に全員から声が挙がる。
内容は文句や疑問、果ては罵倒までと多種多様で呆れてしまう。
「はーい、皆さん静かにして下さーい。今回、私が案内人になったのできちんと説明を行いたいと思います。皆さんの質問の答えもそこでお答えしますので静かにして下さーい!」
だがそれでもみんなの口は塞がらない。
唯一黙っているのは自分一人だ。
「……静かにしてくれないとー…」
案内人の雰囲気が変わったのに気付いたのはきっと俺だけだろう。
先程までの朗らかな雰囲気から一転し、怒気を醸し出している。
「殺すぞ」
たった一言。
案内人のその一言で辺りは一瞬にして静まり返った。
「ご協力ありがとうございます」
笑顔で話し掛ける案内人だがその笑顔の裏には恐怖が潜んでいることを全員が身に染みて理解している。
騒ぎ立てる人はもういなかった。
改めて自己紹介がしたいという案内人は自身が今回の運命ゲームの案内人であると念を押し、説明の為に口を開き始めた。
「そもそも運命ゲームの名前すら知らない人が約一名を除いて全員みたいだから、まずはどうして運命ゲームが行われるのかを説明するね」
約一名、その言葉に全員が反応し辺りの反応を伺う。
一人だけ冷静に状況を眺めていた俺が一番怪しいと踏んだのか、キャバ嬢らしきドレスに身を包んだギャルが俺に目で訴えてきた。
「確信があった訳じゃないし確証もなかった。余計な不安を与えるくらいなら黙ってた方が良いと判断した。結果的にこうなったことは申し訳ないと思っている」
表面的に申し訳なさそうな顔をするとすぐに目を逸らした。
この手の演技は会社で腐る程経験済みだ。
出来れば一生経験したくなかったがな。
「はいはーい、お喋りはそこまで。説明を続けますよー」
これ以上無駄話を続けると冗談抜きで死にそうだ。
「運命ゲームは神の暇潰しによって開催される。まずここで君たちは疑問に思うかもしれないが神というモノは存在する。まぁ概念的なモノだけど確かに意思を持ってこの世界が産まれた時から見つめているんだ」
案内人は流暢に言葉を続ける。
「そして何十億と過ごしている内に神は暇になった。だから暇潰しとして運命ゲームが行われるようになった。尤も、選ばれる君たちからしたら迷惑以外の何物でもないだろうけど」
全くだ。
俺の声が聞こえたのか、案内人はクスクス笑っている。
「そうだね、全く迷惑な話だ。だけどその報酬には魅力を感じるだろ?」
「報酬? 報酬ってなんなの?」
制服姿の女子高生が疑問を挙げた。
夜の12時に意識を失った時点での服装で俺たちはここにいる。
俺はスーツ、サラリーマンの男は恐らく寝間着だろう。
ヤンキー風の若者は今時の服装をしている。他の人に関してもみんな私服や寝間着が殆んどだ。
そんな時間に何故制服を着ているのか、俺はむしろそこが疑問だ。
「報酬はどんな願い事でひとつだけ叶えて貰える」
「どんな願い事でも、ね」
全員がその言葉を噛み締めるかのように押し黙る。
どんな願い事…俺の願い事はなんなのだろうか。
この女子高生にこんな時間にどうして制服を着ているのか答えて貰うなんて願い事も良さそうだ。
「次に進めるよ」
ひとつ咳払いをし、空気を入れ替えた案内人が説明の続きを話し出す。
今まで以上に集中し、話に耳を傾けるみんなに現金な奴らだなと呆れた。
「運命ゲームは今日、月曜日から今週末の日曜日まで毎日夜の12時から始まるよ。例えどこに君たちがいても必ず始まる。飛行機に乗っていようと泳いでいようと車を運転していようと必ず今日のように意識を失う」
「安心するといい。運命ゲームが終わると君たちは自室で目覚めるはずだ」
俺たちはゲームの時間になると友人や知人の目の前から急に消えてなくなるのか?
色々と穴のありそうな雰囲気を感じる。
「細かい点については私も知らないよ。ひとつ言えることは神の力を甘く見ないで欲しいってこと。一人の人間を記憶から消し去るなんて欠伸をしながらでも出来るからね」
訝しむ俺たちを他所に案内人は飄々と続ける。
腑に落ちない点は多々あるが神を相手にしてその質問は不毛だろう。
人の常識が通用するとは到底思えない。
「さて、ここまでは大体把握出来たかな?」
辺りを見回すと納得いかない顔をした人が数人いるようだ。
だがそれでも文句はない。
「理解が早くて助かるよ。それじゃあそろそろ本題といこうか」
本題。
つまりは今日のゲーム内容。
死ぬつもりは毛頭ないがトチれば俺も死ぬ。
ここからは他人を蹴落とし自分だけが生き残ることを最優先した方が良さそうだ。
「長々と説明したけどこれから君たちにはその運命ゲームに参加してもらう。拒否権は勿論あるよ。死ぬけど」
それはつまり拒めないということでは?
誰もが脳裏に浮かべたその問いは黙殺された。
「今日の運命ゲームは…そうだな、クイズにしようか」
適当だな。
「初日は簡単なゲームにしろって神からのお達しがあるんだよ。あぁ、安心するといいよ、本当に簡単なクイズだから専門知識とか必要ないからね」
サラリーマンの男が一瞬口を開きかけたがそのまま閉じた。
言いたいことはなんとなく分かる。
案内人は敗者の待遇に関しては何も言っていなかった。
負けたら死ぬなど恐らく誰も考えてはいないだろう。
だが事前知識のあった俺は負け=死を既に知っている。
しかしこのサラリーマンの男を始めに他のみんなも薄々だが勘付いているのだろう。
報酬がアレなのだ、負ける方にも相応のリスクがあることを。
その中には自身の死も含まれていることを。
俺としてもクイズで死ぬなんてことはなんとしてでも避けたい。
「そのクイズの内容は?」
再度口を開いたサラリーマンから質問が挙がる。
「簡単さ、三択クイズをこれから君たちにはして貰う」