アナザーストーリー second
【???】side
「オラオラオラオラオラオラオラッ」
これだけの熱風に包まれたら、いくらあの男でも溶けて無くなっているだろう。
俺の熱風は大体2000℃に相当するんだ。耐えられる訳がない。
……はずだった。
「何故だっ何故生きている……
お、お前は何者なんだっ?!」
「お前の能力と俺の能力は根本が一緒なんだ。ただ、俺はプラスだけでなくマイナスも出来る。
その気になれば絶対零度にだって出来る。俺はただお前の熱風を相殺しただけだ。」
なんだよ……それ。そんな俺以上の能力があってたまるか。
俺はグループ最強の能力者なんだ。その俺が負ける訳にはいかないッ!
リーダーの少年が生み出した炎がミサイルの様にターゲットを目指して特攻する。だがターゲットに効果は無く、およそ10m前で無に還る。そして少年は段々部屋の気温が下がってきているのに気が付いた。
「人間の凍死する体内温度は大体27℃くらいでだそうだ。どうする?この部屋の気温を下げたのは単なる警告。お前を殺すくらいは直ぐにでも出来るんだ。選ばせてやるよ。」
「このまま凍死するか、この件から一切手を引くか。選べ」
選べと言われても既にメンバーは全員やられてる。実力差からして逆転は不可能だろう。それならいっそ一緒に死んだ方がマシ……
「ーーそうそう、お仲間さんだが生きてるぜ。お前が手を引いたら全員仮死状態から解放してやる。」
「全員……生きているのか?」
「だからそう言っている」
「信用出来ない」
「なら全員終わらせるだけだ」
冷え込んだ空気が俺の体を侵す。少しずつだが体の感覚が無くなっていく。俺はもう死ぬのか……気の置けない仲間達と過ごした日々の走馬灯。俺は仲間達の満面の笑みを思い出しながら意識を失った。
【雨宮】side
……どうしてこうバカ達はカッコつけたがるのだろうか。
とりあえず殺すと後が厄介なので意識を失う程度にした。こいつらから収穫は無かったし。まぁ期待してなかったけど。
こいつらのグループは情報捜査が得意なグループとして有名だった。念の為調べてそれが裏目に出た。
純白が消えてからしばらくして俺はあいつが“世界の理”を超え、別世界にシフトしたという結論にたどり着いた。机の鍵付き引き出しの二重底の下というまるで中学生のエロ本の隠し場所にパラレルワールドについての研究レポートが大量にあったから。あいつの行動はそれに基づいていたから間違いは無いだろう。
そのレポートによると“世界の理”を超えることは容易では無いが不可能ではないらしい。
ただ、気になるのは別世界へ行く時のあいつの発言
「いつから間違えていたんだろう」
あの時の俺は何も知らないから何が間違いかわからないが冷静に考えると何故、あの時あいつは間違いに気づけたのだろう。前例があるわけでもないのに……
この疑問については判断材料が少な過ぎる。よって今は保留せざるを得ない。
別世界へ行くのが可能とわかった俺はこの世界にあいつを連れ戻すために別世界へ行くことを決心したが問題が生じた。
どの世界かはわかったが別世界で俺の能力はどう作用するかわからない。
レポートには俺達の能力は存在して無い世界であると書かれている。
そこで俺はオブジェ作り中に見つけた歯車仕掛けのガラクタを治す事にした。どうやら初期化されたらしく、俺を創造主と呼んでいる。だが時間もなく、俺はこの子を別世界へ送った。猫又らしきものも一緒に。
あとから分かったことだがあの歯車ちゃん達には能力があったらしい。ただ隠密行動に向いた能力だったから結果オーライだろう。
そろそろこいつらが目覚める。だから退散しなければ。このまま放置でも死なない所まで回復したし、置いて行こう。
廃ビルを出ると既に朝だった。サンサンとした太陽が全身を照らす。今日は学校ないし、ゆっくりさせてもらおう。
不謹慎だが彼らとの戦闘は中々刺激的だった。おそらく俺は笑っていたことだろう。笑ったのは久しぶりだ。
狙撃手だろうか、ライフルの弾が俺に向かって来た。挨拶もなく撃ってくる狙撃手は好みではない。
弾が俺の手前50cmくらいで停止した。光の壁に阻まれて。
「おいおい……挨拶くらいしていけよな」
俺の周囲に発生した光の球体から狙撃手へ向けてレーザーの様に光が奔る。微かなうめき声が聞こえた。大方バリケード張って無警戒だったんだろう。俺にはそんなものは通じない。
単独行動は気楽でいい。ラーメン食いたいな……ここら辺きたことないしどこが美味しいんだろう。
とりあえず街まで行こうかな。
美味いラーメン屋は匂いでわかる。今日の朝は味噌の大盛りトッピング全部。豚骨がないのは残念だ。
その後は特にすることなくぶらぶらした。今日はイベント多かったし誰ともエンカウントしないだろう。安心して家に帰れる。
「ただい……おっと」
またまた言ってしまう所だった。やっぱり……淋しい?そんなわけないか。
この部屋は落ち着く。無駄が一切なく家具も統一してあってパリのデザイナーから直接買ってる。自慢しているわけじゃないはず。
気が付いたら黄昏時で真っ赤な夕陽が半分沈んでいた。綺麗と昔は思ったろう。
明日は特に変哲もない日だ。また暫し日常に戻るだろう。ただ今までと違うのは“非日常”を知ったから。おかげで日常のありがたみが身に沁みた。
夜はサラダとステーキを食べる。そしていつも通りに寝る。
“非日常”と言ったが本当の“非日常”を知るのはまた違った話。