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〜4章〜

「雨宮 猩?まるで日本人だな」

「マスターは日本人です。見ためは独特ですが」

少女が即答する。

「アナザーワールドにも日本があるのか?」

「はい。この世界のとてもよく似た構造をしています」

下の黒猫が、ふぁ~、と欠伸をかます。

歯車少女は黒猫に目線を合わせると、もふもふと撫で始めた。

少女がもふもふしてる間に俺の頭は今までの情報を整理し始める。

数十秒たってから少女は黒猫を抱え、くるりとターンする。

「後、何か聞きたいことはありますか?」

「俺の中に居るその魂とやらを出す方法はないのか?」

「今のところはわかりません。あなたにあると知った以上、あまり傷をつけたくありません」

そっか、俺の価値は中にいる奴のおかげなのか。そう言えば、雨宮 猩の名前を聞いたとき、何か引っかかるような感じがしたが、気のせいだろう。

「眠い。こいつへの説明は飽きた。さっき、登る途中で廊下が汚れてるのを見つけた。掃除してこい。今すぐだ」

黒猫が少女に向かって言い放つ。

「えー。それってジョーカーの抜け毛じゃないの?」

少女は不満そうに顔をしかめながら少し重い足取りで階段へ向かった。

少女の姿が見えなくなってから、黒猫は俺を見上げて言った。

「あの娘の失った記憶を俺は知っている。初めて会った奴にするような話ではないが、お前の中の魂に語りかければ何か変化があるかもしれないからな」

黒猫はさっきとは比にならないくらい真剣な眼差しで言った。

「黙って聞いてろよ、下等生物」

…………。


時は数年前。アナザーワールドにて一人の能力者がいた。彼の能力は傀儡を操ること。自分の視界範囲内なら自在に動かせる。彼は自分の力に溺れていた。自分が一番強いと信じこんでいた。

あたり構わず、ケンカをふっかけ、自分の強さを証明していった。

ある日、彼は一人の子供にまで手を掛けた。勝ったのはどっちだと思う?子供が勝ったんだ。彼の視界に入らない背後に素早く回りこんで倒したんだ。彼の背中を光のレーザーが貫通した。

あまりにも呆気ない勝負だった。

しかし、子供の能力では彼は死ぬことはなかった。奇跡的に急所を外れたのか、はたまた少女がわざと外したのか。それはわからない。

彼は自分の研究室に戻り、傷の回復を待った。

彼はひたすらに傀儡に改良を重ね、1体の殺戮人形を作りだした。素早さ、攻撃、防御、どれも桁違いに改良され、作られた人形。故に凶暴。その時は自我はなかった。自我なんてもてばいつ反逆されるかわからないからな。ただ、出された命令に応えるだけの殺戮人形。彼は恍惚とした笑みをこぼし、こう言った。

「ガキの泣き叫ぶ顔が見たい。奴を殺せ」


歯車人形は命令通りに働くのみ。

彼の能力で生かされた人形は与えられた大鎌を軽々と携え目標に近づく。

どこかへ向かうため、狭い路上を歩いていた少女に不意打ちをかけ、大鎌を振るう。

少女は後ろから感じた殺気に緊急回避を試みる。鎌の切っ先は少女の足をかすり、コンクリートに深々と突き刺さる。

「なんですの?あなたは。私に何かごようかしら。」

少女は冷静に状況判断をする。

歯車人形は無表情に語る。

「マスターの命令を実行する」

ただそれだけ。それしか人形にはない。

人形が鎌を地面から引き抜き、少女に向ける。大鎌はなんの装飾もなく、無慈悲。感情なき人形のよう。

少女は力を集中させる。敵とわかった以上、手加減は必要ない。一撃で仕留める。

歯車少女は特攻を繰り出す。神速で迫る刃は悪鬼。

間に合わない。そう悟った少女は攻撃から防御へ転じる。光の壁が出現し、刃が止まる。しかし人形の力は緩まない。強行突破する気なのだ。

「くっ…パワーだけは褒めて差し上げます。ですが。」

少女も力で弾き返す。人形は後退し次の構えを取ろうとする。

「隙ありですわっ!」

少女は光を壁からレーザーに転じ、空中の人形を狙う。

しかし人形はレーザーを、身体をひねりいとも簡単に避けた。その美しさはまるで舞踏。

光の速度を超えるなど、物理的にありえない。だが、復讐の念で作られた人形はそれさえ超越する。

少女は瞬時にレーザーを人形に向かって連射する。早く終わらせて彼とお出かけするのよ。

歯車人形は軌道を見極め、的確に最小限の動きで避けてみせる。華麗なステップを踏むように空中での回転。

民家の屋根を蹴って仕掛けられる刃。歯車人形の攻撃はただ鎌を振り回すだけ。それだけなのに改造によって得られた怪力は一撃一撃が重い。身体が軋むほどの火力。それが1秒数える間に数十発打ち込まれる。

互いに攻防を繰り返し、体力を消耗する。

次第に少女が押され始める。疲れ知らずの人形は特攻を続ける。少女もただ受けるだけではない。舞うように動く人形の『癖』が見えるようになってきたのだ。

屋根の上に舞い降りた人形は静かに少女を見下ろす。

少女は荒く息を切らし人形の動きを読もうとする。

暫しの静寂が訪れる。

先に静寂を破ったのは少女。

「わたくしになんの御用ですの?わたくしが猩のために作った時間は返してもらえるのかしら」

相変わらず人形は無表情。

「マスターの命令は絶対。あなたを殺す」

「ふふっ。殺すですって?このわたくしを誰だと思って?」

母親の強さを受け継いだ幼なじみに相応しい自分になるため技の精度を上げてきたのよ。

「横浜純白-シロ-。確かにデータ以上の強さです。リミットブレイクを開始します」

人形は歯車式。身体の歯車の噛み合わせを最小限に絞る。防御を捨てた捨て身の機能。スピードと攻撃を最大限に引き出す。

少女は先ほどより変わった空気を肌で感じた。強い敵を目の前に多少の焦りと、多大な高揚感を抱いた。


「ここにいたのね。ま、予想通りだけど」

カツカツとハイヒールを鳴らし部屋に入る女性。

「おやおや。あなたはどちら様でしょうか」

「知らないとは言わせないわよ。調べはついてるんでしょう」

暗い部屋の奥に潜む男はクククッ、っと笑った。答えは是だ。部屋の至る所に並ぶ人形が自分を見ているような気がして気味が悪かった。

「貴女のような最強クラスの力を持ってしても私を倒すことはできませんよ」

ククッ。乾いた笑いが響く。

「倒す?そんな生ぬるいことは私の性に合わないわ。」

「貴女には分からないでしょうね。私の力は確実なものでないといけないんです。ですから大切な人形達で傷をつけてあげましょう」

「あなたの大切な人形は果たして動くのかしら?」

男は乾いた笑いをこぼしながら、人形に力を送る。しかし人形達はピクリとも動かない。

「ククッ。あれ?おっかしいなー」

よく見ると人形の関節が氷で固定されている。

「私、あなたみたいなバカな男は嫌いなの。消えなさい」

氷の刃が男の身体を八つ裂きにする。

こんなことに労力使うなんて柄じゃないのに。あっけないじゃない。

「クククッ。これで終わったとでも思っていますか?」

頭上から声がする。見もせずに氷の刃がバラバラにする。

「ほらほらこっちですよククッ」

次は背後。また、バラバラに。

あぁ、鬱陶しい。こんなクソザルが私の近い存在の周りをウロウロしてるのは気に障る。久しぶりにめんどくさい夜になりそうだった。

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