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羅奈の目覚め


羅奈は瞬きを繰り返し、穏やかな顔をフィリアに向けて呟いた。


「久しぶりにフィリアちゃんの顔を見た気がするわ」


「羅奈ちゃん。どこか痛い所はない?」


フィリアにそう言われると、羅奈は両手で自分の身体をあちこち軽く触り、確信したように言う。


「今はどこにも痛みはないわね。……私、どれだけ寝ていたの?」


「二週間。羅奈ちゃんの担当医がそう言ってた」


「二週間も?」


羅奈は目を丸くしてフィリアを見つめた。まだ少しぼんやりとした頭で、時間がそんなに経っていたことに驚きを隠せなかった。ベッドの上で軽く身を起こし、窓から差し込む柔らかな光に目を細める。


「そうだよ。とても心配したんだから」


クマのぬいぐるみのフィリアは羅奈の手をそっと握った。フィリアの声には安堵と優しさが混じっていて、羅奈はその温もりに少しだけ心が軽くなるのを感じた。


「でも、よかった。こうやって無事に目を覚ましてくれて」


羅奈はフィリアの手を優しく握ると、後悔の言葉を発した。


「私、全然ダメね。ラグリスも守れずに……絶斬ゼツキの所有者として情けないわ」


「羅奈ちゃん、それは違う。この世界ツバィルに来た時から羅奈ちゃんがどれだけ頑張ってきたか、必死にラグリスを守ろうとしたか、あたしは全て見ていたから……」


フィリアのクマのぬいぐるみの姿からは、どこか不思議な温かさが伝わってくる。ぬいぐるみのふわふわの手で羅奈の手をぎゅっと握りなおし、フィリアの大きな黒い瞳が羅奈を真っ直ぐに見つめた。


「あの時。羅奈ちゃんは全力で戦った。誰もそれを責められない。もし責める悪魔がいたら、あたしやお兄様が…ううん。仲間全員で責めた悪魔を叱る」


その言葉を聞いた羅奈は唇を噛み、視線をベッドのシーツに落とした。


「ありがとう。でも、私は絶斬ゼツキを制御できなかった」


羅奈の声には自責の念が滲んでいた。 フィリアは首を振って優しく否定する。


「羅奈ちゃん、絶斬ゼツキは確かに強大な力だけど、所有者に選ばれたのは羅奈ちゃんで間違いない。あの瞬間だって、ラグリスを守るために羅奈ちゃんは全力を尽くした。それが大事なことなんだと思う」


窓の外から聞こえる鳥のさえずりが、静かな部屋に柔らかなリズムを添えていた。羅奈はフィリアの言葉を噛みしめるように、しばらく黙り込んだ。


やがて羅奈はゆっくりと顔を上げ、フィリアに問いかける。


「ラグリスは…今、どこにいるの? 無事なの?」


「ラグリスも他のみんなも無事だよ。心配しないで」


フィリアの声は穏やかだったが、どこか慎重な響きがあった。フィリアの黒い瞳が一瞬だけ揺れる、羅奈はその小さな変化に気づいた。


「フィリアちゃん。……私に隠し事してない?」


「隠し事というよりも、その──とにかく!! 担当医を呼んでくるね!!」


フィリアはそう言うと、足早にベッドから降りて、近くにある電話を取り担当医を呼んだ。


しばらくすると、頭に大きな黒い二本の角がある若い男が穏やかな笑みを浮かべて部屋に入ってきた。白衣の裾が軽く揺れ、彼の手には分厚いカルテが握られていた。


羅奈はベッドの上で身を起こし、フィリアの急な行動にわずかに眉をひそめながらも、医者の顔をじっと見つめた。


「羅奈さん、目覚めたようで何より。気分はどうだ?」


医者の声は高く落ち着いていた。


「気分は……悪くないわ。でも、頭が少しぼんやりしてるわね」


羅奈は正直に答え、両手で軽くこめかみを押さえた。医者はうなずき、カルテを開きながらベッドの傍に立った。


「二週間もの間、意識を失っていたからね。当分は無理をせず療養してほしい。運ばれてきた時は、さすがにこれは即死だろうと思っていたが。やはり、絶斬ゼツキの所有者。魔神の加護があってもおかしくはない」


「魔神の加護……」


羅奈は小さく呟き、シーツを握る手に力がこもった。フィリアがそばで心配そうに羅奈を見つめ、クマのぬいぐるみの小さな手で彼女の腕をそっと撫でた。


「完治はしているが、何せ二週間も寝ていたんだ。定期的に様子を見に来るから、何かあれば症状を言ってほしい。食事制限はしなくても大丈夫だから、何でもリクエストするといい」


「ありがとう」


担当医は次の仕事があるため、そっと部屋を出ていった。


羅奈はフィリアの黒い瞳を改めて見つめ、口を開いた。


「ラグリス達に私が目覚めた事を知らせてほしいの」


「もちろん!ちゃんと伝えるよ!でも、担当医も言ってたよね?まだ無理はダメだからね!」


「ええ。分かっているわ」


「ラグリスも他のみんなも、ちゃんと元気にしてるから! それぞれ自分の仕事に戻ってるの」


「なら、安心したわ」


フィリアはベッドの端にちょこんと座り直し、羅奈の手をそっと握った。その小さな手は温かく、羅奈の不安を少しだけ和らげるようだった。


羅奈はフィリアの言葉を聞いて胸の奥で少しだけ安堵を感じたが、まだ心のどこかで重いものが残っていた。彼女は唇を噛み、窓の外の青い空を見つめた。鳥のさえずりが遠くに聞こえる中、羅奈の胸にはラグリスへの想いと自分の無力感が渦巻いていた。


「私が…もっと強ければ、みんなに迷惑をかけずに済んだのに」


フィリアは首を振って、羅奈の頬にそっと手を当てた。


「羅奈ちゃん、そんなこと言わないで。ラグリスも、みんなも、羅奈ちゃんがこうやって目を覚ましたことを知ったらすっごく喜ぶよ! だから、まずは元気になるの。みんなが戻ってくるまで、あたしがずっとそばにいるから!」


羅奈はフィリアの言葉に小さく頷き、彼女の手を握り返した。まだ心のどこかで重いものを感じながらも、フィリアの温もりとその真っ直ぐな瞳に、少しずつ前を向く力を取り戻し始めていた。


「ありがとう、フィリアちゃん。皆に早く会いたいわね」


羅奈はにっこり笑い、クマのぬいぐるみの顔で羅奈に抱きついた。


「うん! 絶対会えるよ! それまで、羅奈ちゃんの傍にはあたしがいるからね!」


部屋に差し込む光が、二人を優しく包み込んだ。羅奈はフィリアの小さな体を抱きしめながら、ラグリスと仲間たちが元気にやっていることを信じ、心から再会を願った。


──コンコン


誰かがノックした後に羅奈達がいる部屋に入ってきた。


その人物はエルザだった。

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