エーレとアストレア
魔王カルマの魔法で城に戻されたエーレは、すぐにエルザの側近に報告へ向かう。
地下室を出て城の三階へ階段で移動し、側近がいる部屋の前に辿り着くと、カルマの手紙をエルザの側近に手渡すのだった。
──次の日
城の三階の部屋に一晩泊まったエーレは、独り言を呟きながら出てくる。
「久しぶりに城下町に出てみましょうか」
エーレは階段を降りて一階に辿り着くと、城の兵士に大きな扉を開けてもらい外へと出る。
朝日に照らされながら、長い階段を降りて活気がある城下町へ到着したエーレはさっそく花屋へと向かった。
「エーレさん。いらっしゃい」
茶髪が特徴の若い女の店員が笑みを浮かべ挨拶をする。
「お久しぶりです。いつもの花束をお願いします」
「少々お待ち下さい」
店のカウンターから離れると、エーレは腕に身に付けている腕輪を見つめて時間を潰していた。
「あら~? エーレがお花に興味があるなんてねぇ」
そこへエーレの同僚、アストレアが飲み物を片手に正面から歩いてくる。
「今日はアンタのお仕事はないのかしらぁ?」
「はい。お休みなので花束を買いに」
それを聞いたアストレアは嬉しそうに返事をした。
「渡す相手は絶斬の所有者さんかしら?」
エーレは首を少し左右に振り、否定する。
「違います。羅奈さんはまだ眠っていますから…。それに、花束を渡すならカルミオさんが彼女に渡したほうがいいと思いますよ」
「あのお嬢さん、まだ寝てるのね。これ以上は同僚であるアンタの邪魔はしたくないし、アタシは先に帰るわね……」
アストレアは含みのある顔をし、その場を後にした。
「お花、お待たせいたしました。お金はそこの入れ物にお願いします」
「ありがとうございます」
タイミングを見計らった店員が花束を渡しエーレは店を出ると、城下町の裏通りへと足を運んだ。
──
緑の丘の上には無数の墓がある。
その中央には花束を手にしたエーレが立っていた。
「来るのが遅くなってしまって。ごめんなさい」
そっと花束を墓石の前に置くと、そこに刻まれている名前を呼んだ。
「アリシア。今日はあなたの命日ですね」
エーレはそう言いながら手首にある金色の腕輪をアリシアの墓に見せる。
「この腕輪。アリシアがぼくにプレゼントしてくれましたよね。貰ってから2年経ちましたが、今も大切にしていますよ」
その後、エーレはアリシアが眠る墓へ今の仕事の事や羅奈達の話を穏やかな声音で語るのだった。
「アリシアに──愛しい恋人に、お話をしてスッキリしました。……では、また来ますね」
名残惜しそうな顔で、エーレは城に帰って行く
──しばらくして、アリシアの墓の前にもう1つ花束が置かれる。
「ハァ~……。またエーレに先をこされちゃったわ…」
花を置いた人物はアストレアだった。
アストレアはその場で手を合わせると墓前に祈りを捧げる。
「妹のアリシアにお願いがあるわ。絶斬の所有者であるお嬢さんが起きるように天国から祈ってほしいのよ。ラグリス達の仕事がなくなっちゃうから…。これ以上、可愛い後輩達の辛い顔を見るのはゴメンよ」
アストレアはその後も様々な事を話し続けると満足げな顔で墓地を後にした。
──同時刻
カルマの城にある一室に羅奈はベッドで寝かされていた。
「…………」
微かに寝息が聞こえるも、目を覚ます気配 すらない。
「羅奈ちゃん。まだ起きないの?」
クマのぬいぐるみに魂を移したフィリアがベッドの上に登ると、羅奈の顔を覗きこむ。
「ラグリス達は羅奈ちゃんのこと待ってるんだよ?」
フィリアはぬいぐるみの柔らかい手で優しく羅奈の頬を撫でしばらくすると、羅奈の目蓋がゆっくりと開かれた。
「…………?」
「起きた!!! 羅奈ちゃん、おはよう!!」
羅奈は瞬きを繰り返し、穏やかな顔をフィリアに向けて呟いた。
「おはよう」