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行方


エーレが城へと戻り、あれから数日が経った。


ラグリス達は城の廊下で羅奈の容態について茶髪の年若い男の医者から聞かされていた。


「上半身には数十発の銃弾に全身には落雷のダメージ……普通の人間なら即死だ。だが、信じられないことに彼女の傷口は今も塞がりつつある。しかも、傷痕すら残らない。…このまま順調にいけば大怪我は全て元通りになるハズだ。しかし、悪魔でもこのような事例は聞いたことがない。種族が人間なのは間違いないんだが」


それを聞いたラグリス達は黙って聞いている。


話を続けるために、年若い医者は口を動かした。


「きっとエルザ様が絶斬ゼツキを作る時に魔神に祈りを捧げたのかもな。なにせ大災害を防ぐ聖具……所有者に魔神の加護があって当然だと私は思っている。とにかく、あの少女は無事だから安心しなさい」


そう言って年若い医者は持ち場に戻っていく。

小さくなっていく背中を見ながらラグリスの口が動いた。


「とにかく羅奈は回復に向かってるようだね。これで安心してぐっすり眠ることができるよ。やっと皆のくまが消えるね」


ラグリスの発言にカルミオ達が頷いた。ここ数日、全員が羅奈のことが心配でほとんど寝れなかった。


「さて、ぼくはこのへんで失礼します。逃げられたレッヒェルン達の追跡を急がないと……」


「オリアクス、先に部屋に戻っているぞ」


エーレとカルミオがそれぞれの部屋に戻って行くのを残された二人が見送る。


しばらくすると、オリアクスがラグリスに声をかけた。


「そうだ、最近フィリアを見かけないんだが……何か知らないか?」


それを聞いたラグリスは伏し目がちな表情で答える。


「フィリアは羅奈が大怪我をしてから元気がないとダウから聞いたよ。ずっと部屋に引きこもってるみたい」


「そうだったのか……。兄のエルザは心配してるんじゃねーのか?」


ラグリスは弱くため息を吐くと答えた。


「今、エルザは僕の妹をこの城へ移動させるために塔へ行ってるからフィリアの様子を見に行けないんだよ。塔へは僕が行くと言ったら断られて……」


オリアクスは苦笑しつつ声をかける。


「エルザは何でも自分でやろうとするからな。昔みたいにオレ達を頼ればいいのによ」


数秒間の沈黙ちんもくのあと、オリアクスはためらい気味に答えた。


「エルザがオレ達の事を頼らなくなったのは、父親である魔王様の失踪が原因なのか?」


「そうじゃないかな? 魔王カルマ様の失踪は僕と君とカルミオさん。あとは、ごく一部の悪魔にしか知らされてないからね」


ラグリスが言い終わると同時に、全身銀の鎧に身を包んだ15人程の兵達がラグリス達の前にやってくると。すれ違い様に数人の会話が二人の耳に聴こえた。


「今日も手がかりさえ見つけられなかった…。エルザ様が戻って来られた時の報告が辛い。結果を伝える度に悲しいお顔を見ることになる。とても胸が痛い」


年若い声の兵士が辛そうにそう言うと、隣にいた兵士が肩にポンと手を置き励ますと結果について呟く。


「今朝の捜索でやっと魔界と人間界の全てを探しつくしたのだ。残るは天界のみ…しかし──」


その二人の前を歩いている者が顔だけ振り返りこう言った。


「カルマ様の発言力がないと人間界と天界が手を組むのを阻止できない。いずれ魔王となられるエルザ様には、この事態をカルマ様の代わりに──」


兵士の言葉をさえぎり、隊長と思われる男が大きい声で言った。


「まだ人間達が悪魔側に戦争を仕掛けるそぶりもない!! 余計な事はせずに静観すべきだ!!」


そう言い終わると大扉を開けて兵士達はエルザの執事達に捜索結果の報告をしに中へと入っていった。


その様子をラグリス達は見終わるとオリアクスが疑問に思ったのか、隣にいるラグリスに問いかける。


「……魔王様がいなくなってどれくらい経ったんだ?」


「今年で3年目。そう言ったエルザの諦めた顔は今でも覚えてるよ。部下に言って捜索そうさくさせても結果はいつも同じ。手がかりさえないみたい」


ハァ……とタメ息をついたラグリスを見てオリアクスは壁にもたれ掛かる。


「本当にどこに行ったんだろうな? オレとフィリアは同い年だから、あの兄妹を放っておけなくてよ」


「それは僕も同じ気持ちだよ。せめて、フィリアがクマのぬいぐるみの姿から元の身体に戻れたらいいのに」


「……そうだな。そうなればエルザも喜ぶし、オレ達もすごく嬉しい」


オリアクスがそう言い終わるとラグリスは正面へと移動し、オリアクスを見て真剣な顔でこう告げた。


「……君に大事な話があるから聞いてほしい」


「なんだ?」


「僕は人間ではなく、実は悪魔の血が流れていたんだ」


その言葉にオリアクスはラグリスの頭の上にある少し尖ったホワイトタイガー耳と、長くしなやかなシマ模様の尻尾を交互に見ると優しい笑みを浮かべて口を開く。


「やっと魔界を堂々と歩けるな!!」


「ああ。ようやく君と二人で好きな場所へ行けるよ!!」


二人は心の底から笑いあう。しばらくするとその声が気になったのか、クマのぬいぐるみのフィリアも部屋から出てくると、オリアクス達に混じり雑談していた。

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