エーレ対アガリア
アガリアは手のひらを前に出すと、先制攻撃をしかけた。
「殺してやる!!」
そう言って大きな水の玉をエーレ向けて勢いよく飛ばすが、エーレは右手を前に出し薄い防壁を出し防ぐ。
その防壁は透明で、アガリアには見えないようになっていた。
──何をしたんだ? いや、考えるヒマがあるなら動かないと!!
悪魔への憎しみから頭に血が昇ったままのアガリアは、接近するために青色の両翼を素早く羽ばたかせスピードを上げると顔面を殴ろうとする。が、エーレはわざとギリギリな所で避けるとアガリアの服を掴み勢いよく地面に叩きつけた。
「グゥッ…!!」
アガリアは即座に立ち上がり羽根を動かし大きく後退するとエーレの頭上に魔法陣を出現させた。
──急に空気が冷たく…。それにこの嫌な感じは…
エーレは先ほどまでの余裕な態度とは違い冷静に分析しようとするが、アガリアは一瞬の隙を見逃さなかった。
「考える時間なんてムダさ!! バカな悪魔には理解できないんだって!!」
アガリアはエーレを見下すようにして嘲笑する。それは、自分の優位を確信した言葉だった。
それを見せつけるかのように、すぐに右の掌に魔力を集める。
凍てつくような殺気を向けたその魔力を言葉と共に一気に放出する。
「早く死んじゃえ!!」
その攻撃にエーレは考えるよりも先に防御に徹する。
自身の目の前に透明な防御壁を展開する。いや、しようとした。
「──なっ…!!」
エーレは思わず本能的に体を捻る。が、反応が遅れた代償は大きく、防御壁を出現するために伸ばした腕はズタズタに引き裂かれてしまい、赤く染まった腕を力なくダランッと垂らす。
自分の右腕を抑え、その傷痕で察した。
鋭い刃で裂かれた痛み。勢いよく放出した水が刃のように襲ってくる魔法。
攻撃は分かりやすいが、単純にその突出した速さが厄介だとエーレは思った。
威力の高さに気付くと同時にエーレの数歩先にある大地は凄まじいほどに抉れている。
ふと、エーレが自分の遥か頭上にある紺色の巨大な魔法陣を見つめた。
──今の攻撃であそこまでの威力。あの魔法陣から放出される魔法は恐らく最大級──ひとたまりもないですね
そう心の中で呟いていると、突然。立っていられないほどの揺れが起こる。
あまりの揺れの酷さに驚くも、即座に次の行動に移す。
アガリアの魔法陣と重なるように防壁を構築した。
「お前さ、防いでばっかりだな!! 少しは攻撃してみろよ!!」
嘲笑うアガリアは右手から水の刃を2発も飛ばすと、エーレは抵抗するために片手から紫色の刃を飛ばした。
「そんなショボい攻撃じゃあ、ボクの刃を止められないよ!!」
アガリアの言った通り、エーレの攻撃は水の刃に威力で負け消滅する。
威力と速度が落ちることなく2発の水の刃は真っ直ぐエーレに向かってきた。
「クッ……!! 」
なんとか片手で防壁を作り防ぐも、アガリアの魔法の威力が強すぎるあまりエーレの防壁は粉々に砕け散ってしまう。
「そんなっ……!? 本来は破壊されることなど……!!」
アガリアが右手に魔力を溜めているのをエーレは空気の流れで感じとれば、その場から後ろへ向かって大きく下がると、アガリアに称賛の気持ちを込めて口を動かした。
「ぼくを絶対に殺そうとする、あなたの気迫は感じました。ですが、ぼくは絶斬を持っていませんよ」
「お前を殺せば、悪魔の数が一人でも減るからだよ」
「それをして、あなたに何かメリットはあるのですか?」
「は? ボク達の敵が減るに決まってんじゃん。やっぱり悪魔はバカな種族だなぁ」
「やはり、天使とは分かり合えそうにないですね」
エーレは少し残念な表情を見せながら言うも、アガリアは隠すことなく自分の気持ちをぶつけた。
「そんなことより、さっさと悪魔は滅べよ!! ……それにしても絶斬を持ってないんじゃ、ボクは殺せないね。ざ~んねんでしたぁ、お前は運が悪いよ!!」
アガリアは舌を出しながらエーレをバカにするが、エーレは苛立つことなく冷静に考えていた。
──絶斬がないと天使である自分を殺すことは不可能と思ってる……なら。
エーレは怪我した方の手をアガリアに向けて翳す。
血がボタボタと地面に落ちるのをアガリアは目で確認した。
「怪我してるクセにやめといたら~?」
そう言ってアガリアは鼻で笑っていると、何かが頬をかすめた。
「……っ!!」
エーレは壊れた防壁の破片をアガリアに向けて飛ばしている。
「こんなに弱い攻撃でボクを殺すつもりとはね……舐められたもんだっ!!」
アガリアは上空にある魔法陣から、最大級の魔法を放出する。
──ゴゴゴゴ!!!!
凄まじい音を立てながら向かって来る魔法に、エーレはコウモリに似た大きな翼を背中から生やすと空へ飛んだ。
「さて、ここからですね」
エーレは顔を上に向け、真剣な眼差しで迫り来る魔法を見つめていた。