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畏怖


──あれからソラト達は黒焦げになった遺体を埋葬していた。


「これで最後だね。みんな、どうか向こうで幸せに暮らすんだよ」


「……この戦いが終わったら、ボクはみんなと遊びたかったよ」


ソラトとアガリアは両手を顔の前で合わせていた。


ヤーグは消火を手伝っていたアイザックの家に燃えた原因を聞きに行っているため、今はこの場にいない。


「帰ったらすぐにテンジン様に報告しないと……。アガリア、アンタはどうする?」


「ボクは魔界に行こうと思います」


その言葉を聞いたソラトは怪訝な顔をする。


「……魔界に?」


「だって、孤児院を燃やしたのは悪魔なんですよ。復讐しないと気が収まらない……!!」


アガリアは怒りに満ちた表情で気持ちをソラトにぶつける。


「アガリア、勝手な行動はし──」


ソラトはどうにか止めようとするも、アガリアは言葉をさえぎった。


「悪魔はボク達から全てを奪っていくんだ!! ソラトさんが止めても、ボクは行く!!」


アガリアはソラトに背を向けると、動きにより水色の髪が揺れる。背中から青色の羽根を出し力を込めて羽ばたかせようとした瞬間、誰かが呼ぶ声が聞こえた。


「アガリア!! やめとくッスよ」


「……ヤーグさん」


アガリアは声に気付き振り返ると、オレンジ色の短髪が特徴のヤーグが腕組みしながら立っていた。


「アイザックから話を聞いたが、悪魔の気配は感じなかったみたいッス」


「じゃあ、どうして地面に黒い羽根が落ちてたんですか!! 悪魔の仕業じゃないっていうの!!」


アガリアは怒りを隠さないままヤーグへ問いかけるも、痺れを切らしたソラトが声をあげた。


「二人とも続きは帰ってからにしな!! 先にテンジン様に報告するよ!!」


「チッ……!!」


アガリアは舌打ちすると左手を地面にかざし、魔法陣を描くと全員をレッヒェルンへと送った。


── 


「やっと行ったか……」


その様子を建物の上から双眼鏡で覗くアイザックの姿があった。


アイザックの容姿は腰まである長い金髪につり目で小さな緑色の瞳、背は185cmと高く細身で30代後半の天使だ。


そのアイザックの背後には一人の人物が立っている。


「アナタが上手く言ってくれて、とても助かりました」


白のフードを目深に被った一人の幼い子供がアイザックに声をかけた。


「同じ天使を疑いたくはないが、お前は本当にルシファーなのか? 背丈や声からして幼い子供にしか見えないな」


アイザックは緑色の小さな瞳で疑いの眼差しを向ける。


「仕方ないですね」


ルシファーは穏やかな幼い声色でそう告げるとフードを外し、背中から純白の羽根を出した。

地面には羽根が数枚落ちルシファーの全身は夕日に照らされ、アイザックにはとても神々しく見えた。


その神のごとき存在にアイザックの胸は高鳴り、感動のあまり早口になりながらルシファーに想いを伝える。


「おぉぉ……!!! その穢れなき純白の両翼と清廉されたお顔に艶のある薄い色の金髪……。 書物に記された通り伝説そのもののお姿だ!! なんとお美しい!!」


アイザックは嘘偽りない言葉を述べている。身を震わせ、今にもルシファーの前で腰を落としそうであった。


「そこまで言われると、恥ずかしいですね」


一方ルシファーはどこまでもあどけない笑みを見せると、自分の前に立つアイザックに言葉を紡ぐ。


「私は、天界を滅びゆく運命から救いたいと思っています。ですが、私の力だけでは不可能でした。次は仲間を増やすしかないようですね」


「でしたら……ぜひ俺を使ってください!! 俺の力は貴方のため、この時のために使うと言ってもいい!!」


アイザックは間髪入れずに返答する。そこに下心はなく、ルシファーと共にあるように、その身を捧げる考えだ。


「嬉しいかぎりですよ、アイザックさん。……ですが、よろしいのですか? 貴方はテンジンに仕えるレッヒェルンの存在。私に賛同するということは、レッヒェルンに対立する可能性があるかもしれません」


ルシファーはゆっくりと紡ぐ。内心と言葉は相反しアイザックの信仰心をくすぐるように、そして擽るようにアイザックの言葉を待つ。


「レッヒェルンに……そしてテンジンに従っていたのは一年前のこと。今でも思い出してしまう。あの女……テンジンが絶斬ゼツキを取り戻すと言った。不信感はあったが俺は天界を救うため、あの女のことを信じて悪魔達と戦った。だが、何が変わったというのだ!! ……何も変わらなかった。何も、何一つだ!! 天界もこの世界ツバィルも……。俺はテンジンに騙されたんだ。あの女にはもう何の力もない。奴はもうやまいで死ぬのを待つだけだ」



「フフフフ……」


ルシファーは目の前から聞こえる強い意思に笑いが止まらなかった。

片手で口を押さえ下を向くと。その表情はまるで悪魔のようにつり上がる笑みになっていた。

なんとか、その表情を抑えると柔らかい笑みを見せるために顔を上げた。

 

「感謝しますよ。私に賛同してくれること。そして、貴方が聡明であることに」


「……ルシファー様も人が悪い。俺を試したのですね……!!」


神々しさを感じていたアイザックだが、すぐにルシファーへの評価が一変する。


憎悪、嫌悪といった感情。それに付随した強大で邪悪なる魔力を感じ取った。

そして、それが自分に向けられていることに。


「失礼。それとアイザックさん、先に忠告しておきます。テンジンがいる組織の名前、私は大っ嫌いなんです。もし次、口にしたら……殺しますよ?」


「……心に留めておきましょう」


その言葉にアイザックは身の毛がよだってしまった。天界でも上位の存在である自分がだ……。 


──これが恐怖という感情……。俺は久しく忘れていた。かつてのテンジンに感じることがなくなった……恐れ多いという感情。



「ククク……フハハハハハ!!」


アイザックは嗤う。ルシファーという新たな道標を得たこと。そして、久しく忘れていた感情を思い出したことに、その身を打ち震えさせた。

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