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違和感


オリアクスとカルミオ、エーレの3人は大急ぎで重症の羅奈をカルマの城にある医務室へと運ぶと、近くにある長いソファーに腰を下ろす。


「羅奈ねぇがあんなことになってるとは思わなかった。ボク達が早く見つけていれば、こんなことには……」


カルミオは助けることが出来なかった事を悔やんでいた。


「起こった事への後悔なんてしても、意味ねーだろ……」


オリアクスがそう呟くと、エーレが自分の気持ちを口に出す。


「もしかすると。羅奈さんは助けを呼べる状況ではなかったのでは……?」


オリアクスが口を開こうとした同じタイミングで声がした。


「それは僕から説明するよ」


服と体がボロボロになっているラグリスが全員の傍に歩いてくる。


ラグリスは自分の父親と戦ったこと、そして羅奈の身に何が起こったかを話す。


「まさか、ラグリスの親父さんが復活したとはな……」


オリアクスとカルミオは驚き、一人エーレは深刻な表情をしつつ呟いた。


「レッヒェルンの奴ら、えげつないですね。死者を蘇生させ戦わすなんて……」


その言葉に耳を傾けたラグリスは初対面のエーレに怪訝な顔を向けた。


「君……見ない顔だね」


「初めまして。悪魔トイフェル・番人ヴァッヘに所属しているエーレ・アルンと申します」


エーレは座ったまま、軽く頭を下げた。


その言葉を聞いたラグリスは何かを思い出したのか驚きながら呟く。


「歴代の魔王様にお仕えしていたという、あのアルン一族の悪魔!?」


「よくご存知ですね。ぼくの一族が魔王カルマ様のお城で働かなくなってから十数年経ったのですが、まさか知っていたなんて……。とても嬉しいですよ」


「僕の父さんがアルン一族と仲が良くてね。よく話を聞かされたよ」


ラグリスはそう言いながらホワイトタイガーの尻尾を揺らしていると、カルミオが話しかける。


「ラグリスの父親はテンジンによって蘇生させられたのか?」


「それを父さんに聞いたら、違うと言っていたよ。テンジンの他にも絶斬ゼツキを狙う奴がいるってことだね……」


「……そうか。とにかく今は、羅奈ねぇの事が心配だ」


カルミオは焦る様子を見せると、ラグリスが真剣な顔でカルミオ達に告げた。


「実は君達に伝えることがある。羅奈のことは心配しなくていいよ」


その言葉にカルミオとエーレが怪訝な顔をする。


オリアクスは心配する様子を全く見せないラグリスに苛立ちをぶつけた。


「ハァ!? 羅奈ねぇが黒焦げになってる姿を、ラグリスも見ただろう!! まさかお前、自分の父親がやったことだから大目にみてほしい。なんて、ふざけた事を言うつもりか!?」


ラグリスは首を左右に振ると答えた。 


「そんなこと言わないよ。とにかく羅奈は大丈夫だから」


ラグリスはいつもの声色で言うと、オリアクスは納得していない顔をして声を発した。


「だから、なんでだよ!!」


「オリアクス達と出会う前から、すでに死んでいた存在だからだよ」


「「「……!?」」」


カルミオ達は驚きのあまり固まってしまった。


しばらくして、思い出したようにエーレが言葉を発する。


「羅奈さんの手、すごく冷たかったんです。まるで氷の塊を握りしめた時のような……。違和感を感じていましたが、まさか死んでいたとは思いませんでした」


オリアクスは弱く息を吐くと、こう口に出す。


「ラグリス。羅奈ねぇはいつ死んだか分かるか?」


「僕と出会う前にすでに死んだ存在だったよ。元々、違う世界ツバィルに住んでいたしね」


それを聞いたオリアクスは納得した顔をすると、自分の気持ちを口にした。


「どうりで悪魔を見ても差別しなかったハズだ。違和感の正体がやっと分かったぜ。一度だけお前達を裏切って天使側についたオレを羅奈ねぇは再び仲間として受け入れてくれた。なら、今度はオレ達が受け入れてやる番だ」


オリアクスとエーレは羅奈が死んだ存在であることを受け入れるも、カルミオだけは違った。


「そんな話、信じられるか!!」


カルミオは動揺と認めたくない気持ちからラグリスに八つ当たりするが、ラグリスは気にもせずに話を進めた。


「カルミオさん、僕は事実を言ったまでだ。みんなに覚えてほしいことがある。羅奈の一番の目的は生き返ること、そう言っていたよ」


「生き返った後はどうなるんだ!?」


「カルミオさん、落ち着いてくれ。その後の事は羅奈に聞かないと分からないんだ」


ラグリスがなだめていると、オリアクスがラグリスに声をかけた。


「それは羅奈ねぇが決めることだ。そして、生き返ることは可能。そういうことだろ? ラグリス」


「ああ、もちろんさ」


カルミオはそのやり取りを聞いて、ある疑問が浮かぶ。


「どうやって生き返らせるんだ!!」


「生き返るにはゼツキの呪いを解けと伝えられている。けど、本当は絶斬ゼツキは呪われてなどいない。まだ確信はないけど、堕天使を……ルシファーを殺すしかない」


その言葉が終わると同時に、クマのぬいぐるみに魂を移したフィリアがラグリスの目の前まで歩いてきた。


「全員に聞いてほしいことがあるの」


少し遅れて、大人の姿になったエルザがやって来る。


「私も加わろう……重要な話だからな」


エルザ以外の全員が真剣な顔をして、フィリアの言葉を聞く。


「あたしは絶斬ゼツキの中にある魂を、誰かによってこの城へと飛ばされたの。その時に声を聞いたけど、幼い子供だったわ。天使と悪魔が混ざりあった気配を感じたから、もしかすると伝説の存在であるルシファーが関わっているのかも……」


ラグリス達が動揺を隠せないでいると、エルザが口を開く。


「治療中のブラウが持っていた絶斬ゼツキを預り調べたのだが、強力な呪いがかけられていた。このようなことを出来るのは堕天使であるルシファーしかいないだろう。奴は武器や人々に呪いを与える存在だと伝えられているのでな……」


カルミオがエルザに問いかける。


「ルシファーの目的は分からないのか?」


「本当にルシファーが出てきたのかは怪しいが……。呪いを撒き散らす存在と書物に記述があっただけで、目的は記されていない」


「そうなのか。……とにかく今は羅奈ねぇの無事を祈ることしか出来ないな」


カルミオがそう呟くと、全員が頷くのだった。


それから数十分経った時のことだ。


ラグリスの腕の傷口から血がポタポタと流れ床を赤く染めていく。


「大変!! 早く手当てしなくっちゃ!! お兄様、どうすればいい?」


フィリアは慌てた様子でエルザに問いかけるとなだめるようにラグリスがクマのぬいぐるみのフィリアの前にしゃがみ、目線を合わせた。


「大丈夫さフィリア。僕はルシアの一族で悪魔より血液の量が10倍以上もあるし、強い身体も持ち合わせてるからね。心臓や脳に重症を負っても治療なしで一週間は戦い続けることができる」


「あたしには重症に見えるけど、ラグリスからしたら大丈夫ってことなの?」


「うん。この通りピンピンしてるよ」


「それでも辛い場合は誰かに伝えてね。すぐにあたしかお兄様が名医を連れてくるわ」


「ハハハ、フィリアはすごく頼もしいお姫様だね。頼りになるのは兄のエルザとそっくりだ。でも、これ以上は床を汚したくないし包帯を貰おうかな」


「うん。メイドに持ってきてもらうわ」


数分後。メイドが包帯を持ってくると、フィリアぬいぐるみの手で器用にラグリスの腕に包帯を巻き付けていく。


「ありがとう」


ラグリスはフィリアの頭を優しく撫でていると、医務室の扉が開きベッドに寝かされた羅奈が姿を現した。

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