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知らない言葉


長い夢から覚めると、もう朝になっていた。


(い、今のは…)


羅奈は息が荒くなるのを抑え込みながら呟く。

まるでこれから何かが起こるような気がする。


そんな羅奈の様子も知らずに隣のベッドにはラグリスが寝ている。

よほど眠かったのか腰にタオルに巻いたまま、うつ伏せで寝ていた。


「風邪ひくわよ」


そう言いながら羅奈はラグリスに布団をかけ直すためにベッドから降り床に足をつける。


(……?)


羅奈は違和感を感じた。


まだリハビリが必要な足が何も掴むことなく二本足で歩けることに。

走ったり跳んだり出来ることが不思議でならない。


「不思議ね。でも、ここは異世界だわ。理解できない事が起こったと思うしかないわね」


そう思っている羅奈は特に気にすることもなくラグリスに布団をかけ直してやると部屋の奥にある風呂場へ向かった。


数分後。ラグリスは目を覚ますと布団から出る。するとため息をつきながら呟いた。


「──ああ、羅奈がかけてくれたのか」


ラグリスは服を着ると二人分の朝食を取りにいくのだった。


脱衣室で服を脱ぎスライドドアを開けると、広々とした風呂が羅奈の目の前に広がった。

かけ湯をし浸かると、体が温まりとても気持ちがよかった。


「入院していた頃は看護婦の付き添いが必要だったけど、自分で入れると嬉しいわね」



そう呟きながら思いきり足を伸ばす。風呂場は広く、大人数が入れる広さだ。



「ラグリスったらいい部屋に泊まらせてくれたのね」


のんびりと浸かったあと頭と身体を洗い風呂を出て部屋に戻った。



「おはよう、そこに君の分があるからね」


パンをくわえながらラグリスがそう呟く。

羅奈が風呂に入ってる間に起きたのだろう。タオルは畳まれてベッドの上に置かれており、壁のハンガーにはラグリスの黒いコートがかけられていた。


ラグリスの隣には羅奈の朝食が置いてあり、羅奈は手を合わせると目の前のパンを食べた。


メニューはパンと牛乳とサラダだ。


(病院食より美味しいわね)


そう呟くと夢中で食べ続けた。


「ごちそうさま」


先に食べ終えたラグリスは立ち上がると羅奈の前に歩いてくる。


「今日は王様に会いに行く日だけど、王様の姿を見て声を上げて驚いたりしないでね」


驚いた羅奈はラグリスを見つめた。


「どうして?」


ラグリスは顔をきょとんとさせながらこう言った


「細かいことは気にしないで、会えばわかるさ」


そう言うとラグリスは用意をし始める。

数分後に羅奈も食べ終わり身支度を済ませた。


──バタンッ


ラグリスは先に部屋を後にする。すぐに羅奈もドアノブを回し廊下に出た。


羅奈が廊下を進む間にラグリスはすでに支払いを済ませていた。


「お待たせ」


羅奈がそう言いながらラグリスと合流すると二人は宿屋を後にした。


「その前に、昨日買ってきた包帯を絶斬に巻かないと」


そう言ってラグリスは羅奈の背後に回り込むと器用に刃の部分に包帯を巻いていく。


「包帯を巻くだけで隠せるの?」


羅奈は気になりラグリスに声をかけるが、ラグリスは集中しているのか返事が返ってこなかった。


ラグリスは剣道をしている人が持つ時に使っている紐付きの赤い竹刀袋を取り出し、羅奈の腰にくくりつける。

手慣れた様子でテキパキとこなすその姿はまるで、何度も誰かにしたことがあるかのようだ。


「よし、これで完璧だ」


そう言って羅奈の肩を軽くポンッと叩く。


「ありがとう。それにしても慣れた手つきだったわね」


羅奈は微笑みながら礼を言うとラグリスに質問してみる。


「よく妹が怪我をしてたから包帯を巻いてあげたんだよ…。だから、これくらいは簡単だよ」


そう言っているラグリスの表情は寂しそうな感じに見えた。


「…聞いて悪かったわ、今のは忘れてちょうだい」


羅奈は謝るとラグリスと一緒に城へと向かっていた。

城への道は一本道になっており朝日が眩しい。


「ねえ、絶斬ゼツキって何をするためにあるの?」


その問いかけに、ラグリスは言葉を選びながら説明をする。


「処刑人が罪人の首を跳ねていたらしくてね。君の世界ツバィルじゃどうか分からないけど、僕たちの世界ツバィルでは火炙りの刑が多くて……後始末がが大変という理由で、数年前に首を跳ねる処刑方法に変わったんだよ。跳ねた回数こそ少ないけれど、切れ味は最高の大鎌と言われているよ」


いきなり訳の分からない世界ツバィルと言う言葉を言われて羅奈は戸惑う顔をした。


「ツバィルと言うのは『世界』と言う意味なんだよ、『君のツバィル』は、『君の世界』といった感じでね」


戸惑う羅奈にラグリスは丁寧に教える。

そうこう話しているうちに城の門へとやって来た。


よく見ると門の前には見張りが二人いた。

鎧で身を固めており手には槍を持っている。


「少し待っててくれないかい?」


「わかったわ」


その言葉を言い終わるとラグリスはどんどん足を進める。


門番が気付き止めようとするが、ラグリスの顔を見ただけで何事もなかったかのように中へと入れてくれた。


「さ、行こうか」


顔だけを後ろに向けて羅奈に声をかける、羅奈は言われるがまま着いていった。


門を潜った先の庭園には真っ赤な薔薇が咲き誇り、大きくて立派な噴水がある。

羅奈は立ち止まりしばらく噴水を見ていた。


(異世界というより、まるで外国に旅行に来たみたい)


見るのを終えてまっすぐ行った先にある城内に入ると一人の男がラグリスと話しをしていた。



「なんだまたオマエか」


男は少し呆れ気味な様子でラグリスを見つめていた。

どうやらラグリスは何度も来ているようだ。


「王様に会いに来たんだよ、この子の事でね」


「ん、まだ子供じゃないか、お嬢ちゃん、ラグリスと一緒にサーカス芸でも披露するのか?」


男は羅奈をバカにした態度で歓迎するようだ。


(この人…、嫌いだわ)


羅奈はそう思いながら玉座へと通されるのだった。

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