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オロバス


父親は大剣たいけんミカエルを片手で振り下ろすと地面を抉りながら5本の大きな衝撃波を出す。

ラグリスはギリギリのタイミングで空高くジャンプして回避すると、右手に持った剣を血に戻し、銀色の鎖を作り出す。

それを操り父親の身体に巻き付けていく。


地面へ着地したラグリスは鎖を思い切り引っ張ると、父親の身体は地面に倒れた。


「……僕の能力を忘れたのか?」


父親は余裕のある笑みを浮かべると、身体に巻き付いている鎖を血に変え、その血を20本の投げナイフへと変化させると全て操り、ラグリスに向かって飛ばす。


「そんな……!!」


ラグリスは実力の差に焦りを見せると服についた血を使い、大きな盾を形成する。


なんとか全てのナイフを盾で防ぐと、父親の姿は目の前から消えていた。


「ハアァァァァ!!!!」


父親はラグリスの背後へと移動すると、声をあげつつ、無防備な背中を大剣たいけんミカエルで斬ろうとする。


ラグリスはとっさに手に持った盾を構え防ごうとするも、ミカエルの刃は盾を貫いた。


ラグリスは盾から手を離すと、大きく後退し父親から離れた。


「さすが父さんだね。全く歯が立たない……!!」


「当たり前だ、お前とは場数が違う!!」


父親はそう言えば手のひらから大きな光の球体を飛ばす。

ラグリスはギリギリで避けると頬にかすったところが火傷の状態になる。


「父さんは人間だろう!? なんで魔法が使えるんだ!!」


魔法は悪魔と天使しか使えない。それは広く知られていることだった。

疑問が増えていくラグリスに父親はこう答えた。


「僕の母が悪魔だったからな。そして父は人間だから僕にも半分だけ悪魔の血が流れている。そしてお前にもな」


「僕にも? でも、僕は人──」


「お前は人間じゃない」


「え?」


「僕の母は悪魔で僕はハーフだ。そしてお前の母親……ヤム・ハンヌは純血の悪魔。だからお前にも悪魔の血が流れている!!」


その真実に驚いたラグリスは言葉を無くした。


さらに父親は続ける。


「恐らく力を出せないようにしたのは、悪魔としての力を封じ込めたんだろう。その事を呪いと言っているのだろうな」


──ネーヴェが僕と同じレベルまで強くなれば呪いを解くことができるかもな。


そう言えば大剣たいけんミカエルを血に戻し、その血で素早く魔方陣を描けば、まばゆい光とともに大型の黒い馬が召喚された。


「オロバス、さっさと片付けるぞ」


父親はオロバスにまたがると、オロバスは大きな声で鳴くのだった。


ラグリスはものすごい速さで走ってくるオロバスを避けるのがやっとだった。


ラグリスは盾を血に戻し、鉄の剣を形成すればオロバスの前足に向かってなんとか斬りつけた。

オロバスの硬い皮膚は刺さることなく剣の切っ先を折ってしまう。


「もう、こうするしかない!!」


ラグリスは鉄の剣を血に戻し両手に付着させ地面に両手を付かせると、地中から無数の鎖を出現させた。


「ヒヒィィィン!!」


オロバスは驚きのあまり前足を大きく上に向くも父親を振り落とさないように、すぐに落ち着きを取り戻した。

オロバスは鎖を避けるとラグリスに向かって行く。


「オロバス!! 一気に行くぞ!!」


父親は服のポケットから短刀を出すと、右手を切りつけ大剣たいけんミカエルを形成する。

左手には手綱、右手にミカエルを構えると、ラグリスを一気に仕留めようとする。


「……グッ!!」


ラグリスの手のひらからは赤色の防壁が出現している。

父親の一撃は防壁に止められた。


「少しはやるようだな」


「この力は……!!」


ラグリスは戸惑っていた。この防壁は悪魔が得意とする魔法の力だったからだ。


──本当に、僕には悪魔の血が流れて……。


父親は娘が自力で呪いを解く日も近いと考え、含み笑いをした。


さらに強くなってもらおうと、父親は背中からカラスに似た漆黒の両翼を生やすとオロバスから降りる。


「オロバス。変身しろ」


「!?」


オロバスは大型の馬から大剣たいけんミカエルと同じくらいの刃の姿となった。


オロバスの刃は空中で静止しており、父親の一声でいつでも発射できるようになっていた。


父親の右手には大剣たいけんミカエル。

その頭上にはオロバスの刃……二つの攻撃がラグリスに襲いかかろうとしていた。


ラグリスは嫌な予感がし、地面に落ちている鎖を血に戻すと二つの剣を両手に持つのだった。

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