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お説教


父親はラグリスが男の姿になっている事を疑問に思っていた。


──奴が言ってた呪いの影響か? 男になってるなんて思ってもみなかった。


一方、ラグリスは今の姿は男だが、本当の自分の性別が女である事を今でも認めたくなかった。


「どうして父さんは僕が男だって認めてくれないんだい?」


「それはお前が生まれた時に女の子だったからだ。それより今の性別は一体どうなっている? 答えろ」


「天使の呪いを受けたせいで、毎日性別が変わるんだよ。今までは元の姿のまま性別だけが変化していたんだけど、今回は外見も男になってしまったんだ」


──どうやら強力な呪いのようだ。


父親は心の中でそう呟くと何とかして呪いを解いてやろうとラグリスに向けて手のひらを前に出す。


「僕が解除してやる。お前には元の性別に戻ってほしいからな」


その言葉にラグリスは本気で怒った。


「やめてくれ父さん!! 僕はルシアの一族だ。能力は男と女でそれぞれ違うことは父さんもよく知っているだろう!!」


父親はラグリスを落ち着かせるよう自分の気持ちを口に出した。


「それがどうした? 弱ければ訓練なり戦い方を覚えるなりすればいいだけだろう」


「僕はもう1つ呪いをかけられているんだ!! 本来の力が出せないんだよ!! だから、外見も男になって少しでも強くなるようにしたいんだ!!」


ラグリスは本音を告げると、これまで父親は言葉にも態度にも怒りをあらわす事はなかった。だがラグリスのその言葉を聞いて父親は初めて怒りの感情を表にだす。


「じゃあお前は強くなるために、努力はしてきたのか!!」


「──それはっ…!!」


ラグリスは何も言い返すことは出来なかった。なぜなら父親が言った言葉は図星だったからだ。

努力もせず、力を半分以上も出せないようになってるとはいえ、ラグリスはどこか言い訳にして訓練など一切して来なかった。


「ハッキリ言ってやる、お前はただ甘えて何もして来なかっただけだ!! 呪われて力が出せないと言うならば、呪いを上回るだけの力を身に付ければいいだけだろう!!」


ラグリスは思いの丈を父親にぶつける。


「そもそも、魔法が使えないから天使や悪魔に力で勝つことができない!!」


人間であるラグリスにはオリアクス達が強すぎると思っていた。


唯一魔法を使う事ができる天使と悪魔では人間などちっぽけな存在だ。


「お前は僕から受け継いだ、血を武器に変えるという能力があるだろう!!」


「でも、僕の種族は悪魔じゃないんだよ!! どれだけ頑張っても強さでは勝てない!!」


父親はそこまで力を求めるラグリスに疑問をもち、問いかけた。


「強くなりたいのなら、誰かに戦い方を教わらなかったのか?」


「魔界に住んでいた頃。いろんな悪魔に声をかけてみたけど、僕が人間だからって相手にされなかったんだ」


──お前は自分のことを人間だと思っているのか。


父親は含みのある態度を見せる。


「カルマ殿には頼らなかったのか?」


「魔王カルマ様は忙しすぎて構ってくれなかったんだ。それに奥さんを病気で亡くしたし。息子であるエルザと娘のフィリアもいたし……家族を優先するのは仕方ないよ」


「では、妹のユリィとはどうだったんだ?」


「ユリィは天使の呪いで今も眠ったままだ……」


「そうか……」


父親は寂しそうな表情をすると、ラグリスは諦めた顔をする。


「やっぱり僕には、悪魔みたいに強くなることはできないんだ」


「お前がそう思っているだけだろ!!」


「仕方ないだろう!? 僕は人間なんだから!!」


「お前は自分が弱いと決めつけすぎだ!!」


ラグリスはその言葉に反論する。


「最初から強い父さんに、弱い僕の気持ちは分からないよ!!」


父親は嫌がっている娘の呪いを解除するのをやめると、こう言った。


「奴が見ているから、戦うしかないな!!」


ルシファーに見られていると感じた父親は鉄の剣を構え、ラグリスに突っ込んでくる。

それをラグリスは避けもせず、血を流すためわざと腹に攻撃をくらった。


「……グ!!」


ラグリスの白い服は血で赤く染まっていくと、服の上から流れてる血を手に付けると血を鉄の剣に変化させる。

父親は剣をラグリスの腹から抜いた。


「そこまで血を流さなければ剣の一本も作れないとは……呆れるな!!」


「うるさい!!」


ラグリスと父親の剣はぶつかり合い高い音が何度も鳴る。

このままでは埒が明かないと感じた父親は大きく後ろへ下がりと剣を空中に投げ血に戻し手元に落ちてきた新たな武器を手に取る。


「まさかその武器が出てくるなんて……!?」


ラグリスが見たものは、幼い頃に良く父親が使っていたミカエルと呼ばれる身の丈程のある黒い大剣たいけんだった。


「今から本気でいかせてもらう。娘だからといって手加減はなしだ」

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