好きな人
羅奈達は用意された部屋に戻ると、さっそくオリアクスとカルミオはそれぞれ普通サイズのベッドに腰をおろす。
羅奈はキングサイズのベッドに腰をおろすとこう呟いた。
「二人はエーレさんの事、どう思ってるのかしら?」
それを聞いたオリアクスが答える。
「変なやつだなー。としか思わないな。でも、仲良く出来そうだぜ」
「それは良かったわ。カルミオは?」
カルミオは複雑な表情で呟いた。
「ボクは仲良くなれない……」
その言葉に羅奈はキョトンとしていた。
「どうして?」
「エーレが羅奈ねぇの事、好きそうだからな。羅奈ねぇはエーレの事は好きなのか?」
カルミオは異性としてエーレの事を好きなのかと思い、羅奈に質問する。
──カルミオの奴なに言ってんだ?
オリアクスはカルミオの言葉の意味が理解できず、頭の中がハテナでいっぱいだった。
羅奈はエーレの事を仲間として好きかと聞かれたと思い、発言する。
「エーレさんは好きね。私達の中では最年長だし色々と頼りになりそうだわ」
「エーレのことが好き……だと!?」
──なんでカルミオがショックを受けてるんだ?
オリアクスは首を傾げつつ、隣のベッドにいるカルミオを見つめていた。
カルミオはショックを受けつつも羅奈に話を続けようとした時だった。
──コンコン
誰かがドアをノックする音が聞こえる。
「エルザだ。入ってよいか?」
その声に羅奈は返事をかえす。
「いいわよ。入ってきて」
ドアを開けてると、実年齢の14歳の姿でエルザは狼の尻尾を揺らしながら入ってくる。
「全員の体調はどうだ? どこか痛みはないか?」
エルザは心配してわざわざ部屋にやって来たようだ。
「私は大丈夫よ。後は眠るだけね」
「そうか。オリアクスくんはどうだ?」
「オレも大丈夫だ。カルミオも元気にしてるぜ」
それを聞いたエルザはホッとした様子を見せる。
ふと、エルザの目に悩む表情をしたカルミオの姿が飛び込んでくる。
「カルミオくん。どうかしたのか?」
カルミオはオリアクスとエルザを手招きすると、近付いた二人に小声で話す。
「最近、羅奈ねぇを見ていると心臓の鼓動が早くなる。それから、エーレに対してものすごくイライラしてしまう。ボクはどこかおかしいのか?」
それを聞いたエルザとオリアクスは腹をかかえて笑った。
オリアクスは微笑みながら話す。
「その感情があるってことはな……ククク」
エルザはカルミオの事を応援していた。
「カルミオくんに春が訪れたな。頑張るといい」
「なにが可笑しいんだ!!」
カルミオは笑い続ける二人に怒りをあらわにする。
理解出来ていないカルミオに、オリアクスは告げる。
「カルミオは羅奈ねぇに惚れたんだ」
「確かに、ボクは悪魔を差別しない羅奈ねぇに好意を持ってる……」
それを聞いたエルザはカルミオをからかう。
「どうやら、自律神経が乱れているようだな」
「じりつ……しんけい?」
「まだ分からぬのか……。カルミオくんは青に惚れているということだ」
その言葉にカルミオは顔を真っ赤にし、手のひらを前に出して左右に振りながら慌てて否定する。
「そんなことあるか!! 大体、ボクは悪魔だぞ!! 人間である羅奈ねぇになんか……!!」
エルザは何か思い付いたのか、こう言った。
「本人が近くにいる。せっかくだから聞いてみるのも悪くない」
エルザは眠そうにしている羅奈を呼ぶと、カルミオがいるベッドに腰をおろした。
「何かしら?」
カルミオは近くで羅奈の顔と目が合うと真っ赤にさせていた。
羅奈は訳がわからず、カルミオに少し困惑した表情を見せる。
「実はカルミオくんが青にあることをしたいと言っている」
「あること?」
「カルミオくんの赤くなっている顔を見れば分かるだろう?」
「確かに顔が赤いわね。風邪を引いたのかしら?」
全く気が付いてない羅奈にエルザは呆れて溜め息を吐いた。
「カルミオくんは青と口づけを交わしたいらしいぞ」
「え!? それって、ほ、本当なの?」
エルザは話をわざと大きくさせ、反応を楽しんでいた
「この自慢の狼の耳でしっかり聞いたぞ」
「ち、違う!! ボクはそんなこと言ってない!!」
カルミオの言葉を無視したエルザは羅奈にハッキリと言った。
「それで、カルミオくんのことは好きなのか?」
その言葉に羅奈は少し悩んだあと、口を開いた。
「好きっていうのはもしかして……異性として?」
「そうだ」
それを聞いた羅奈は瞬時に顔を真っ赤にさせ、ソワソワして落ち着かない様子を見せる。
「あの……。まさか異性として……好きだと言われるとは……思ってなくて」
たどたどしく話す羅奈にオリアクスは問いかけた。
「カルミオにハッキリ言ってやってほしい。どう思ってるのかをな」
「そ、そんなこと急に言われても、心の準備があるわ……!!」
「羅奈ねぇはボクのこと、嫌いなのか?」
カルミオは不安で泣きそうな顔をしていた。
「そんな悲しそうな顔で言われたら……わたし、私は!!」
羅奈の心臓は動いていないにも関わらず、なぜかドクンドクンと動く音が聞こえたような気がした。
(付き合うことになったら、手を繋いだりキスしたりするのよね……ダメ、キスなんて恥ずかしいし……)
羅奈がこんなにもパニックになっているのには理由がある。
羅奈は生きてきた中で一度も彼氏と付き合ったことがない。生前、友人から彼氏が出来たと嬉しそうに語る姿を羨ましく思い、眺めていることが多かった。
(付き合うことに憧れとかあるけど……カルミオの事は好きよ。好きだけど、異性としては……顔は悪くないし、18歳の姿はカッコいいし……あ、いや。でも……)
エルザは羅奈が嬉しいのか、それとも困っているのか表情がコロコロ変わる姿を見て肩を震わせている。
──ククク……。これほど面白い展開になるとは。青よ、汝はどう答えをだすのだ?
エルザは興味津々で羅奈の返事を待っていた。
一方、オリアクスも興味はあるものの、別の事を考えていた。
──オレもラグリスと付き合いたいなぁ。
オリアクスが考えていると、羅奈の答えが決まったようだ。
羅奈は頭が沸騰したように熱くなりながら、ある提案をする。
「と、ともだち!!」
「え?」
「ね、ねぇ。友達からっていうのはどうかしら? ほら、いきなり恋人になるっていうのも……ね? カルミオのこともっとよく知ってからじゃないと、恋人になるのは難しいと思うのよ」
「…………友達。とも……だち」
カルミオはショックを受けるも、友達からと言われ、少し羅奈との距離が近くなったと思い嬉しくなったが、フられた事を認めたくない気持ちもあった。
「……友達になると、どう変わるんだ?」
カルミオは大きな青色の瞳で羅奈を見据えている。
「恋人になることに近付くことが出来るわ。お互いをよく知るために、まずは友達になるのよ」
「そうか……友達になったら手は繋いでいいのか?」
「それは相手によるけど、私はカルミオと手を繋ぐことはかまわないと思っているわ」
「キスは?」
「き、キスは恋人になってからね!!」
「わかった」
カルミオは納得した表情をすると。オリアクスとエルザは少し残念がる表情を見せる。
「これからもよろしくね。カルミオ」
「ああ」
「それじゃ、おやすみなさい」
羅奈は自分のベッドに戻ると、眠りについた。
「さて、そろそろ私も戻ることにしよう」
「またな、エルザ。ゆっくり休めよ」
「ああ。オリアクスくんもな」
エルザはドアを閉め部屋を出ていった。
──今日は疲れたな、やっと眠れる
オリアクスは眠りについた。
「友達……か」
カルミオは嬉しさのあまり微笑みながら布団をかけるのだった。