城下町へ
いつも賑わいを見せる城下町、高くそびえ立つ城が中世の雰囲気を醸し出している。
(王様…どんな人なのかしら)
城下町の中にある噴水が見えるベンチに座っていた羅奈は緊張していた。
「わたあめ食べる?」
緊張など全くしていないラグリスは近くで買ってきたわたあめを渡してきた。
「私が住んでいた世界と同じ物が売ってるのね」
羅奈はそう言うと食べ始めた、一口一口が甘くとても美味しかった。
絶斬のことを話に行かなければならないのと、本物のお城を間近で見れ中に入れるので羅奈は内心では不安と期待が入り混じっていた。
「焼き鳥はどう?」
一息つく暇もなくまたラグリスが持ってくる。
(何を話せばいいのかしら?)
ラグリスから受け取り、焼き鳥を手に持って食べながら考える。
「イカ焼き、君は好きかい?」
またもやラグリスが食べ物を持ってくる。
その行動を見ると、あちこちにある屋台に立ち寄りわざわざ買ってきたようだ。
「もういらないわ」
それを聞いたラグリスは羅奈の分まで食べ始めた。
(……今日中に行けるといいけど)
そう考えながらも食べ終わるのを待っていた。
──数分後
「さて。満腹になったし、今晩の宿を探そうか」
ラグリスは立ち上がると店の方へと歩いていく。
「ちょっと待ってよ!! 王様に話しをするのではなかったの?」
羅奈は小走りになって着いていく。ラグリスは振り返るとこう言った。
「ここからだとかなり遠いんだよ。ついでに絶斬を見せないようにする為に包帯か袋を買わないといけないし、今日はゆっくり休んで明日出発しようかと」
なんともマイペースな返事だ。
「……分かったわ、今日は休みましょう」
羅奈は少し納得のいかない顔をしながら、ラグリスに着いていくのだった。
1時間後。包帯と袋を両方買って店の近くにある宿屋に着いた。羅奈達は早速風呂つきの部屋を借りた。
ラグリスに着いていき部屋の中に入ると、広めの部屋にベッドが二つ置いてあった。
「お風呂入ってくるよ。羅奈はゆっくり休んでいてね」
「ええ」
部屋に着くなりラグリスは部屋の中にある風呂へと向かう、疲れている羅奈は先に寝ておくことにした。
風呂場に着いたラグリスはさっそくお湯に浸かる。体つきは華奢だが胸の膨らみはわずかにある。
「まだ……痛むや」
ラグリスの上半身には古傷がいたるところにあり見るからに痛々しい。
「この古傷、開かないといいんだけどね」
そう言ってラグリスは天井を見上げると湯船から上がり、頭を洗い始めた。
ラグリスがまだ風呂に入ってるなかベットで眠る羅奈は夢を見ていた。
死ぬより数時間前のことを──
その日の朝、羅奈は病院でリハビリに励んでいる最中だった。一歩、また一歩と壁にある手刷りを持ちながら少しずつ歩く。
それを見ていた看護婦が告げる。
「明日はいよいよ退院の許可をもらえる日ね。今までよく頑張ったわ」
羅奈は照れくさそうにお礼を言うと続けた。
「今日はいい天気ですし、外に出て桜を眺めたいです」
ずっと病室に籠りっきりだったので、羅奈は久しぶりに外の空気を吸いたかった。
「昼食の時間まではあと30分近くあるから、今から見に行きましょう。それに、明日夢さんお姉さんが買ってくれた服を着てるし…せっかくだから外に出たいわよね」
「このフィッシュテールワンピースは姉からの退院祝いの贈り物なんです。嬉しさのあまり一日早く着てしまったけど、出かけるのがすごく楽しみです」
「私も、明日夢さんと桜を見るのが楽しみよ。満開だといいわね」
そう言うと看護婦は羅奈が座る車椅子を押しながら外まで連れて行く。
その場所は病院の近くにある信号を渡り、すぐの場所に公園があった。
看護婦は車椅子をゆっくり押すと、羅奈に桜を見せる。
「わぁ、すごく綺麗ですね」
羅奈は満面の笑みを浮かべていると、看護婦は微笑みながらこう言った。
「今日は本当に天気がいいし、私は明日夢さんと見れて良かったと思ってるわ」
「とても嬉しいです。私も看護婦さんと見れて良かった」
「あと20分はここに──あら?」
看護婦はナース服から振動する携帯を取り出すと、電話に出る。
少し待っていると、看護婦が申し訳ない声色で告げた。
「ごめんね。緊急の患者さんが出たみたいで……、私はそっちに行かなくちゃならないの。帰りは別の看護婦に来るよう言っておくから、少しだけ待っててね」
「わかりました」
走っていく看護婦を見送ると羅奈は待つ間に車椅子から立ち上がり、リハビリの続きをするため数歩進んで戻ることを繰り返す。
ギプスが外れたとはいえ、足首にまだ痛みが残る。
退院したら今度は松葉杖の生活が始まる。まだまだ完治までには時間がかかりそうだ。
あれから5分ほどリハビリをしていた羅奈は、車椅子に座り休憩をしていた。
(代わりの看護婦さん……遅いわね)
羅奈はワガママを言ってしまったのかと少し後悔していた。
すれ違いになると心配をかけてしまうので、もう少しだけ待っていることにした。
ふと、空を見上げると雨雲が羅奈の真下にある。
「今日は晴れだと天気予報で言ってたのに……」
――ザァァァ
激しい雨が降ってきた。
羅奈は車椅子をこいで急いで近くの木陰に入る。
「一時的に激しいだけかしら? もう少し待ったほうがいいわね」
待てど待てど一向に止む気配がない。止む所かさらに激しくなる。
「……こんな雨のなか来てもらうのも悪いわ。一人で帰るしかなさそうね、病院が近くてよかった」
そう呟くと羅奈は雨の降るなか車椅子をこいで公園を出る、帰り道の横断歩道の信号が青になっていたので渡ろうとしていた。
横断歩道を渡る羅奈にトラックが来たが右折しようと右の指示機が点滅していたので何事もなく渡っていた…が。
「…え!!」
トラックが雨でスリップしながらこちらへ突っ込んでくる。
これが普通の人間なら恐らく走って逃げ出せば轢かれる事はないだろう、だが羅奈は車椅子に乗っている。
どんなに必死にこいだとしても限界がある。
キキキィィィーーーッ!!
トラックの運転手が慌ててブレーキを踏むが間に合わない。耳をつんざく程のブレーキ音を響かせ、トラックは羅奈を轢いた後、近くの電柱にぶつかり止まった…。