救い
「……ぅ」
地面に倒れ、 気絶していたラグリスが目を覚ます。
「今の状況は……?」
ラグリスがゆっくりと立ち上がると、 目の前は戦場になっていた。
エルザはショットガンを撃ちながらマーラーと交戦し、 オリアクスはソラトの攻撃を必死に避けていた。
「僕はもう戦えない。 悔しいけど、 見守ることしかできないみたいだ」
そう言えばラグリスはヨロヨロと歩きだし、 見つかりづらい場所へと向かうのだった。
羅奈はラグリスが移動していく姿を見かけると走って合流し、 ラグリスと一緒に距離を取った。
「いい気分だねぇ。 これでヤーグの仇をとることができる」
「クッ……!!」
元の姿に戻らされたオリアクスは残り僅かな魔力でどうするか考えていた。
──身体が…元に……!! もう打つ手がない!!
オリアクスは魔力が少なくなったことにより、 強制的に実年齢の13歳の姿へと戻る。
ソラトは笑みを浮かべオリアクスを殺す準備を始める。
「オリアクスには、 この魔法でむごたらしく死んでもらおうか!!」
ソラトは巨大な剣をオリアクスの頭上に出現させると人差し指を勢いよく振り下ろし、 剣をオリアクス目掛け落としていく。
「これがお前の本気なんだな……」
オリアクスは諦めから息を吐くと、 死を覚悟した。
「オリ……ア……」
マーラーはエルザへの攻撃をピタリとやめ、 オリアクスの方へ顔を向けた。
「あの悪魔に一体何が……?」
エルザは怪訝な顔をしつつも銃口をマーラーに向ける。
「……たす…け……」
どうやら、 マーラーの洗脳が徐々に解けてきているようだ。
──オリアクス……!!
マーラーは動かない体を懸命に動かそうとするも無駄に終わってしまう。
頭では分かっているのに、 オリアクスを助けにいくことが出来ないでいた。
「まさか……洗脳が解けはじめているのか?」
エルザはそう思い、 マーラーを殺そうとするのをやめて、 救いだそうとしていた。
だが、 マーラーは自分ではなくオリアクスを救ってほしいと強く思っている。
エルザとマーラーの思いはすれ違おうとしている。
──オリアクス!! 生きて!! お願い!!
マーラーは心の中でありったけの強い思いで叫ぶ。
すると、 突然エルザの頭から狼の耳が現れる。
大人のエルザの狼の耳は魔法で透明にしており、 相手の心を読みとる時にだけ肉眼で見えるようにしていた。
マーラーのオリアクスを助けたいという感情を読みとったエルザは、 力強い声色でマーラーに言った。
「汝の声、 私が聞き届けた!!」
そう言い終わると、 エルザはショットガンから魔力を込めた弾丸を空へと撃った。
その様子を遠く離れた場所で見ていた羅奈とラグリスは、 何が起こったのか理解出来なかった。
(銃声が聞こえたけど、 どうしたのかしら?)
弾は空中で爆発し、 オリアクスの時間は静止した。
エルザは走ると、 諦めた様子のオリアクスに向かって横から跳び蹴りをくらわせた。
オリアクスの身体は空中で静止している。
エルザが指を鳴らすと時間が動きだし、 オリアクスの身体は勢いよく吹き飛び地面に倒れた。
「ぐぁっ!!?」
「助けてやったのに悲鳴をあげるとは……」
「エルザは助けかたが荒すぎなんだよ!!」
オリアクスはエルザにキレると、 その様子を見ていたソラトが声をかけた。
「バカだね!! 代わりにアンタが死ぬだけだよ!!」
ソラトが出した大きな剣はエルザの真上にある。
重い音を鳴らしながらエルザを突き刺そうと落下していた。
「確かにその魔法は強い。 だが、 落下時間がかかりすぎだ!!」
「そうはさせないよ!!」
エルザは魔力を込めた弾丸を装填するとソラトが出現させた剣に向かって撃ち込もうとしていると、 ソラトが魔法の球体がエルザの身体を直撃する。
「エルザ!!」
オリアクスがエルザの無事を確認するように叫ぶと、 一発の弾丸が大きな剣に当たると大きくヒビが入った。
「この程度の魔法で、 私の弾丸を止められると思ったか!!」
それを聞いたソラトはエルザを嘲笑た。
「アハハハ!! バカだね!! その剣は突き刺すためのものじゃない!! こうするためさ!!」
ソラトは片手を前に翳すと魔力を込める。
すると、 大きな剣は形を変形させていくと赤色の巨大な鳥が姿を現した。
「まだ魔力が尽きない…。 白羽根の力は最高だねぇ!!」
上機嫌なソラトを前にエルザは呆れを含ませた声色で告げた。
「まだ片羽根しか白くなってないにも関わらず、勝利した気になるとは……」
「打つ手がないくせに……。 さっさと死にな!!」
ソラトは赤色の巨鳥をエルザに襲わせる。
「仕方がない……。 少し、 本気を出すことにしよう」
エルザは持っていたショットガンを消滅させると、 素手になった。