連戦
「ヤーグっちったら遅いねぇ」
レッヒェルンの一人、 ソラトがクマのぬいぐるみを抱きしめながら、 自室で独り言を呟く。
壁にかけられた時計は深夜2時をさしていた。
ソラトの部屋は6畳の広さで家具はピンク色が多く。 白いソファーには沢山のクマのぬいぐるみが置かれている。
──コンコン
誰かが部屋をノックする音が聞こえる。
「こんな夜遅くに誰だい?」
「ソラト。 遅くにすみません」
ソラトは訪ねてきた人物に驚き声をあげた。
「テンジン様!! 何かあったのですか!?」
テンジンは申し訳ない顔を見せ、 ソラトに告げる。
「……ヤーグが殺されました」
「え!? ヤーグが……そんな!!」
ソラトはその場で涙を流すとテンジンはこう続けた。
「それで、 今から絶斬を奪いに行ってほしいのです。 すでにマーラーという悪魔を向かわせました。 彼女と合流してください」
──悪魔と合流? テンジン様はなにを考えて……
「……分かりました」
ソラトは涙を拭うとテンジンに魔方陣を描いてもらい、 ワープした。
──
ヤーグ達を殺した羅奈達は疲れきっており、 その場から座ったまま動けないでいた。
「あともう少しだけ休んだら、 塔へ帰りましょう」
「そうだね。 羅奈やオリアクスは大きなケガとかはしてないかい?」
ラグリスは皆を心配すると、 地面に仰向けになっていたオリアクスが喋る。
「お前のおかげで全身が痛てぇよ!!」
ラグリスはその返事に苦笑した。
「ごめんよ 連れ戻すのに必死だったからさ」
その会話を聞いていた羅奈はオリアクスに問いかける。
「オリアクスさん。 まだ天使側につくの?」
オリアクスは爽やかな笑みを浮かべ答えた。
「もうつかねーよ。 マーラーを蘇生させてもアイツは喜ばねぇと思ったんだ。 だから、 またお嬢ちゃんを守るぜ」
「なら良かったわ。 さて、 そろそろ帰りましょうか」
ホッとした羅奈は立ち上がるとオリアクスが叫ぶ。
「何かが来るぞ!!」
オリアクスは立ち上がると羅奈の前に立つ。
地面には赤色の魔方陣が描かれ光を放っていた。
「絶斬の所有者を殺して絶斬を奪う」
魔方陣の上にはワープしてきたマーラーが姿を現した。
黒い猫耳と尻尾に見覚えがあるオリアクスが叫ぶ。
「その耳と尻尾は、 まさかマーラーか!!」
オリアクスが驚くと戦闘態勢に入ったラグリスがマーラーに襲いかかる。
「オリアクス、 殺す!!」
マーラーはラグリスの腹に回し蹴りをくらわせ地面へと吹き飛ばした。
「なんて威力だ……!!」
ラグリスは腹を左手で押さえながら言うと疲労していることもあってか、 立つのもやっとといった状態だ。
マーラー以外の全員が疲労し、 ラグリスは血を流しすぎたことにより重症の状態。
オリアクスはカルミオ、 ラグリスとの連戦で魔力の半分以上を失っている。
羅奈は状況を判断して力強くラグリス達に話しかけた。
「皆で逃げるのよ!!」
その判断にオリアクスは呟く。
「オレは魔力切れで魔法陣を描けない」
「わかったわ。 とにかく走りましょう!!」
羅奈は一足先に走りだすも、 疲労からスピードがだんだんと下がっていく。
それをみたオリアクスは、 スピードが下がる一方の羅奈を両手で抱きかかえると足に力を込めて先へ進んだ。
ラグリスもそれに続くと、 マーラーがコウモリに似た羽根を羽ばたかせて空から襲いかかってくる。
両手の手のひらから小さな球体を連続で飛ばし羅奈達を追い詰めていく。
オリアクス達はなんとか避けるとラグリスの走るペースが下がってくる。
「ラグリス!!」
羅奈が声をかけるも、 ラグリスの体はもう限界だった。
「後で必ず追いつく…ぐっ…!!」
ラグリスはその場で倒れると、 マーラーは攻撃の対象をオリアクス達に絞った。
倒れたラグリスを見た羅奈は自分を激しく責めた。
「私が走ろうなんて言い出したから……!!」
「お嬢ちゃん!! 今は逃げることだけを考えろ!!」
オリアクスは羅奈を抱きかかえつつ球体を避け続け、 全速力で駆けていく。
息を切らしながら走っているオリアクスの目の前に、 魔法陣が描かれていくと、 ソラトが姿を現した。
ソラトは追いかけているマーラーの行動を瞬時に判断すると、 オリアクスの小さくなっていく背中を見ながら、 魔法で作り出した弓矢を構える。
「アガリアの言う通り殺しておくんだった!!」
矢を限界まで引くと、 ソラトは狙いをオリアクスの背中に定め、 矢を放った。
矢は弧を描き、 風を切りながら一直線に向かっていく。
オリアクスは空中に逃げようと、 背中にある2枚の黒い羽根に力を込めたその時──
「ぐあっ!!」
オリアクスの片翼にソラトの放った矢が命中した。
すぐに真っ赤な血が流れ、 背中は燃えるように熱くズキズキとした痛みがオリアクスを襲う。
「オリアクスさん!! 大丈夫!?」
羅奈を落とすまいと、 オリアクスは地に足を思いきりつけ、 踏ん張っているも表情はかなり辛そうだ。
「一人で……逃げれるか?」
オリアクスは息も絶え絶えに話しかけると羅奈は戸惑いの表情を見せるも、 オリアクスが伝えたい言葉を理解した。
「オリアクスさん。 もしかして……!!」
「ああ。 ここで奴等を食い止める!!」
「一人では無茶よ!! 私も一緒──」
「いいから走れ!!!」
オリアクスは叫ぶと羅奈は塔に向かって走り出す。
(二人とも、 どうか死なないでね……)
「絶斬。 奪う」
マーラーは羅奈に向かって、 闇の球体を連続で地面に飛ばし、 小型の悪魔を召喚する
。
「どいて!!」
群がってくる悪魔達に羅奈は立ち止まると、 絶斬を振り回し倒していく。
羅奈は走り出すも斬られた悪魔達は分裂し、 数を増やして羅奈の前に立つ。 その数は200体。
「厄介ね……!! 私は急いでるのに!!」
羅奈は走りながら絶斬を身体ごと一回転させると悪魔はまた数を増やす、 羅奈が攻撃を繰り返すほど数は増えていった。
羅奈は目の前が見えないほどの悪魔達に襲われようとしたその時だった──
「うぎゃあ!!」
「ぐああ!!」
悪魔達が銃弾を撃ち込まれて、 次々に倒れていく。
「何が起こったの!?」
羅奈は背後から聞こえた音に振り返った。
「よく、 ここまで持ちこたえた!!」
狼の尻尾を揺らし、 銀色のライフルを手にした大人の姿になったエルザがそこにいた。