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揺れ動く


ラグリスがオリアクスの背中に羽根があることに気付く。


「その羽根は──」


「お前に話すことは何もない」


オリアクスはそう言えば、 右手の手のひらから氷のつぶてをラグリスに向かって飛ばすも勝手に動き回る絶斬ゼツキによって全て真っ二つにされてしまった。


「オリアクス。二手に別れて戦うっス!!」


「わかった。オレは絶斬ゼツキの所有者をやる」


「じゃあオレっちは紺色の髪のやつと戦うっス」


「ああ!!」


オリアクスはそう言い放つとヤーグは一瞬にして魔方陣を地面に描くと自分とラグリスだけ別の場所にワープさせたのだった。

それを確認したオリアクスは羅奈の方に視線を向けた。


絶斬ゼツキは今、 羅奈の所に戻り手の中にある。


「続きをしようぜ。絶斬ゼツキの所有者」


「オリアクスさん。どうして!! だって絶斬ゼツキを守るって言ってたじゃない!!」


「オレはテンジン様に着いていくと決めたんだ!!」


その言葉を聞いた羅奈は悲しげな声色で呟いた。



「……オリアクスさん。何があったの? お願いよ話してちょうだい」


「……例えば、生き返らせたいやつがいるとする。そいつを本当に蘇生できるとしたら、どうする?」


羅奈は真剣に考えた後にこう言った。


「蘇生させるわね」


「……そうか」


「でも、 蘇生させてと頼まれてもいないのにそんなことされたら、 相手はどう思うのかしらね?」


──マーラーの気持ち……か


オリアクスの心は揺れ動くと脳裏にマーラーの言葉を思い出す。


──あたしがしんじゃったら。オリアクスはどうする?


オリアクスの心臓が大きくドクンと鳴る。


オリアクスは平静を装いながら問いかけた。



「もし、 医者から長く生きることができないと言われたら、どうする?」


オリアクスはマーラーと羅奈を重ねていた。


「受け入れるわ」


その言葉を聞いてオリアクスはハッとした。


──マーラー……


オリアクスはマーラーと出会った事を思い出す。


──


6歳になったばかりのオリアクスとカルミオが魔界にある公園で昼の時間に砂遊びをしている時だった。


「ね。 あたしもまぜて」


黒髪のミディアムヘアーに黒の大きな猫耳が特徴的な愛らしい見た目の女の子が二人の前にやってきた。


「「いいよ」」


「ありがとう」


三人は大きな砂山を作るために砂を集めていた。

しばらくしてオリアクスがミディアムヘアーの女の子に問いかけた。


「お前、なまえは?」


「マーラー」


それを聞いたオリアクスは隣にいるカルミオを指さした。


「オレはオリアクス。こっちはカルミオだ」


「よろしくな」


「よろしくね。オリアクス、カルミオ」


それから週に一回のペースでマーラーと遊ぶのだった。


そんな日が続くと思われたが、ある日を境にマーラーは公園に来なくなった。


その後日、昼の公園にはオリアクスと10歳のラグリスの姿があった。


「で、そのマーラーの代わりに僕が遊べというわけだね」


「話が早くてたすかるぞ、カルミオが熱を出して寝ているからヒマだったんだ」


「いいよ。久しぶりに遊ぼうか」


オリアクスとラグリスは鬼ごっこや滑り台で遊んでいると、 一人の赤い角が額にある悪魔が公園にやってきた。


公園のベンチに座っていたラグリスの前まで慌てた様子でやってくる。


若い大人の男悪魔が声をかけた。


「ラグリス、薬屋へ道案内をしてくれ!!」


「今、この子と遊んでるから後にしてくれよ。と、言いたいところだけど。 どうしたんだい?」


「お前が世話になっている悪魔が高熱を出した。早く薬を届けてやりたい」


「なんだって!? すぐに行こう!! オリアクス。そういうことだから君は家に帰るんだ」


ラグリスが優しい声色で言うとオリアクスは首を左右に振った。


「イヤだ!! まだ遊ぶんだ!!」


「ボウズ、最近は昼間でも子供を狙った犯罪が多い、 だから家に帰れ。 ラグリス、行くぞ」


「あ、ああ。じゃあね」


ラグリスと大人の悪魔は走って公園を後にした。

公園にはオリアクス一人しかいない。

まだ遊ぼうと思っていたが腹の音が鳴る。



「腹がへったし、オレも帰るか」


歩きだした時だった、 マーラーの姿が遠くから見えた。

オリアクスは走ってマーラーの所まで行く。


「マーラー。1ヶ月ぶりだな」


「うん。オリアクスが元気そうで良かった」


二人は笑いあい楽しそうにしていると、 マーラーはオリアクスの顔が赤くなっていることに気づく。

マーラーはオリアクスの額に手を当てた。


「オリアクス。 ねつがあるの?」


「さわるな!! はずかしいだろ!!」


オリアクスは顔を真っ赤にしてマーラーの手を優しく払いのける。

オリアクスは初めて出会った時からマーラーに一目惚れしていた。


「オリアクスに大事な話があるの」


「なんだよ」


「お医者さんがね、 あたしは長く生きられないんだって」


マーラーのその言葉に雷にうたれたような衝撃がオリアクスを襲う。


オリアクスはマーラーに詰め寄った。


「じゃあ死ぬのかよ!!」


「そうなるね」


「病気がなんだ、 医者に治してもら──」


「それが、 治せないんだって……言われたんだ」


「えっ……!?」


「でも、 あたしは生きてるだけで幸せだからいいの」


「いつ死ぬか分からないんだぞ!!」


「もう、 あたしは受け入れてるから……」


マーラーはニッコリとそう呟くとオリアクスに問いかけた。


「あたしがしんじゃったら、 オリアクスはどうする?」


「オレはお前のことを一生わすれない。 お前が死ぬまで、 オレとカルミオと楽しい思い出をたくさん作ろう」


その言葉を聞いたマーラーは笑顔になった。


「ありがとうオリアクス。 あたし、 とても嬉しいよ」


「へへっ!!」


オリアクスとマーラーは並んで歩いて帰ろうと歩きだしたときだった。


誰かが凄い勢いでオリアクス達の前から1人の中年の男悪魔が走ってくる。

男はフードを目深にかぶりオリアクス達からは顔が良く見えない。


手には血のついた包丁を手にしていた。

中年の男悪魔の背後には数人の悪魔が走っていた。


「どけ!!」


中年の男悪魔がオリアクスとマーラーの前を通りすぎたと同時に包丁を持った右手が大きく動いた。


「……がっ!!」


オリアクスは腹を切り付けられ、 オリアクスの隣にいたマーラーは心臓の位置を切り付けられた。


「うぅ!!」


マーラーは倒れてうめく。


中年の男悪魔は逃げようとするも待ち伏せしていた屈強な悪魔達によって取り押さえられた。


「すぐに子供達の手当てを!!」


屈強な悪魔の一人がオリアクス達に回復魔法を使い、 重症のマーラーを治すそうとするも傷口が深くなかなか塞がらない。

血がどんどん溢れてきて、 マーラーはめまいがしてきた。


悪魔に地面に寝かされた状態のオリアクスは涙を流し、 マーラーを切り付けた中年の男悪魔を睨み付けた。

その顔は逆光により見えず、 背中には羽根があったため、 オリアクスは天使の仕業と思っていた。


マーラーは意識を失うとぐったりとしている。


「心臓、 停止しました!!」


悪魔が大きな声で叫ぶとオリアクスは声を絞りだした。


「マーラー!!」


「大丈夫だ!! 友達はきっと助かる!!」


オリアクスの手当てをしていた悪魔が声をかける。


マーラーの心臓に回復魔法を当てる屈強な悪魔だったが、 ピクリとも動かないマーラーを見て顔が青ざめていた。


「死亡……確認しました」


「───っ!!?」



───


オリアクスは羅奈を見るとこう呟いた。


「アイツに似ているな。……考え方も意思の強さも」


「……誰のことかしら?」


「マーラーという悪魔だ。まぁ、絶斬ゼツキの所有者には関係ないことか」


「そうね」


羅奈は絶斬ゼツキを構えるとこう言った。


「どうする? このまま戦う?」


羅奈の表情はためらい気味だ。


オリアクスはマーラーについて思うところがあるようで、息を吐くと言葉を発した。


「今日のところはやめておく。次に会う時は容赦しない」


「……」


オリアクスはそう言えば人差し指を地面につけると魔法陣を発動させて天界へと帰るのだった。


「ラグリス。無事でいてね」


羅奈はラグリスを探しに向かった。

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