全力
カルミオとオリアクスは同時に氷の剣と炎を纏わせたナイフを振り下ろす。
衝撃で高音が鳴るなか、ナイフに纏わせた炎により氷の剣が少しずつ溶けていき炎を纏わせたナイフがオリアクスにジリジリと近付いてくる。
シュウウと氷が溶ける音がし、カルミオの炎を纏わせたナイフをギリギリで避けるとオリアクスはカルミオに向かって右手から氷のつぶてを飛ばす。
「クッ……!!」
カルミオは炎を纏わせたナイフで氷のつぶてを斬る。
オリアクスは左手に氷の槍を形成し、大きく後ろに下がるとカルミオに向かって投げた。
それを見たカルミオは地面から炎の防壁を出すと槍は溶けずに防壁に突き刺さる。
防ぐことしか出来ないカルミオは歯を食い縛った。
「クソッ……!!」
「やっぱりお前は甘いな!!」
オリアクスの声はカルミオの背後から聞こえた。
氷の槍を放ったのは炎の防壁を出させカルミオの注意を反らすための囮だった。
オリアクスの拳はガードが遅れたカルミオの頬に当たると勢いよく吹き飛ばされてしまい大木に激突し地面に落ちた。
カルミオが立ち上がるとオリアクスを睨み付ける。
「っ!! ここからだ!!」
「本気で来い!!」
オリアクスはカルミオの目の前に素早く移動すると右手を氷の鉤爪にし、カルミオの喉元を抉ろうとする。
カルミオはオリアクスの右手首を掴むと炎を出すとオリアクスの右手を焼き、 氷の鉤爪を溶かそうとしていた。
「ハッ!!」
右手が焼かれるのをもろともしないオリアクスは空いていた左手でカルミオの顔面を殴ろうとするが、カルミオが目の前に出した炎の防壁により殴ることが出来なくなり仕方なく拳を引っ込めた。
オリアクスは氷のつぶてをカルミオの手に当て捕まれていた手を離させると、大きく下がる途中で回復魔法を使い焼かれた手を治した。
「オリアクスー!! オレッちは絶斬の所有者達と遊んでくるっスよ!!」
遠くからヤーグの声が聞こえると、 羅奈とラグリスが追いかけていく姿が見えた。
「ああ!!」
ヤーグ達が離れたのを確認するとオリアクスはカルミオを見つめた。
「お前、 オレを殺すことをためらっているだろ?」
「ボクはアンタを連れ戻すだけだ!!」
「それが甘いと言ってるんだ!!」
オリアクスがそう叫んだ瞬間背中から2枚のカラスの羽根に似た漆黒の翼がバサッと音を立てて生えた。
「オレの新たなる力か……!!」
オリアクスは自分の魔力が上がっていくのを感じた。
魔力が上がったということは魔法の威力も強くなったことになる。
悪魔が背中から羽根を生やすときは決別の意味と信頼の意味、 その二つが込められている。
カルミオが怪訝な表情で問いかけた。
「オリアクスが羽根をはやした理由はどっちの意味だ?」
「お前達との決別だ!!」
カルミオは悲しそうに呟く。
「オリアクス……本当にそっち側についたんだな」
オリアクスはその言葉を否定した。
「オレはオレの意思に従ったまでだ!!」
「そこまで言いきったなら、 ためらう必要はないな!!」
カルミオは体から黒い霧を出すと子ヤギに変身する。
オリアクスはバカにするように鼻を鳴らした。
「ハッ!! ピンチになったらその姿か。 学習しねーな」
「うるさい!!」
子ヤギのカルミオはそう言うと口から特大の熱線を吐き出した。
熱線は辺りを抉りながら猛スピードで向かっていく。オリアクスはその場から一歩も動かず右手を前に翳した。
熱線がオリアクスの右手に近づいた瞬間だった。
オリアクスは熱線を一瞬にして凍らせ粉々に砕く。
「!!」
カルミオは驚くも休みなく熱線を吐き出していくがオリアクスに全て凍らされて砕かれてしまった。
「オレはまだ半分の力もだしてないぜ」
オリアクスは挑発する。
「そう言えばボクが怒るとでも思ったか?」
「お前が弱いのは事実だぜ」
熱線を吐いても凍らされてしまうので、埒があかないと思ったカルミオは一瞬にして人の姿に戻るとオリアクスに向かって特大の火の玉を飛ばす。
オリアクスは似たような攻撃にうんざりすると漆黒の羽根で体を守り火の玉を防いだ。
カルミオはナイフを捨てると炎の剣を手に持った。
オリアクスもそれに合わせて氷の剣を出す。
一瞬にしてお互いの姿が消えると辺りには風を切る音が連続で聞こえた。
カルミオとオリアクスの姿が見えるとカルミオは傷だらけで頭から血を流しており立つのもやっとといった感じだ。
カルミオは最後の力を振り絞りオリアクスの足元に向かって炎の爆発を起こした。
「爆発の前にはわずかに燃える匂いがするぜ」
そう呟けばオリアクスはその爆発を読み、簡単に避けるとカルミオの目の前に移動する。
「──っ!!」
反応できていないカルミオに向かってオリアクスは踵落としを頭にくらわせる。 カルミオはその場に倒れて気を失った。
「アイツの所に行かないとな」
オリアクスは着地すると漆黒の羽根をはばたかせてヤーグの所へ向かうのだった。
──ガチャ
塔の入り口のドアが開くとダウが様子を見に来た。
「カルミオ様!! しっかりしてください!!」
倒れているカルミオを起こすとぐったりしていた。
ダウはカルミオを引きずりながら運ぶと塔の中へと運んでいき、 ベッドに寝かす。
「羅奈様達は、 大丈夫でしょうか」
ダウは不安な表情をしながら、 カルミオの手当てをするのだった。
──
ヤーグは絶斬の斬撃を避けていた。
「ああ、 もう!! すばしっこいわね!!」
「何度やっても同じっス!!」
羅奈はイラつきながら斬撃を飛ばすとラグリスが声をかけた。
「羅奈!! 熱くなってはダメだよ!!」
「わかってるわ!! でも、 こうも攻撃が当たらな──」
羅奈が話している時を狙いヤーグが黄色の大きな球体を飛ばす。
羅奈はすぐに避けて絶斬の刃から赤色の斬撃を飛ばした。
するとヤーグは防壁を出すと防ぐ。
ヤーグはワンパターンの攻撃にうんざりしたのか本性をあらわす。
「そろそろ仕舞いにしてやる!!」
そう言えば地面がグラグラと揺れ、 羅奈達は立てなくなると地面に大きな亀裂が入り、 その中から炎が噴き出した。
噴き出していく炎は羅奈とラグリスに向かっていく。
揺れている中ラグリスはなんとか立ち上がると羅奈を抱きかかえ、 近くの大木に高くジャンプして炎を避ける。
「さぁ。 絶斬を頂くぞ!!」
ヤーグは青色の羽根を背中からはやすと、 羅奈の持つ絶斬を奪おうと突っ込んでくる。
「絶斬!! どうしたの!?」
絶斬が羅奈の手から離れると勝手に動きヤーグに立ち向かっていく。
(そうか!! フィリアちゃんが動かしているのね!!)
絶斬の中に入っているフィリアの魂は懸命に攻撃すると、 ヤーグの頬にかすり傷を負わせた。
「なんで絶斬が勝手に動くんだ!! そんな情報聞いてねぇぞ!!」
ヤーグは焦りを見せると飛んでくる絶斬に集中している。
ラグリスはこのチャンスを逃すまいと血から作り出した無数の針を、 ナイフや槍に変化させると 一斉にヤーグに放った。
「しまっ──」
ヤーグがそう呟いた瞬間、 ナイフや槍が一瞬にして凍った。
ガシャンと音を立ててナイフと槍は地面に落ち、 地面から噴き出していた炎も凍っていた。
「終わったぜ」
オリアクスは漆黒の羽根をはばたかせながらヤーグの背後に浮いていた。
「やっと来たっスね!!」
「早く絶斬を奪うぞ」
オリアクスは淡々と告げるとヤーグはいつものおちゃらけた性格に戻ったのだった。
「オリアクス…」
ラグリスは光が消えた瞳でオリアクスを見つめていた。