動揺
羅奈達は塔へと戻ると入口にはカルミオとエルザが立っていた。
「これまでの事はエルザに聞いたぞ。 ところでオリアクスはどうした?」
カルミオが不思議に思いラグリスに声をかけるがラグリスは虚ろな表情をし、 瞳の光が消えていた。
その様子をカルミオは理解し、 しばらく考えた後こう言った。
「……まさか迷子になったのか? 方向音痴だからなアイツは」
「……違うよ」
ラグリスが感情のこもらない声で告げる。
「とりあえず詳しく聞かせろ」
カルミオはラグリス達に詳しく話を聞くために中に入ると休憩室へ向かったのだった。
──
「そんな事があったのか。 あのバカ兄貴が!!」
「オリアクスくんがまさか天使側につくとはな…驚いた」
一連の流れを聞いたカルミオはキレてエルザは頭を悩ませていた。
机を間に挟んだ状態で、 羅奈の左側にはラグリスが隣に座っており、 カルミオはラグリスの目の前に座っていた。
羅奈の斜めにはカルミオが座っており、 目の前にはエルザが座っている。
「ラグリス。 大丈夫?」
「……」
ラグリスは相当落ち込んでいるらしく、 羅奈の返事に気づかないでいた。
羅奈もショックを受けており元気がない。
しばらくの間、 沈黙の空気が流れる。
「もしオリアクスと戦うことになったら。 僕は戦えない」
その言葉を聞いた羅奈がラグリスに声をかける。
「オリアクスさんなりに、 きっと何か理由があるのよ」
「そうだけど……幼なじみが敵になったなんて笑えないよね」
ラグリスはハハハと乾いた笑いを浮かべると顔を伏せた。
それを見た羅奈はもう何も話さなかった。
「オリアクスのやつ!! 悪魔のクセになにを考えている!! ふざけるな!!」
今にもカルミオは怒りから物を壊す危険性があることをエルザは予想した。
「カルミオくん物に当たるのはやめろよ。 カルミオくんもラグリスも一旦オリアクスくんのことは頭からはなせ」
その言葉を聞いたカルミオは机を勢いよく叩き壊すと机が斜めに傾いた。
「父上から頂いた机が!!」
「オリアクスのことはどうでもいいのか!!」
「違う!! 私は別の事を考えろと言ってるだけではないか!!」
ヒートアッブするカルミオと冷静なエルザはお互いの意見がぶつかり合う。
「とにかく落ち着きましょう!! このままだと次に進めないわ」
羅奈はふたりをなだめるように言えばカルミオは部屋を出ていった。
それを見たエルザは重くため息を吐いた。
「こういう時はキレても解決しないぞ」
「カルミオさんもそれだけ動揺しているのよ」
「そうだな。とりあえず青の絶斬を修理しなければ。 貸してくれ」
「え、 ええ」
羅奈はエルザの何事にも動じない姿を見て驚きを隠せなかった。
「一晩だ」
それを聞いたダウはエルザを止めた。
「エルザ様。 無理ですよ!!」
「何がなんでも私はやるぞ!!」
「エルザ様!! お待ちください!!」
「ダウも入ってくるな!! これから明日の朝方まで修理する。 だから誰も工房に近づかないでくれ」
「わかったわ。 でも無理しないでね」
エルザは言い終わるとダウを残し工房へ歩いて行った。
ラグリスと羅奈だけが休憩室に残った。
──
エルザは一人、 工房の中にいた。
「フィリア。 修理するからその中から出てこい」
「うん。 わかった。 そこのぬいぐるみを媒介にさせてもらうね」
フィリアの魂が机の上に置いてあるクマのぬいぐるみの中に入っていくのをエルザは見つめる。
やがてクマのぬいぐるみはフィリアの魂が入ったことにより動きはじめた。
「羅奈ちゃんは動揺してたけど、 お兄様はどうなの?」
「フィリア。 いま忙しいから後にしてほしい」
「邪魔してごめんなさい。 お兄様」
エルザは釜の中に絶斬を入れると
高温になるまで待っていたが慌てた様子で絶斬を釜の中から出す。
「私としたことが、 工程を間違えるとはな……」
エルザは思ったより動揺している自分に苦笑しながら正しい工程で絶斬を直していくのだった。
──
天界に着いたヤーグとオリアクスはレッヒェルンのメンバーの一人、 ソラトと出会う。
「ヤーグっち。 なに悪魔を連れてきてんのさ。 悪魔は敵だよ!!」
ソラトはオリアクスを睨み付けながらヤーグに話す。
「いやー。 オリアクスが天使側につくっていうんで連れて来たッス」
「アンタ!! テンジン様に知られたら怒られるよ!!」
ソラトがヤーグにキツく言うとオリアクスが口を開いた。
「そのテンジンに用がある。 どこにいるんだ?」
「悪魔のクセにテンジン様に会いたいって言うの!? 自分の身の程をわきまえたら!!」
ソラトは本気で怒るとオリアクスの胸ぐらを掴む。
「えーなになに。 ソラトさんが怒ってるー!! わーブッサイク!!」
楽しそうにスキップしてやってきたのは子供の天使、 アガリアだった。
フードの影で顔はよく見えない。
「アガリア、 うるさいよ!!」
ソラトはキレて雷の魔法をアガリアに落とす。
アガリアは笑いながら避けるとやり返そうと手のひらを構えた。
「やめるっス!!」
ヤーグが止めに入るとアガリアはつまらなさそうな表情で構えるのをやめた。
「そういえば、 おにーさん誰? 悪魔の気配がするんだけど」
アガリアはオリアクスを指差す。
「オレはオリアクスだ」
「ふーん。 なんで悪魔がここに?」
「オレが天使側についたからだ」
アガリアとソラトは驚きを隠せないでいた。
「ソラトさん。 コイツ殺したほうが良くない? 絶対裏切るよ。 悪魔だもん」
「アガリア。 殺すとか言わないッス!!」
「えー!! 殺したいー!!」
ヤーグとアガリアはしばらく口論を続けていた。