戦い
城下町へと続く大きな石橋を羅奈とラグリスは歩いている。
先を歩くラグリスが振り返らずに声をかけた。
「いつもだったら商人や城の兵士が多いんだけど、今日は僕達しかいないね。珍しいこともあるなぁ」
ラグリスは気の抜けた声色で話すと、羅奈は不安な表情になり声を発した。
「ねぇ、本当にこの道であってるの?」
「大丈夫さ。城下町へ行ける道はここしかないし、僕達が渡っている石橋が目印だからね」
「そう……」
羅奈は不安が消えないまま返事をすると、ラグリスの前から3人の中年の男達が歩いてくる。
一人は黒い顎髭を生やし、もう一人は赤い帽子を被り、最後の一人は左目にモノクルをかけていた。
男達はヒソヒソと何かを話しており、ラグリスは警戒している。
男達がすれ違う瞬間に、赤い帽子を被った男がラグリスに話しかけてくる。
「お前さん達、こんな昼間っから城下町に用事か?」
「今、急いでるんで……じゃあね」
ラグリスは素っ気なく言うと早足で歩き出す。
羅奈もそれに続いた。
「おっと……待ちな!!」
顎髭を生やした男が自分の足をラグリスの足に引っかけて転ばせようとするも、簡単に避けられてしまった。
男達は羅奈の周りを囲むと、魔法で剣を形成し羅奈達に向けた。
「あ……ぁ……!!」
羅奈は恐怖から全身が震え、動けなくなっていた。
「「「……さぁ、絶斬を渡せ!!」」」
3人がその言葉を言うと、ラグリスがコートの内ポケットからバタフライナイフを取り出す。
羅奈を守るようにラグリスは前に立つと笑みを浮かべ、バタフライナイフで躊躇うことなく自分の左手首を切った。
「コイツ、頭がおかしいのか!?」
左目にモノクルをかけた男がラグリスをバカにした瞬間、隣にいた顎髭を生やした男が両腕を切断された状態で倒れた。
「……っ!?」
モノクルをかけた男は倒れた仲間に気づく前に、すでに胸には黒い針が50本以上貫通し、心臓を貫いていた。
「グァァ!!」
モノクルをかけた男は短い悲鳴をあげると、その場でジャンプしたラグリスに顔面を回し蹴りされ橋の上から落ちて水に叩きつけられると動かなくなった。
残った赤い帽子を被った男にラグリスは声をかける。
「あとはお前だけだね」
柔らかい笑みと共に投げかけた言葉に、赤い帽子を被った男はある事に気づく。
「お前のその力……まさか!?」
男の目には、ラグリスが切った手首から流れた血を黒い針に変えている姿が映る。
「……そろそろ針を使うのも飽きてきたよ」
ラグリスはそう言って、右手にある50本の針を力強く握ると長さ30センチの剣となった。
「殺シテヤルウゥゥ!!」
赤い帽子を被った男は一つ目の青い化け物に変身するも、ラグリスは驚くことなく剣を構え、羅奈は恐怖からしゃがむと体を震えさせている。
化け物になった天使の体格は身長こそ変わらないが、とても筋肉質だった。
「ウォォォ!!!!」
「死んでくれよ」
化け物になった天使は殴りかかるもラグリスは簡単に避け高くジャンプすると、相手の太い首に向かって剣を振るおうとした時だった。
「やめて、殺さないで!!」
羅奈が叫ぶように声を出すもラグリスは止まらず、化け物になった天使の首に剣を突き刺した。
相手はそのまま石の地面に倒れると動かなくなった。
「終わったみたいだね」
ラグリスはホッとすると、羅奈に声をかけた。
「行こうか」
羅奈は立ち上がると、ラグリスを見上げる。
「どうして、殺したの?」
羅奈は敵が殺されることに耐えられなかった。
だが、ラグリスの考えは違ったようで少し不機嫌な表情になりながら答えた。
「天使は敵だからさ。それに、僕が戦わなかったら君はもっとヒドイ目にあっていたんだよ」
「それは……そうかも知れないわ…でも──」
「君は常に天使から狙われていることを忘れないで。それと、止める言葉を無視して勝手に動いたことは謝るよ」
「謝ってもらう必要なんてないわ、守ってくれたから……。ねぇ。アナタは何者なの? 本当に人間なの?」
「僕は正真正銘、ただの人間さ」
「……敵はアナタの力に何か気付いたみた──」
「君が知る必要はない。さ、歩くよ」
ラグリスは少し強く言うと、羅奈の前を歩きだした。