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ジャンガリアンハムスター


──悪魔トイフェル・番人ヴァッヘ本部



「知ってるか?」


「何を?」



男と女がロビーで立ち話をしていた。


「ラグリスの噂だよ。 アイツ、 暗殺部隊の隊長らしいぜ」


「軍人だったけど訓練に耐えきれず逃げてきたと聞いたんだけど」


それを聞いた男は首を傾げながらこう呟いた。


「どっちが本当なんだろうか?」


「私が知るわけないじゃない。 アストレアさんに聞いてみりゃあ分かるんじゃないの?」


そこへアストレアが前を通っていく。

男は声をかけた。


「あの、 少しお聞きしたいことが……」


「何かしらぁ? アタシも暇じゃないのよねー」


人差し指に毛先をクルクルと絡ませつつ面倒くさそうにアストレアは答えた。


「あの、 ラグリスは暗殺部隊の隊長という噂が流れていまして……」


「本当に隊長なら、 わざわざ悪魔トイフェル・番人ヴァッヘで働かないでしょ。 アンタバカじゃないの?」


「では、 どうしてラグリスは悪魔トイフェル・番人ヴァッヘに来たのでしょうか?」


アストレアその言葉を聞いた途端とたん、 思いだしながら言った。


「確か、 天使に復讐するためとか。 皆殺しにするとか言ってたわねぇ。 とにかく天使にかなり恨みを抱いてるように見えたわよ」


「ぶ、 物騒な理由ですね」


「とにかく変な詮索せんさくはよしなさいな」


アストレアは気だるそうに言うと歩きだした。

小さくなっていく背中を見送りながら男はこう呟いた。


「ラグリス。 一体何者なんだ?」



──


あれからラグリスは泣き止むと羅奈にこう言った。


「ごめん。 パジャマが涙で濡れてしまったね」


「いいのよ。 気にしないで。 ところで妹さんはいつから眠っているの?」


「ユリィは10年間も眠っているよ」


「そう。 天使ってロクなことしないのね」


「天使は八つ裂きにしても足りないくらいだよ。 本当に根絶やしにしてやりたい!!」


怨恨がこもった声色でラグリスは言った。

それを聞いた羅奈は疑問に思いこう呟いた。


「妹を眠らせた他に、 天使に何かされたの?」


「……」


ラグリスは口を閉じ、 一言も喋らなかった。 まるで拒否しているようだ。


「ごめんなさい。 聞いちゃいけなかったのね」


「羅奈にはいつかちゃんと話すからね」


「ええ。 私、 ドライヤーで髪を乾かしてくるわね」


それじゃあ。 と羅奈は手を振ると部屋を出ていった。


ラグリスは椅子に座るとユリィの手を握りしめる。


「……ユリィに呪いをかけた天使は、 必ず見つけるからね」


しばらくするとラグリスは名残惜しそうに部屋を後にした。


──


髪を乾かし終わった羅奈は椅子に座り机の上にある呼びベルを鳴らす。 するとダウが数分遅れで羅奈の元へとやってきた。


「ダウさん。 少し聞きたいことがあるの」


「私に分かる範囲でしたらお答えします」


「ラグリスって名前は悪魔達にとって有名な名前なのかしら?」


「それはもう有名ですよ。 なんたって魔王カルマ様のご友人の名前ですから」


羅奈は目を丸くさせ驚いていた。


「私の知っているラグリスがそんな凄い人だったなんて」


それを聞いたダウは慌てた様子で訂正する。


「あの、 違います。 ラグリス様のお父様が魔王カルマ様のご友人なのです」


「ややこしいわね。 ねぇ、 ダウさんはラグリスの本名は知っているの?」


「いえ。 お父様の名前を借りていることしかわたしは知りません」


そう。 と羅奈は呟くと、 思い出だしたような口振りで話す。


「私。 魔界に来てから魔王様に会っていないのよ。 会わせてもらうことは可能かしら?」


申し訳なさそうにダウは口を開いた。


「それがカルマ様は旅に出ておりまして。 いつお帰りになられるか分からないのです」


「じゃあ魔王様の家族でいいわ。 魔界には長く住むつもりだから一度会って絶斬ゼツキの所有者であることを知っていてもらわないとね」


「あの、 カルマ様のご子息でしたら、 もうお会いになっていますよ」


「そうなの? 誰かしら?」


検討がつかないと羅奈は思い考えようとした矢先にダウが自慢するように答えを言ってきた。


「エルザ様です」


「エルザさんが!? じゃあ魔界の王子様ってことになるのね?」


「そうなりますね。 王子様の見習い執事となれるなんて、 わたしは幸せ者です」


ダウは喜びの表情を見せると、 その体にある変化が起こった。

羅奈は思わず指をさしてこう言った。


「ダウさん!! その姿!!」


「え? ああ!!」


ダウは羅奈を見上げると顔を真っ赤にして恥ずかしがる。 ダウの体は小さなコウモリの羽根が生えた黒のジャンガリアンハムスターになっていた

その愛らしい姿に羅奈は思わず笑顔になる。


「ウフフ。 可愛いわね」


羅奈が手のひらを差し出すとダウはトコトコと肩の上まで登ってきた。


「どうやら魔力切れのようです。 人間の姿になるにはあと3日もこの姿になっていないと…」


羅奈に頬を指で撫でられながらまんざらでもない様子でダウは続けた。


「わたしがこの姿に変身したとすると恐らくエルザ様も動物の姿に…」


「エルザさんも可愛くなってたりしないかしら?」


「そういえばエルザ様。 動物の姿になっているお姿を見たことがないのです。 羅奈様、 連れていってください」


「いいわよ」


羅奈はダウを肩に乗せたまま扉を開け、 廊下を進んでいくと奥から歩いてきたラグリスと出会った。


「やあ。 その肩に乗っているハムスターはどうしたんだい?」


「ダウさんの魔力が切れてこの姿になったみたいなのよ」


「ああ。 だから姿が変わったんだね。 実はエルザも姿が変わったのさ。 ダウにどうにかしてもらおうと思っていたんだけど、 しばらくは無理そうだね」


「ねぇ、 エルザさんはダウさんみたいに可愛い姿なのかしら?」


「可愛いというより…うーん。 とりあえず行けば分かるよ」


ラグリスは羅奈達をエルザの場所まで案内すると扉を開けたのだった。

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