年齢
日がだいぶ昇ってきた。
昼間の太陽は暖かく羅奈達を包み込む。
途中、休息をとりながらようやく森を抜けると城下町の入り口に出た
入り口の所には鎧に身を固めた勇ましい兵士が一人立っている。
「少し待っていてくれるかい?」
そう言ってラグリスは羅奈を置いてけぼりにして、なにやら兵士と話をしていた。
(早く元の世界に帰りたい……こんな物騒な世界は嫌よ)
羅奈は不安になった。
簡単に人を殺し、助けてくれたとは言うものの、いつ『敵』になるか判らないラグリスと一緒に行動しているのだから。
(ラグリスに気付かれないようにしないと)
そう思っているとラグリスが羅奈の方をジッと見つめていた。
考えを読まれたと思いすぐにラグリスを見つめかえす。
「ラグリス…どうしたの?」
「なんだ…聞いてなかったのか」
ラグリスは少し残念がる声を出し、ため息をついていた。
「…僕は君の年齢を聞いてたんだけど?」
「えっと、16歳よ」
羅奈は訳がわからず聞かれたままに答える。
「ええ!! 君って12歳じゃないのかい!? 顔が幼いからてっきり…」
どうやら兵士と羅奈の年齢について話し合っていたようだ。
「よく言われるけど違うわよ、人を外見だけで判断しないでほしいわ」
羅奈がふてくされるような声で呟く。
生前から幼く見られてしまうことを思い出してしまったからだ。
「じゃあ僕の一つ年下だね、僕は17歳だから」
なにがそんなに嬉しいのかラグリスはニッコリ微笑みながらそう言った。
(ラグリスといると疲れるわね)
羅奈がそう思っている内にようやく兵士が門を通してくれた。
「まずは休憩でもしようか」
「その前に聞きたいことがあるわ」
城下町へと繋がる道を二人は歩いている、一本道になっておりとても緑豊かな道だ。
「どうしたんだい?」
「呪いを解いたら、私が生き返って元の世界で暮らすことは可能なの?」
一番気になっていたことを羅奈は質問する。
「呪いを解く方法すら分からないのに。ね、諦めたら?」
諦めた様子でラグリスは答える。
その言葉が羅奈の心を傷つけた。
「っ…!」
羅奈は驚きのあまり言葉がつまる。
どうやらラグリスとは馬が合わないらしい。
少しでも情報が欲しいにも関わらず、ラグリスの口からは諦めと羅奈の行動を静止させようとする言葉ばかりだ。
「僕は必要最低限のことしか聞かされてないからね、僕も知りたいよ」
「その必要最低限のことを、私に教えなさいよ!!」
「………羅奈。僕の話をちゃんと聞いてた? それに、僕の仕事の機密を話すわけにはいかないよ」
ラグリスははぁっ、と溜め息まじりに呟くその姿はまるで初めから何もかも諦めたようだ。
一方、羅奈は不満と怒りで心の中がグチャグチャになっていた。
そんな話をしている中、いつの間にか休憩所の入り口に着いていた。
外観は小さなカフェで緑色の屋根が目印だ、窓から見える店内はオシャレなシャンデリアと若い人達の笑い声が室内から漏れる。
店内のドアを開けるとカラン、と音がした。
コーヒー豆のいい匂いか漂っている。
豆の香りの効果かは分からないが、羅奈の怒りは少し調和されたようである。
ラグリスは店員にコチラの人数を告げている。
ラグリスとしては早く休みたいのか早口になっていた。
羅奈はその場で立ち止まり、考え事に頭を働かせている最中だった。
(そういえば死ぬ前、私は入院してたのだったわね。まずはゆっくり休みつつ話を聞いたほうがよさそうだわ)
入院していたということは全く体を動かしてないのと同じことになる。
そうなると体力のハンデがついてきてしまう。
(考えるよりも、まずは休みましょう)
羅奈は考えるのを止めると、その場ののんびりとした空気に身を任せるのであった。
遠くのほうでラグリスが待ちくたびれて頬を膨らませながら不機嫌になっていたのは言うまでもない。
――店員に案内され、個室に入る。
窓からは日の光が降り注ぎ、窓側には丸い机に背もたれがないイスが置いてあった。
部屋は二人が入るには狭いがイスが向かい合わせになっており、机に飲み物でも置いてゆっくりと話が出来るようになっている。
羅奈は絶斬を壁に立て、ラグリスが注文した紅茶を飲んで心を落ち着かせていた。
羅奈の目の前にはラグリスが座っており渋い顔をしながら紅茶を飲んでいる。
「………苦いな」
羅奈はアクビが終わると気になる事を聞いた。
「首の切傷はもう大丈夫?」
羅奈はラグリスの首の傷を見て心配していた。
「大丈夫だよ、君は意外に優しいんだね」
ラグリスが珍しげな目で羅奈を見つめる、まるであまり人に優しくされた事がないかのようだ。
「そう」
羅奈は警戒心が消えないのか素っ気なく答えると絶斬を見つめていた。
「もう絶斬が知られているとはね……気をつけないと」
ラグリスは絶斬を見つめている羅奈に声をかける。
「どうしてあの人は絶斬を狙って来たのかしら?」
「あれは『最弱な天使』だからだよ」
羅奈は怪訝な顔をしながらラグリスを見る。
「天使って……え……? だって普通の人間だったじゃない‼」
「言っただろう? 弱い天使だって。 魔法を使って人間に姿を変えているのさ」
「でも……。天使って幸せを運んでくれる存在でしょう?」
「ハッ……あり得ないね。まぁ、詳しくは教えられないけど。天使は君にとっては敵になるんだ……僕にとってもね」
ラグリスが吐き捨てるように言うと、不機嫌な顔になっている。
「どうしたの?」
「むちゃくちゃだな……と思っただけだよ、絶斬は本来………」
そこまで言いかけるとラグリスは急に話すのを止めた。
その顔は話しすぎたというより、話すべきことではなかった…という風に見えた。
「あまり詳しくは教えられないのだったわね。もういいわ、ありがとう」
「とにかく。君の一番の目的は呪いを解いて生き返ることで間違いないね?」
「ええ。そのためにはアナタに頼りきりになってしまうけど……。アナタは私の味方でいいのよね?」
「味方というよりは、君を守るのが僕の仕事だからね」
「そんな仕事があるのね、覚えておくわ。とりあえずこれからよろしくね」
「ああ。よろしく」
二人は握手をかわすとラグリスが思い出したように告げた。
「そういえば…まだ王様に会ってなかったよね?」
「ええ、私は来たばかりだから…。もしかして王様に会いに行くの?」
「この世界に来たら王様に会わないとダメな決まりなんだよ。あとは絶斬の事を話さないといけないしね、今から行こうよ」
そう言うとラグリスは立ち上がり休憩所を後にした。
羅奈も絶斬を持つと、ラグリスに着いていった。