捜索
キツネの尾が生えた女。 テンジンとカウトは城の一室へと戻ってきた。
テンジンはカウトをベッドへと寝かせると口を開いた。
「カウト。アナタはゆっくり休みなさい」
「ハイ。テンジン様」
カウトは数分後、疲れのあまりすぐに眠りについた。
「テンジン様。もうお帰りになられましたの?」
テンジンの背後からか細い声が聞こえた。
後ろを振り向くと白のラインが施された黒のゴスロリに背中には青色の羽根を生やした少女が立っていた。
「ハウイエル。ただいま」
ハウイエルと呼ばれた少女は一礼すると薄いピンクの髪の毛が揺れ、 紫色の瞳でテンジンをまっすぐ見つめている。
「あの。カウトお兄様は大丈夫ですか?」
「傷は深いですが、天使には優れた回復力があるのです。だから一晩眠ればカウトは元気になりますよ」
それを聞いてハウイエルは安堵の息を吐くとテンジンに問いかけた。
「絶斬の所有者にやられたの?」
「違います。穢らわしい悪魔にやられました。アタシが助けなければどうなっていたことやら……」
「カウトお兄様を助けていただき感謝します。ところでその悪魔、ワタシが殺してもよろしいですの?」
ハウイエルのその言葉にテンジンの表情は曇っていた。
「アタシが見た悪魔は人の形ではなくヤギの姿をしていました。魔界には獣が多くいるので見つけるのに数ヵ月はかかるかと……殺すのはやめておきなさい」
テンジンは語尾を強めて言うとハウイエルは納得いかない様子で、はい。と答えた。
「カウトが元気になったら、悪魔を根絶やしに行きましょうね」
テンジンはニッコリと笑いハウイエルを元気付けようとしていたが反対にハウイエルは不安な表情になっていた。
「悪魔どもに勝てるのでしょうか?」
「大丈夫です。必ず勝ちますよ」
テンジンが語尾を強めてそう言えばハウイエルは少しだけ口元が緩んだ。
「ハウイエル。敬語とタメ口が混ざったその喋り方。なおしておきなさいね」
「は、 はい」
ーー
あれから羅奈とラグリスはカルミオと合流するとその場に座り休息をとっていた。
ラグリスが馬の鼻を撫でながら羅奈達に伝える。
「馬はただ驚いただけだから、馬車は使えるよ」
「良かった。これで魔界に戻れるわね」
「郵便配達の仕事も終わり、天使を退けることができた。……しかしあの女天使は何者だ…?」
カルミオは顎に手を当て考えているとラグリスが話しかけてきた。
「天使は一人だったんだろう?」
「最初は一人だった…途中で増えてしまった」
「二対一か…カルミオさん。それしても体は無傷なんだね」
「魔法を使って休まずに攻撃していたからな。熱線を出していたので地形が変わってしまった」
カルミオはヤギの姿に変身していたことを隠して嘘をついた。
ラグリスはその事に気づかずに口を開く。
「地形が変わるほどの魔法が使えるなんて悪魔は凄いんだねぇ。非力な人間とは大違いだよ」
「悪魔の番人も血を武器に変えられる…あれは魔法ではないのか?」
「あれは遺伝だよ。僕の父親が特異体質でね。その遺伝子を受け継いだのさ」
「そうか。悪魔の番人はボクとは違い人間だから魔法は使えないのか」
「魔法を使えるのは悪魔と天使だけだからね」
羅奈はあることに気がつくとラグリス達に話しかけた。
「あそこって魔界の位置よね?」
羅奈は何かがあった方角を指差している。
ラグリス達は指の方へ視線を向ける。
ラグリスは呑気に口を開けて呟いた。
「やけに大きな雨雲だね。これはどしゃ降りになりそうだよ」
ラグリスとは対照的にカルミオは焦った表情を見せると大きな声で叫ぶ。
「まずい!! 魔界は土地によっては洪水になりやすい!! すぐに帰るぞ!!」
「僕が馬車を運転するからカルミオさん達は中に入って!!」
カルミオ達が入ったことを確認すると。ラグリスはムチで馬を叩いた。
馬車は速度を上げながら進んでいった。
ーー
羅奈達が到着したときにはすでに魔界は大雨になっており門の所まで避難している者が大勢いた。
一人の女の悪魔が紙を片手に名前を呼んでおり生存しているかどうか確認している。
「今はこれで全員でしょうか?」
女の悪魔が訪ねると一人の幼い男の悪魔が勢いよく走ってきた。
「かーちゃんが来てない!!」
「分かりました。この中で動ける者は母親を探してください」
幼い悪魔は泣きべそをかき、やがて大声で泣き出した。
ガヤガヤと悪魔達が口を動かす。
「たしか、最近引っ越してきた悪魔だよな?」
「あのボウズの家族は近所付き合いがなかったからな。母親を探せと言われてもこの大雨じゃ探しようが……」
このままでは誰も探す気配がないと察した女の悪魔は叫ぶように声を出した。
「早く、早く探してください!!」
それを聞いた悪魔達はヤジを飛ばした。
やっと避難できたのに母親を探すために引き返さなければならないからだ。
その様子を羅奈達は黙って見ているしかなかった。
すると、 ラグリスが大勢の悪魔達をかきわけて前に出た。 全員の視線はラグリスに集中している。
「僕が母親を探すから。その子供のことを任せていいかな?」
その言葉を聴いた瞬間。怒号が飛びかった。
「人間のクセにオレ達に命令する気か!?」
「いい度胸だ。殺してやる!!」
怒りの声は大きくなっていくも女の悪魔と羅奈達は呆れていた。
「カルミオさん。ラグリスと一緒に母親を探しに行ってくるわね」
「なら、ボクもアナタに着いていこう。土地勘がある悪魔がいれば安心だろ?」
「カルミオさん。ありがとう」
「早く探しにいくぞ」
羅奈達が進むなか、ラグリスは力強くある言葉を発した。
「僕は悪魔の番人だ!!」
さっきまでの怒号が嘘のように今度は静まりまえった。
「悪魔の番人は悪魔を守ることが仕事だという…そんな奴に立てついたらどんな処罰が下るかわかったもんじゃねぇ!!」
「あの人間が悪魔の番人だと? ただの人間じゃあないか」
半信半疑の悪魔。 信じる悪魔。 様々な意見が飛び交う中、ラグリスは堂々としていたが納得がいかない様子の悪魔はこう投げかけた。
「なら、お前の両親の名前を言ってみろ!! どうせ大したことないんだろ!!」
ラグリスは自信に満ちた声でこう言った。
「母はヤム・ハンヌ。父はラグリス・ルシア」
それまでラグリスの事をバカにしていた悪魔達全てが頭を地につけそのまま動かなくなった。
どうやら『ラグリス』という名前を聞いただけで震えだしたようだ。
羅奈達はラグリスと合流すると母親を探しに進んでいくのだった。