ヤギの本気
「クソ悪魔ガ変身シタ?!」
ブルブルと頭を左右に動かす子供のヤギの姿をしたカルミオにカウトは動揺していた。こんなことは初めて見た光景だったからだ。
「久しぶりにこの姿に変身したな」
カルミオの声色は変わらないがエコーがかかったように辺りに声が響く。
「タカガ獣一匹にオレノ友人ガ殺サレタノカ………アリ得ヌ!!」
天使が舐めてかかっていた瞬間。カルミオは口を開くと赤色の熱線を吐きだした。威力は絶大で地面を抉りながら凄い速さで天使に向かっていく。
ーードカン!!
カウトは間一髪で避けると割れた地面の石が頬をかすった。
「グゥ……!」
「次は外さない」
背中に生えた漆黒の羽根をはばたかせると空中に浮かび再び熱線を吐き出した。
カウトは魔法を使い目の前に防壁を張ると防ごうとしていた。
ーービキビキ
防壁にはいくつものヒビが入り粉々に砕け散るもカウトは再び防壁を出す。
「グゥゥ!! ナントイウ威力ダ!!」
防ごうとするも熱線の威力とスピードは落ちることなく一直線に天使の体を貫いたーー
ーーその頃
羅奈はラグリスを探して森の中にいた。
「見つからないわね」
カルミオが天使と戦っているのも気にはなるがラグリスのことが最優先だと思っていた。
「これだけ探しても見つからない…。一度戻ってカルミオさんと合流しましょう」
羅奈はそう言って戻ろうとした時だった。
「ぎゃああああ!!!」
「ー!?」
男の悲鳴がこだまする。
羅奈は声のするほうへ走っていくと倒れている化物を発見した。
「死んでるの…?」
羅奈は化け物に恐る恐る近付くと覚えのある声が聞こえた。
「遅かったね羅奈。 天使はだいぶ強くなってきたよ」
「ラグリス……無事だったのね」
振り返るとラグリスがいたが服はところどころ破れ肌が見えていた。
「首をはねたほうがいいのかしら?」
「うん。このまま放っておくと魔法で傷を回復されてしまうからね」
それを聞いた羅奈はすぐに天使の首を絶斬で切り落とすが、その両手は震えていた。
羅奈はそんな自分にため息を吐くとラグリスに話しかける。
「……慣れないわね」
「首をはねるのが?」
「ええ」
「慣れろとは言わないけどさ。くれぐれも悪魔の前ではその言葉は言わないでくれよ」
「どうして?」
「悪魔は絶斬の所有者が人間だってことを快く思っていないんだ」
「そう……」
「悪く思わないでくれよ。悪魔は差別されてきた種族だからね」
その言葉を聞いた羅奈は怪訝な顔をした。
「どうして差別されているの?」
「外見が普通じゃないからだよ。羅奈は角や羽根がある者達を人間と呼べるかい?」
「それは……」
「人間や天使から差別されている種族…それが悪魔なんだよ」
「でも悪魔を守ってくれる悪魔の番人がいるじゃない」
「ああ。だから僕達が守るんだ。悪魔をね」
「私も頑張らないとね。そろそろカルミオさんと合流しましょう」
「そうだね」
羅奈達は天使の死体をあとにした。
しばらくしてフードをすっぽりと被った者が羽根を動かし地に降りてくる。
「ああ、 なんとむごい……」
声は女でキツネの尻尾を揺らし、白い羽根を広げて死体を包み込んだ。
「シュタインのかたき。わたくしがとりましょう」
女は怒りに満ちた声を出すと天使の死体ごと姿を消したのだった。
あれから天使と戦い続けていたカルミオだったが天使のタフさにため息を吐いた。
「グウゥゥ!!」
「やはり首をはねないとダメか」
カルミオがもう一度熱線を吐こうとした時、雷が天使を守るように周りに落ちる。
体をすっぽりとフードで覆い白い羽根が生えた女が降りてきた。
フードの影で顔はよく見えない。
「かわいそうに…カウト、大丈夫ですか?」
「傷ハ深イデス」
女は狐の尻尾を一振りすると地面に赤色の魔方陣が描かれていく。
カルミオは逃がすまいと額から長い角を生やし、猛ダッシュで女に向かい突き刺そうとする。
ーーガシィ!!
「!!?」
カルミオの角は女の細腕に掴まれ、勢いよく放り投げられた。
カルミオは羽根を動かし空中で体勢を整えると口から特大の熱線を吐き出した。
「カウト。帰りますよ」
女はそう言って分厚い防壁を出すと熱線を防ぐ。シュウウと音をたて熱線が煙となって消えると一つの傷もなく防壁は消えたのだった。
「逃げられたか……」
カルミオは角がある人型の姿に戻ると羅奈達の帰りを待つのだった。