騒がしい二人
羅奈が目を覚ますとダウが顔を覗きこんできた。
「おはようございます。もうお昼前ですよ。ラグリス様はエルザ様のお手伝いに。オリアクス様は門の警備に行かれました」
ダウがニッコリと笑うと八重歯が見える。
「そういえばダウさんって悪魔なのよね?」
その言葉にダウは自慢するように答えた。
「そうですよ。オリアクス様みたいに角はありませんし、私はエルザ様と同じ魔法を使い、人の姿になった悪魔なのです」
「人間の姿? どういうこと?」
「以前になりますが、獣の姿になれると言ったことを覚えていますか?」
「ええ」
「エルザ様も私と同じく獣の姿になれます」
羅奈はその言葉を聞いて困った表情をみせた。
「ねぇ……どっちが本当の姿なの?」
「この魔界に住んでる者は皆、人間と獣。2種類の姿になれるのです」
ダウは得意げに話すと羅奈は疑問に思ったことを投げかけた。
「じゃあエルザさんはどうなのかしら?」
ダウは説明だけで終わると思っていたので羅奈の質問にはスラスラと答えられずに少し考えながら口を開いた。
「エルザ様は魔法で大人の姿になっているだけで…実年齢はえ~――」
「ダウよ。片付けにいつまでかかっているのだ?」
白いシャツと黒のデニムのラフな格好でエルザは部屋へとやってきた。
「エルザ様……申し訳ありません。しばしのお待ちを」
「急がなくてよいぞ。 これから休憩にしようと思っていたのでな。 この塔にいる皆で朝食を食べよう」
「はい。 ではアッサムティーとフレンチトーストを人数分お持ち致します」
ダウは一礼すると調理場へと迎っていった。
羅奈はベットから降りてブーツを履くとエルザがポツリと呟いた。
「汝は私と一緒に来るがよい。 食事する場所まで案内しよう」
「……わかったわ」
羅奈はエルザと共に部屋を後にしたのだった。
――
「これから僕と羅奈はどうすればいいんだい? 僕は悪魔の番人の仕事もあるから頻繁にはエルザのところへは来れないよ?」
朝食を食べ終わったラグリスは正面に座っているエルザに話しかける。
エルザはその言葉に目を丸くさせた。
「どうするも何もラグリスと青の二人はここに住めばよかろう?」
「は…?」
ラグリスはエルザの考えが読めず何かの冗談だろうと思っていた。
「なに、急かす輩が武器を片手に押し掛けてくることがあるが、 ラグリスが気にすることではない」
「エルザの客はチンピラばかりじゃないか!! もし、 毎日来られたら羅奈の気が休まらないだろう!!」
自分勝手に話を進めるエルザにムカついたラグリスは口を尖らせた。
「いつもそうやって勝手に決めるんだから‼ 君の悪い癖だ!!」
ラグリスはエルザに向かって指をさすとその態度が気に入らなかったエルザは強く言った。
「絶斬の所有者である青を守るためには私やラグリスが側にいたほうがいいだろう!!」
「確かにそうだけど――」
ラグリスとエルザはお互いに一歩も譲らない。 それぞれの意見はぶつかりあい止まることなく続いた。
羅奈はケンカしている二人に視線も移さずに黙ってアッサムティーを飲み干した。
(エルザさんって本当に何者なのかしら…?)
そんな事を思いながら羅奈は机の上にある呼びベルをチリンと鳴らした。
「羅奈様。 如何なされました?」
「違う紅茶が飲みたくなって…。 ダージリンティーはあるかしら?」
「かしこまりました。 すぐにお持ちいたします」
ダウは軽く頭を下げると部屋を出ていく。
ラグリスとエルザはまだ言い争っており羅奈は呆れたようにため息を吐いた。
「私達が話してばかりではな。 ここは青の意見も聞こうと思うのだ」
紅茶を取りに行っていたダウが戻ってくると素早く羅奈の目の前にダージリンティーが置かれた。
「それはいい案だね。 羅奈はエルザ達とここに住むか悪魔の番人の本部に戻るかどちらがいいんだい?」
ラグリスの問いかけに羅奈は紅茶を飲んだ後に返答した。
「急にそんなこと言われても、 すぐには決断できないわ」
それを見たエルザはラグリスをバカにした笑みを浮かべこう言った。
「ほらみろ。 青は困っているではないか」
「元はエルザがここに住めと言い出したことがキッカケになったんだよ!!」
ラグリスは机をバンッ!! と壊れんばかりの力で叩いた。
羅奈は唖然としており反対にエルザはつまらなそうな顔をしていた。
「住めと言ったのは絶斬を修理するためだ。 今のまま使い続けていたらいずれ壊れてしまう」
修理という言葉を聞いた羅奈はエルザに問いかける。
「……エルザさん、 修理にどれくらいかかる?」
「早くて1週間だな。 状態にもよる」
羅奈はしばしの沈黙の後にラグリスの方へと顔を向け、 口を開いた。
「絶斬が壊れるのが嫌だから私はしばらくここに住もうと思うわ」
羅奈の言葉を聞いたラグリスはガックリと肩を落としこう呟く。
「滞在記録を貰うため悪魔の番人に今すぐに戻らないとダメなんだ。 僕は羅奈との距離が遠く離れるとペナルティーになってしまうから着いてきてもらうよ」
「分かったわ。カルミオさんの様子も気になるし一度本部へ戻りましょう」
ラグリスと羅奈はその場を立ち上がると部屋に戻り支度を済ませると出入口の方へと階段を降りていくのだった。
「もう少しゆっくり出来ぬのか、 あの者達は…」
「エルザ様。仕方ありませんよ」
残されたエルザとダウはそう話すのだった。