エルザ・ロイヤ
羅奈のことをエルザは見下ろしていた。
「……」
口を開かない羅奈にエルザは不信感を露にしつつ威厳のある声で問いかけた。
「汝は喋れないのか? 名前だけでもよいから私に教えてくれぬか?」
「…羅奈」
「発音しづらい名だ…。 そうだ名案があるぞ。 私が呼びやすいように汝の愛称をつけてやろう」
「え…?」
「そうだな、 瞳が青いから青に決まりだ」
エルザは羅奈の意見を聞かず勝手に物事を進める。
羅奈はそんなエルザに嫌気がさしたのか溜め息を吐いた。
「ハァ…」
「よろし――ん。 青よ、 その背負ったのは何だ? 私に見せるがよい」
「じゃあちょっと待ってて」
羅奈は背負った竹刀袋の中から絶斬を取り出し床に置く。
――ビュウウウ
突然小さな竜巻が絶斬の周りに出現し、エルザと羅奈は吹き飛ばされて壁に頭をぶつけてしまう。
「一体何が起こったの!?」
羅奈は頭を押さえつつ辺りを見回すとエルザが天井見上げて何かを叫んでいた。
「私は汝を招いた覚えはないぞ!! この部屋から立ち去るがいい!!」
「ど、どうしたの?」
羅奈は状況が飲み込めず混乱しているが、 エルザが指を向けると羅奈も動きにつられて顔を天井へと向けると人間の男が宙に浮かんでいた。
普通の人間が宙に浮くのはありえないので恐らくは天使だと羅奈は思っている。
「ぐへへへ …絶斬が手に入ったからお前達に用はねぇ」
「私の絶斬が!!」
天使は絶斬を左手に持つと高笑いをしている。
羅奈は返してと叫ぶが天使は気にもせずに羅奈達の前へと降りてきた。
「エルザ、 お前がチンタラしてっから取られるんだぞ~」
天使は挑発しながらエルザの前へと来ると話し合おうとしていた。
しかし、 エルザは天使の事など気にもとめずに涼しい顔でこう呟いた。
「……その手で我が絶斬に触れるな!!」
その言葉が終わるとバン!! と羅奈の耳に銃声が聞こえた。
エルザの右手には魔法で作った小型の銃が握られていた。 銃の耐久性はないのかすぐに崩れ、床に落ちる頃にはサラサラとした黒い粉になっていた。
「あ…が…か…!!」
撃たれた天使はその場に倒れると頭からは血を流し床を染めていく。 左手に持っていた絶斬は床に落ちている。天使はもう助からずこのまま死ぬだけだ。
「…ねぇ…どうして撃ったの? 絶斬を取り返すとしても別の方法があったんじゃ」
「……殺したほうが手取早い。この者が最弱な天使で良かった、最弱なら私一人でも殺すことができる。天使に情は無用だ」
エルザは撃たれた相手が敵だろうと関係なかった。相手と話すのが面倒だから躊躇わず殺そうとしたまでだ。
羅奈は平然と相手を殺そうとするエルザに驚きを隠せないでいた。自身も戦いの時は敵に容赦はしないもののエルザの場合は違う。敵意を向けられていないにも関わらず相手を撃った。
羅奈はエルザの考えが読めなかった。
羅奈が急げば撃たれた男を助けることもできるが、敵か味方か分からない以上は助けるのはやめたほうがいいと考えていた。
(私が絶斬の所有者であるかぎり、敵意がなくても人が死んでゆくのね…)
羅奈はこの先に起こるであろう戦いを憂いていた。そんな羅奈を気にもかけず、エルザは男に向って言葉を投げた。
「汝の話を聞く耳など持たぬ…。そこで死んでいろ」
「…あ…く…っ」
男はエルザの事を悪魔と言うつもりだったのか口をパクパクさせ終わると。エルザは魔法で威力が高い片手撃ちのショットガンを出現させ、容赦なく天使の顔面や心臓を撃ち抜いた。
羅奈はエルザの行動に引きつつも床に落ちていた絶斬を拾う。
「絶斬が戻ってきてよかった」
羅奈は胸を撫で下ろすとエルザが横から話しかけてくる。
「青が絶斬の所有者なのか?」
「え、ええ…そうよ」
羅奈はぎこちない様子でそう答えるとエルザは額に手を当てる。
「ふむ……」
「……?」
羅奈はエルザの考えていることが全く読めず、 仕方なく辺りを見回していた。
「絶斬を私に見せてほしい。確かめたいことがあるのだ」
「見せるのはいいけど、アナタまで私の大切な絶斬を盗らないでね?」
「盗まないので安心せよ」
そう言ってエルザは床に置かれた絶斬を見る。するとエルザは羅奈に質問をした。
「青は絶斬をどこで手に入れた?」
羅奈は記憶を遡らせると初めてラグリスと出会った話をエルザに聞かせた。
エルザは羅奈の話に納得がいかないのか声に怒りが混ざりはじめる。
「ラグリスのやつ……やはりあの者には相応の処罰が必要だ」
「……どうして罰が必要なの?」
「絶斬はまだ修理と調整が必要な大鎌だ。それを知りつつも青に渡すとは!!」
「そもそも絶斬に触れて所有者になったのは私よ。だからラグリスは何も悪くないわ!!」
羅奈がそう言った途端、エルザはバツが悪そうな顔を見せる。
「汝の機嫌が悪くならないうちに、話を変えることにしよう」
話をそらすエルザに羅奈は何かを隠していると考えていた。
エルザはボックスの中から服を取りだしようやく着替えると羅奈にこう言った。
「とにかく、 汝はラグリスとここに住むとよい。 部屋は沢山あるので好きに使ってくれ」
「私は構わないけど、ラグリスまで巻き込むの?」
「ラグリスには会わなければいけない者がいる。故に拒否はしない」
「ずいぶんとラグリスのことを知っているのね。どうしてかしら?」
「時がくれば話そう」
「気が向いたら、ラグリスに聞くわね」
「むぅ……残念だ」
「私も聞きたいことがあるの。この絶斬は本物なの?」
その問いかけをされるとエルザは声色を鋭くした。
「本物に決まっているだろう。しかもフィリアが守ってくれており、魔界にとってとても神聖な大鎌だ。人間である青には理解出来ないだろうがな」
「疑ってごめんなさい。ねぇ、フィリアは何者なの?」
「人間にも素直な者がいるのだな。汝は謝ったのだ、ならば許すしかない。……フィリアは私の妹だ。今は肉体と魂が離れているがな」
「肉体と魂が……。じゃあフィリアちゃんの魂が絶斬に入り、守ってくれてるのね」
「そうだ。フィリアも青と一緒に戦いたいのであろう。天使を憎んでいるのだから……」
「それは……どうして?」
「天使に呪いをかけられているからだ。……この話はやめだ。私の機嫌が悪くなる」
エルザは苛立つ表情をすると外に出るためドアを開ける。 羅奈もそれに続いた――