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青い小鳥


「大丈夫さ。本物だよ」


「わかったわ。ねぇ、エルザさんを起こしてもっと安全な所に避難してもらったほうがいいと思うのよね」


それを聞いたラグリスは仕方ないと言いたげに深くため息を吐いた。


「じゃあ僕が叩き起こしてくるよ……。エルザは魔界にとって大切な存在だからね」


そう言ってラグリスはエルザが寝ているベッドの前に移動する。


スヤスヤと気持ちよく眠っているエルザの顔を数回ビンタする。が、エルザは目を覚まさない。苛ついたラグリスは手加減なしのビンタを頬に御見舞いした。


「いい加減に起きてくれよ!!」


「……っ!!」


ラグリスがもう一発ビンタをしようと同じタイミングでようやくエルザが目を覚ます。


絶斬ゼツキの所有者が君を待ってるよ。女の子を待たせるなんて男として恥ずかしくないのかい!!?」


ラグリスは怒りに満ちた声で厳しく言うと、エルザは銀髪を揺らしながら体を起こし、瞼を擦りつつマイペースに返事した。


「もう来たのか……ふむ。もう少し遅い到着だと良かったのだがな……ふぁぁ」


「アクビしてる暇なんてないよ!! さぁ、絶斬ゼツキの所有者に顔を向けるんだ」


ラグリスがエルザの肩を軽くポンと叩くとエルザは不快な表情を見せ口を開く。


「所有者の顔はどうでもいい。それより、天使が紛れこんでいるな」


エルザの予想外の呟きに、ラグリスはすぐに対応する。


「今、魔界に天使達が攻めてきた。ソイツ達のことかい?」


「攻めてきた? とりあえずこの近くに天使がいる。どうやら数は3人のようだ……」


エルザは不機嫌な声でそういいながらベットから体を起こし、靴を履くのを見ていたラグリスは言葉を発した。


「オリアクスが殺しに行ってるから大丈夫さ」


「…オリアクスくんはゴミ処理が好きだから今頃は嬉々としているだろう」


そう言ってエルザは着ていた服を脱ぎ捨て、 上半身裸になる。


「さぁ、 お互いの顔見せだ」


「……せめて着替えるまで待ってくれ。全員、部屋の外で待っていろ」


ラグリス達は部屋を後にした。



──その頃


羅奈と別れたオリアクスは長い廊下を走っていた。

進んでいくたびに爆発音が大きくなっていく。 どうやら奥に敵がいるようだ。

突き当たりを右に曲がると白いローブを着た男が魔法を使い爆発を起こしていた。


「爆発を止めろ!!」


オリアクスは怒りを含んだ声で魔法を使い手の平から球体を放つ。

その球体は大きくなっていき相手に直撃し辺りは白い煙に包まれる。

オリアクスはこれで終わったとは思わず相手の様子を伺っていた。


「なかなかの威力…」


ローブの男が口を開くと同時にオリアクスは相手の飛ばした球体の魔法に当たり壁に背中を強く打ち付けた。


――ドッ!!!!


「グッ…!!」


「終わりだ」


「っ!!」


ローブの男はオリアクスの前に瞬間移動をし、 魔法で形成した剣をオリアクスの腹に突き刺し壁に貫通させる。腹からは血が服に滲み激痛が体を支配する。


「ぐあぁぁぁ!!!!」


「汚らわしい悪魔が…!!」


ローブの男はそう言ってさらに剣を深く突き刺す。

血がボタボタと床を真っ赤に染めていき水溜りのように広がった。


「っ…ククク!!」


オリアクスはそんな状況でも笑いを堪えるのに必死な様子を相手に見せる。 まるで挑発ともとれる行動にローブの男は苛立ち、 魔法で形成した2本の剣をオリアクスの両腕に突き刺した。


「何が可笑しい!! 言ってみろ!!」


怒りのあまり剣にグッと力を込め、 オリアクスの腕から血がブシュッと吹き出す。

それでもオリアクスは焦るそぶりも見せずにローブの男を見つめ口を開く。


「お前…本気でオレを殺すのか…? オレ達は友達だろ?」


「は…?」


ローブの男はオリアクスの事を知らない。

殺す対象として認識しただけであり親しくもなかった。


――この悪魔は何を言っている?


ローブの男は心の中で呟いた。


一方でオリアクスは相手が怪訝な顔をしているのを楽しんでいる。


――オレの勝ちだ!!


オリアクスは胸の中強く呟くと最後の仕上げにかかった。


「お前…確か小鳥が好きだったな」


オリアクスはそう言って指をパチンと鳴らすとローブの男が青い小鳥の姿に変わった。

オリアクスが魔法を使い変化させたのだ。


姿を変えられた相手は記憶や元の人格すら消え、 青い小鳥はオリアクスが()()という事を刷り込まされる。

相手の姿を動物に変えて支配下に置く。 それがオリアクスが得意とする魔法だった。


その魔法を発動させるためには必ず致命傷になる攻撃をくらわなければならない。

だが、一度使用すれば15年間は使えない魔法となっている。



「ピィピィ…ピィ!!」


「ハハハ!! 可愛いやつだな」


青い小鳥は元気よく鳴くとオリアクスの目の前をパタパタと飛んでいる。


オリアクスに刺さっていた剣はローブの男が鳥の姿に変えられた時に魔法が解けていた。

オリアクスは腹に手を当て治癒魔法で傷を癒す。

完全に回復したわけではないが、 動ける程度になっていた。


「コイツの他にもあと1人隠れ――。 気配が消えたか…」


オリアクスが疲労からその場に座りこんだ。 すると青い小鳥が肩に乗り口を開く。


「ピィピィ。オレっち、いばしょしってる」


「本当か!! なら案内を頼むぜ!!」


「ピィ。こっち」


青い小鳥は肩から降りるとパタパタと翼を羽ばたかせオリアクスの前を飛んでいく。

オリアクスは着いていくのだった。


――


あれからラグリスは羅奈と合流し、 エルザを待っていた。


思い出したようにラグリスは傍にいる羅奈に話しかけた。


「羅奈。君に言い忘れたことがあったんだ」


「なに?」


「人間が悪魔達に敬語を使うと敵対する意志があると思われるんだ。だからタメ口で話してね」


「そうなのね、教えてくれてありがとう。私からも質問があるのだけどいいかしら?」


「なんだい? 言ってごらん」


「正直、悪魔と天使の見分がけつかないのよね。オリアクスさんやカルミオさんみたいに角とかあれば分かりやすいのだけれど……」


「悪魔は獣の姿に変身でき、天使は羽根のない姿を持っているんだ」


羅奈はその言葉を聞いて目を丸くした。


「嘘でしょ!!?」


そう言って驚く羅奈にダウが声をかける。


「本当ですよ。羅奈様……悪魔と天使はそういう存在ですから」


柔らかな笑みを見せると同時にラグリスが人の気配に気づく。


「羅奈!! エルザと一緒に隠れていて!!」


「わ、わかったわ!!」


羅奈は慌ててエルザの部屋に身を潜めると、白いローブを被った1人がラグリスの目の前にやって来た。

ダウはそれに気付くと指笛を吹いてライオンを呼ぶが場所が離れているため到着まで時間がかかる。

ラグリス達が警戒している中、 白いローブを被った人物が口を開く。


「人間と悪魔が一匹ずつ」


その声は幼い少年だが、 敵とみなしたラグリス達には関係ない。


「ダウ、 さっさと終わらせよう!!」


「はい、ラグリス様!!」


ダウとラグリスは扉の奥にいる二人を守るために攻撃体勢に移った。


――


目の前には上半身裸で腰の位置にある、狼の白い尻尾を生やしたエルザが服を探していた。

エルザは背中を向けており、背後に羅奈がいることに気付いていない。


「ラグリス、手伝ってほしいことがある。とても簡単なことだ」


エルザは羅奈とラグリスを間違えていることに気付かないまま言葉を発した。


「私の隣にあるそこのボックスの中に入ったシャツを取ってくれ……。ああ、大人のサイズで頼む」


「……」


羅奈は沈黙を貫いているとエルザは不思議に思い振り返った。


「む……汝は?」


エルザはかなり驚いたのか、尻尾を逆立てグルルと唸り声をあげると羅奈の顔を確認するために歩いてくる。


オリアクスよりも背が高く銀色のウルフカットに紫色の冷たい瞳が印象的な20代くらいの青年が羅奈を見下ろしていた。

羅奈の身長153㎝より遥かに高く、エルザの身長は185㎝もあり、しなやかな体つきをし腕やウエストは細い。


「……っ」


羅奈はその冷たい雰囲気に圧倒され何も言えなかった。

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