表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/99

別れと出発


羅奈は息をきらしながら出入り口の扉を開けると、 目の前にはラグリスと馬車の男が話をしていた。


「僕とオリアクスが食事している時に話があると言いましたよね? 用件はなんですか?」


「出発の時間を変更してほしい。 今日の夕方にしてくれたまえ」


男の悪びれない様子にラグリスは苦笑しつつ口を開く。


「…カルミオさん達にも集合してくれって伝えましたか? 彼等にもちゃんと事情を説明してくれますか?」


「聞こえなかったか? ワシは夕方にしてくれと言ったのだよ?」


その一言に内に溜めていたラグリスの怒りが爆発した。


「もう僕達は出発できるって言ったのに、 どうして変更になったのですか!!」


「どーしてもだ!! お前さんは昨日の騒ぎを知ってるか? 怪我人が運ばれた話だ」


ラグリスは納得がいかない感情をぶつけ、 男はなだめるように言った。

ラグリスは口を尖らせながら問いかけに答える。


「その出来事なら知ってますよ…。 でも、 なんの関係があるんですか?」


「運ばれた奴はワシの友人だ。 せめて看病してやりたい」


「…わかりました。ですが、もし夕方になっても現れなければ僕達は勝手に行きますから!!」


ラグリスの語尾を強めた声色に男は根負けしたのか地図を胸ポケットから出しラグリスに渡した。


「魔界までの地図だ。そのルートを辿れば魔界につける」


「……」


ラグリスは不快に思ったようで何も言わずに受け取った。

馬車の男は友人に会うために走ると途中で紙切れを落とした、 その事に気付かないまま羅奈達がいるのを気にもせずに通りすぎていったのだった。


「羅奈…。みんなも居たんだね」


ラグリスが気づき歩いてくるとオリアクスはラグリスに耳打ちした。


「あの男。オレ達を殺す気だぜ、お嬢ちゃんにもこの事は伝えてある」


オリアクスとラグリスが話している最中に羅奈は紙切れを見つけた。


「ずいぶんと汚い字ね。走り書きかしら?」


羅奈が不思議な顔で読もうとした時、カルミオが羅奈の背後から声をかけた。


絶斬ゼツキの所有者よ。勝手に拾うのはよくないぞ」


「ごめんなさい。でも、何が書かれてるか気になって……私にはさっぱりわからないのよ」


羅奈がそう呟くとカルミオは紙切れを受け取り読んだ。


「計画。絶斬ゼツキ…。悪魔トイフェル・番人ヴァッヘ…殺して……。抵抗する場合は奴隷として売る。計画─の─中止の──」


カルミオが読み上げた内容に羅奈達は反応した。


「恐ろしいね。奴隷として売るだなんてさ」


ラグリスはそう呟くと羅奈も胸の内を話す。


「ねぇ。やっぱり私たちだけで魔界に行きましょうよ」


少しの沈黙の後にオリアクスが口を開く。


「カルミオ。お前、あの男を見張っていてくれないか?」


「そうするなら僕を含めて先に魔界に行ったほうが良くないか?」


悪魔トイフェル・番人ヴァッヘになっていないカルミオが絶斬ゼツキの所有者を守ると違反になって数ヶ月は面接を受けれなくなるぜ。それでもいいならオレ達と一緒にこい」


「……」


カルミオはすぐに答えが出なかったのかその場で沈黙してしまう。


羅奈はそのやり取りを聞いて疑問が浮かび気がついた時には自然と口が動いてしまった。


「ねぇ。悪魔トイフェル・番人ヴァッヘに所属するのってそんなに難しいことのなの?」


ラグリスは羅奈に顔を向けると優しく答えた。


「羅奈、君の聞いた通りだよ。勝手に悪魔トイフェル・番人ヴァッヘという名前を使われないために厳しくしてるんだ」


「そうなのね。あ……ごめん。お話の邪魔してしまって」


「謝ることはないんだよ。それより羅奈の知識が深まって良かったね」


「うん」


オリアクスはカルミオにどうするか聞いた。


「どうするんだよ。カルミオ」


「僕はオリアクスと同じ悪魔トイフェル・番人ヴァッヘに所属したい。ここは慎重に行動したいので馬車の男を見張ろうと思う。それとエルザへの報告はオリアクス達に任せた」



「カルミオさん。いいの?」


「ああ」


ラグリスは心配した様子でカルミオに話しかけた。


「カルミオさん気をつけて見張るんだよ」


「それくらい、わかっている」


カルミオはそう言ってニット帽を外し、その場で頭を掻こうとした。


「おっ!!」


オリアクスが思わず声をあげ弟であるカルミオの頭に指をさした。


「え!!」


羅奈は珍しいものを見つけた表情をするとカルミオに近づく。

だが、本人には状況が飲み込めていないのか怪訝な表情をしていた。


「何を……そんなに見つめている?」


「カルミオさん!! アナタの頭に角が生えてるのよ」


カルミオは恐る恐る頭をに手を伸ばす、すると小さなヤギの角が人差し指に当たる。試しに指の腹で押してみると尖っていてとても硬い。

オリアクスはカルミオの頭の角が本物だと確信するとはじけたような笑顔を見せる。

悪魔は体のどこかに角や尻尾が生えると立派な悪魔として認められるのだ。


「良かったな!! これでカルミオもオレと同じ一人前の悪魔だ!!」


「ウフフ、オリアクスさんも嬉しそうね」


オリアクスは弟の成長を誰よりも喜んでおり。羅奈も怖がることなく微笑んでいた。


「本当に怖くないのか?」


カルミオは人間である羅奈が自分を化け物呼ばわりするのではないかと怖れていた。

悪魔が差別される理由は人間とはかけ離れた見た目のせいだとカルミオは思っている。だが、羅奈はそんな理由など知ることもなく、当たり前のように呟く。


「だって、カルミオさんは私を守ってくれるじゃない」


「そうか」


声色こそ変わらないが実は羅奈も怖れていることがあった。

それは自分が死んだ存在だということ。

もしそれを知られればどんな反応をされるのだろう──そんな不安を羅奈は常に抱えていた。


(もしかすると私は、悪魔よりも異質な存在なのかも知れないわね)


羅奈は吐き捨てるように心の中で呟いた。


「とりあえずボクは頑張ってみる」


カルミオは羅奈の言葉を聞いて自信がついたのか少し大人びた表情をみせると手を振りながら羅奈達と別れたのだった。


少し離れたところからラグリスが羅奈とオリアクスに着いて行く。


「いいね。やっと仲間らしくなってきたよ」


そんな事を呟きながらラグリスは魔界へ行くため馬車の手綱を握った――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ