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焦り


──午前4時


羅奈が眠ってから3時間が経った。

カルミオは熟睡しており。今、ラグリスはオリアクスに傷を診てもらっている。


「これは新しくできた傷じゃねーなぁ……古傷か?」


「たぶん。天使との戦いで動きっぱなしだったから開きかけたんだろうね。どうりで痛むはずだよ」


ラグリスは服を腰のところまでめくりあげておりもう少しだけ上げると胸が見えそうだ。

ランプの明かりに照らされた傷だらけの体つきを不思議に思ったようでオリアクスは確かめるように問いかける。


「なぁ。聞きたいんだが、ラグリスは男か女なのかどっちなんだ?」


「………君には関係ないことだろうオリアクス?」


「お前の性別が判らねーならどう扱えばいいんだよ……」


「どっちの性別だろうと僕は僕さ。もし男だとしたら、あるいは女だったとしたら。オリアクスは態度を変えてしまうのかい?」


「昔から、お前の性別はどっちか分からなかった」


「さっきも言ったように、僕は僕だから……」


「ところで、早く服をおろせよ。オレはラグリスの事を男だと思っておくからな。お前が本当に女だったらオレはお前のことを……」


「オリアクス。もしかして顔が赤くなってる?」


「赤くなってて悪いかよ!! お前の見た目が中性的すぎるからいけないんだ!!」


「あ。もしかしてオリアクスは僕にホレているのかい?」


それを聞いたオリアクスは耳まで真っ赤になった。


「だったら悪いかよ!! さっきも言ったがお前が女ならオレは告白している。 だから本当の性別を教えてくれ!!」


「僕が憎んでいる天使に会えば分かるさ。 だからその時まで待っていてくれるかい? 僕自身も性別がとても曖昧に感じているんだ」


ラグリスは淡々と話すとオリアクスは納得いかない様子だった。


「ったく…分かった。 ──っ!!?」


オリアクスは体をビクッと震わし、何かに気づいたように辺りを見回した。


「オリアクスが反応したって事は……天使が現れたのかい?」


「ああ…。だが、この部屋にはいねぇ…」


ラグリスも辺りを見回すと外から数人の声が聴こえた。


「おい、人が倒れてるぞ!!」


「とりあえず中に運べ!!」


思わずラグリスが窓から顔を覗くと人が運ばれていくのが見えた。

ラグリスが視線をオリアクスに戻すと明るく言った。


「僕たちには関係ないね」


「そうだな。 今日の昼に出発だったな…もう寝ようぜ」


「うん。 おやすみ」


ラグリスとオリアクスはそれぞれの寝床につくと眠りについた。



──


「いま…何時?」


羅奈は目を擦りながら体を起こし時計をみると針は午前10時をさしていた。


カーテンが風に揺られる音が羅奈の耳に聞こえてくる。 ベッドからおりてスリッパを履き朝日を浴びようとバルコニーに出る。


絶斬ゼツキの所有者か…」


「カルミオさん。 おはよう」


羅奈が挨拶をするも聴こえなかったのか視線を向けることはなかった。

しばらくの沈黙が流れ、ポツリとカルミオが呟く。


絶斬ゼツキの所有者はボクが怖くないか?」


普段のカルミオの冷たい態度からは想像もつかないほどの問いかけに羅奈は戸惑いを隠せないまま声に出す。


「……どうして怖がることがあるの?」


「ボクは悪魔だぞ。本当は怖いハズだ。ハッキリと言ってほしい」


「確かに悪魔だけど、一度も怖いと思ったことないわ、それにカルミオさんは私を気にかけてくれるじゃない」


何をバカなことを――カルミオはすぐ口を挟んだ後にこう続けた。


「それは絶斬ゼツキのためだ。 絶斬ゼツキはとても神聖な物。悪魔はソレを守らなければ……」


カルミオは眉をぐっと上げ言葉を強めた。

それを聞いた羅奈は遠慮がちにこう発した。


「…私が持つ絶斬ゼツキをニセ物とは疑わないのね」


「ボクはもう疑う気持ちは全くない。散々疑って悪かった。……偽物かどうかはエルザが判断するからな。ボクは何も言えない」


「もし、ニセ物だったらカルミオさんはどうするの?」


「それはエルザが決めることだ、ボクはただ、アナタを守ることしかできない」


「そう。エルザって悪魔ひとはカルミオさんより上の立場なのかしら?」


「エルザが死ねば魔界が()()()と言われている」


その言葉を聞いた羅奈は驚きを隠せないでいた。 カルミオ達の知りあいと思っていてそこまで影響力がある悪魔だと思わなかったからだ。


「私なんかが会ってもいいのかしら…不安になってきたわね」


「アナタなら絶斬ゼツキを持っているから大丈夫だろう。 快く会ってくれるとボクは思うぞ。そもそも今回はエルザが会いたがっていたからな……心配するな」


「ありがとう。今日のお昼にここを出るのよね。準備しなきゃね」


羅奈はそう言って部屋に戻るとある事に気がついた。


「ラグリスとオリアクスさんがいないわね」


「ああ、その二人なら朝食を食べにいったぞ。アナタが起きた前にいったからもうすぐ戻って――」


――トントン


会話の途中でドアをノックする音が聞こえた。

羅奈は不思議に思ったようでまだバルコニーにいるカルミオに声をかける。


「カルミオさん。ラグリス達が帰ってきたの?」


「帰ってきたのならノックなどしないだろう…。 仕方ない。 ボクが出てやるからアナタはそこに居てくれ」


面倒くさいと言いたげな表情をしながらカルミオはドアを開けた。


カルミオが見たのは自分達をここまで連れてきた馬車の男だった。

男はオリアクスとよく似たカルミオを見てこう答える。


「おおぅ。 あの銀髪の弟か…。 あと15分したら出発するから馬車の前で待っててくれたまえ」


「ああ」


「いいか。 遅れないでくれよ」


「……」


カルミオは何かを感じたのか返事をせずにそのままドアを閉めた。


――バタン


「……」


カルミオはドアに耳をあてがうと同時に馬車の男の独り言がきこえてきた。


「あとはアイツ等に殺してもらうだけだ」


足音が遠くなったのを確認したカルミオは羅奈の所に戻ろうした――時だった。

急にドアが勢いよく開き、 カルミオの体に当たる。


――ゴンっ!!


オリアクスが部屋に入るなり目の前にいるのが弟であるカルミオだと分かるとキツく怒鳴った。


「ァ? カルミオじゃねーか、邪魔だどいてろ!!」


「オリアクス!! ボクに謝らないつもりかっ!!?」


「カルミオは頑丈なんだから大丈夫だろーぜ!!」


オリアクスは適当な言葉を返すとベランダ付近に居る羅奈に爽やかにおはよう、 と挨拶をした。


「え? あ。 うん…おは…よ」


羅奈はオリアクスの感情の切り替えに驚きつつも返事をする。


「さっき。 気になる言葉を聞いた」


カルミオはオリアクスの近くまでやって来ると、 忘れない内に羅奈とオリアクスに男の独り言伝えた。



「――あの男がそんな事を…」


オリアクスは含みのある声色で話す一方で羅奈は自分の気持ちを素直に出す。


「でも、 魔界に行くには馬車が必要なんでしょう? 何か仕掛けてあると分かってても進むしか…」


それを聞いたカルミオはため息混じりに口を動かした。


「魔界に行くルートにもよる…。 猛獣が出てくることだってあるんだぞ」


羅奈とカルミオが話し合いを続けるのをよそにオリアクスは一人で視線を左右に動かし、 こう言った。


「…なぁ。 話の途中で悪いんだが。 ラグリスは何処だ?」


オリアクスの思わぬ問いかけに羅奈は驚きのあまり早口になる。


「ラグリスと一緒じゃなかったの!!?」


「ボクも見ていないな。 オリアクスだけが帰ってきた」


「オレがトイレに行っている間にラグリスのやつ、 居なくなっていた。 この部屋に戻ってきたと思っていたが……」


羅奈はオリアクスに確認するように呟いた。


「ラグリスは何か伝えなかったの?」


「 馬車の男がオレ達が食事中にやってきて、ラグリスだけ後で来るように伝えてたな」


「……オリアクスの言葉で最悪の事態が頭をよぎったぞ」


カルミオにしては珍しく怒りと焦る気持ちが混ざったような声色をしている。

考えていた羅奈はラグリスが何処に向かったか見当がついたようだ。


「早く行きましょう!! あの馬車の男、 もしかしたらラグリスと私達を殺すつもりでいるわ!!」


そう言って羅奈は絶斬ゼツキを手に持つとドアを開けて足早に駆けて行く。


カルミオとオリアクスも羅奈の後に続いて走っていった。

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