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天界


「アナタに聞きたいのだけど、 誰かの命令で私を殺すように言われたのかしら?」


羅奈は天使を睨みつけながら低い声で問いかける。


「言えない…!!」


「…私、 アナタとは初対面だわ。 危害すら加えていないのにアナタにはヒドイ目に遭わされたのよ?」


「俺は知らない!!」


「あーもう!! さっさと殺そうよ!!」


知らないフリをする天使に痺れを切らしたラグリスが声を荒げた。

その行動を見た羅奈は厳しく言い放った。


「待って!! まだ聞きたいことがあるのよ」


「――っチッ…」


ラグリスは舌打ちをすると天使は絶斬ゼツキを睨みつける。

天使は羅奈を食い殺すかのような形相で荒々しく言った。


「貴様が絶斬ゼツキを持っているせいでテンジン様は弱りきっている」


「テンジン?」


初めて聞いた言葉に羅奈は怪訝な顔をする。


「呼び捨てにするな小娘が!! 我ら天使を清らかな心で見守って下さるお方だ!! それが貴様の持つ絶斬ゼツキのせいで…」


「じゃあどうして私の絶斬ゼツキを狙うのよ! 絶斬ゼツキのせいだって言うのなら欲しがる必要はないハズよ」


羅奈は感情をまかせ叫ぶように天使に食ってかかる。

天使の言っている事は羅奈には八つ当りにしか聞こえず、 怒りを増すばかりだ。

絶斬ゼツキを力強く握ると天使の目の前に鋭い刃を向けた。


「我ら天使に()()()()をなすりつけるのか――グァ」


「羅奈!! もう殺そう。これ以上は待てない!!」


ラグリスは天使の頭を本気で殴ると焦った表情を見せる。

羅奈は相手が言った()の一文字に混乱していた。


「ラグリス…。 私は犯罪者なの?」


「違う!! 君に罪はない!!」


「この罪人がっ…!!」


羅奈は絶斬ゼツキの柄をもつ手をほどくと、天使を殺すことに躊躇っていた。

ラグリスは罪という言葉を否定し、叫んだ。


「君が天使を殺さないと、生き返ることが出来ないよ!!」


「…………わかった」


小さく呟くと落とした絶斬ゼツキを拾い上げ構えなおす。

天使に話す隙も与えず首と胴体を切り離すのだった。


首が飛び、血が噴水のように溢れでる様子を羅奈は驚いた表情で見つめていた。

ラグリスは天使から降りると背後から両手で羅奈の目を覆う。


「戻ろうか…。帰ってゆっくり休もうよ」


「え…ええ。そうね」


羅奈は吐き気を必死に抑えこむとラグリスに両手をさげてもらいフラフラと歩き出すとホテルに向かう。


(もう。後戻りは出来なくなった。次の戦いから殺したくないという甘さを捨てなくちゃ……)


羅奈は完全に悪魔側になったと思っており、弱さを捨てると決意した。


しばらく歩くとラグリスに声をかけた。

  

「どうしてこんな所まで来たの?」


「羅奈を探しに来たのさ」


「そうだったの。……海に行く前に誰かと話してなかった?」


「僕はトイレに行っていたんだ。おそらく天使が僕に化けていたんだろうね」


「そう。天使の気配とか分かるといいんだけど」


「天使の気配は悪魔にしか感じないよ。だからオリアクス達が羅奈の傍にいるのさ」


「でもオリアクスさんは肝心な時に寝てるのよね」


「仕方ないよ。 魔法で18歳の姿になっているから疲れやすいのさ。 ちなみにオリアクスとカルミオさんの実年齢は13歳だよ」


「13歳!? そんな小さな子達が私を守ろうとしているのね。 じゃあ私も頑張らないとね」


「特訓するならいつでも付き合うからね」


「ありがとう。ラグリス」



羅奈達が帰る中、天使の死体は波にさらわれプカプカと浮き沈みを繰り返しながら何処かへ流れていった。



――


「テンジン様。 下級天使サーカが殺されました」


「……そうですか」


大きな古城のバルコニーで男女が話をしている。


二人とも体をすっぽりと覆うフードを被っており口元しか分からない。

ただ、テンジンにはキツネの尾が生えていた。ユラユラと揺れているので付け物ではないことが分かる。


絶斬ゼツキの所有者によって首をはねられたのが原因かと……」


「……悪魔トイフェル・番人ヴァッヘ絶斬ゼツキの所有者に付きっきりですもの。狙うのは難しいでしょうね」


女は深いため息を吐くと憂いを帯びた声で話を続けた。


「カウト……。本当にどうしたらいいのでしょう…このままでは――ゴホッゲホッ!!」


「テンジン様……しっかり」


突然テンジンが苦しみながら咳き込むとカウトと呼ばれた男が背中をさする。


「やはり…お身体に障ります!! いま天界はとても空気が悪いのです」


「ですが…アタシが今の状況を見ないと事の重大さは分かりませんもの…。早く絶斬ゼツキの所有者が死ぬか、絶斬ゼツキが戻ってくれば…アタシは苦しまずにすむのです」


「テンジン様。 絶斬ゼツキを必ずや手に入れてみせます」


「ありがとう…カウト。アレは元々、天界の魔除けの大鎌だったのです……。それを誰かが奪ったせいでアタシの体調が悪くなり、この天界も荒れ果ててしまいました。ですが絶斬ゼツキを再び天界の物にすれば――」


「早くお部屋に戻りましょう!! 民には俺から伝えておきます」


カウトがそう言ってテンジンの手を引き部屋へと戻ると他の者に任せて元の場所へと戻る。


絶斬ゼツキの所有者め…俺はお前のもつ絶斬ゼツキを取り戻し、 平和な天界を取り戻してみせる!!」


大声で宣言した瞬間、 真っ赤な羽根を生やすと西へと飛んでいくのだった。


天使は羽根の色でランクが分かる仕組みになっている。

赤色は中級、 青色は上級、 白色は最上級ランクだ。


着地した場所は崩れ落ちた集落だ。

カウトは羽根を折り畳み誰もいない所で声をはりつめた。


「皆、集合せよ!!」


民家の間から何人かの人が男の周りに集まってくる。その数は10人ほどで幼い子供もいた。


「カウト。もう我慢の限界じゃよ……。昨日は隣人が空に旅立ち……今朝もワシの孫娘が旅立っていった」


初老の男性が涙声でカウトに声をかける。


「泣くな老人。絶斬ゼツキの所有者を葬れば、孫娘は甦るのだ!!」


「元凶となった絶斬ゼツキの所有者が憎い…!! 孫娘は優しくてまだ8歳だった」


絶斬ゼツキの呪いが原因だ!!」


カウトは声を張り上げて老人にそう伝えると悔しいのか歯を食いしばっている。


──誰かが絶斬ゼツキの所有者を殺してくれれば辛い思いはしなくてすむ。


カウトを含めた全員が、そう思っていた。


「もう行かなくては…皆の者安心せよ!! 俺が呪いを解き、死者全てを生き返らせてやる!!」


カウトはそう告げて真っ赤な羽根を上下に動かすと同時に歓声がわき上がった。

カウトは満足な顔を見せると絶斬ゼツキの所有者を探しにいくのだった──

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