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一戦


その人物は膝まで海に浸かっていた。

動きに合わせてバシャバシャと水音がする。

どうやらダンスを踊っているようでクルクルと回ったり跳んだりしていた。


羅奈から見れば黒い人影が動いているようにしか見えず、 もっと近付かなければ姿がハッキリとしない。

ゆっくりと近づくと踊っていた人影が少し怒りを含んだ声を出した。


「誰だい!!? 邪魔しないでくれよ!」


「ッ!…ご、 ごめんなさい!」


羅奈は相手の怒りっぷりに驚きすぐに謝ってしまう。


「まさか…羅奈?」


羅奈はその声に聞き覚えがあった。 ラグリスの声だ。



「そうよ。 ラグリスが心配で後をつけてきたのよ」


羅奈が予想していた通りだ。

ラグリスはバツの悪い顔をして口を開く。


「……オリアクス達には内緒にしてくれないかい? 頼むよ…ね?」


「大丈夫よ。誰にも言う気はないから」


羅奈は全くきにしない様子で答えるとラグリスは安堵の息を吐いた。


「ところで…。 熱はもう下がったの?」


「まだ油断は出来ないかな? 今のところ熱はないけど、 ぶり返すかも知れないし…」


「じゃあ早くホテルに戻りましょう…悪化するといけないわ」


羅奈はそう言ってホテルまで歩きだすと何かにぶつかった。


「っ…! すみません! よく前をみて――」


なくて…。 そう言う前に、 相手が一歩足を踏みだし近づいてくる。


「ん? その声は羅奈かい? 見つかって良かった。 さぁ、 部屋に戻ろうか」


「え…? ラグ…リス…?」


なんとぶつかった相手はラグリスだった。


(ラグリスが二人!? )


慌てて振り返るも最初に羅奈と話していたラグリスはそこに居なかった。

月明かりに照らされた波があるだけだ。


「羅奈。 危ない!!」


そう言ってぶつかったほうのラグリスが羅奈の背後から両脇に手をいれてその場でかなり高く跳んだ。 と同時に大きな火の玉が羅奈の足元を通過する。

ラグリスは宙に浮いている羅奈の体を抱きかかえ着地した。


「チッ…うまくいくと思ったのに…!!」


ラグリスと同じ顔をした人物が羅奈の目の前に立つ。

声は低い男の声で羅奈は隣にいるラグリスを見て呟いた。


「なにがどうなっているのよ? 訳がわからないわ…!!」


「…たぶん魔法を使っているんだ。 僕と同じ姿になって君を混乱させるつもりだね」


そう言っているラグリスの顔は熱のせいで真っ赤になっていた。


「…なんとか声だけで判断はできるけれど、 アナタが私から離れたら困るわね」


気弱な声を発する羅奈とは対照的にラグリスは落ち着いた様子で自分と同じ姿の相手に問いかけた。


「ねぇ。 君は何が目的なんだい?」


「……絶斬ゼツキが必要だ」


「見逃してくれよ」


「そこの小娘が持っている以上は無理だ。 諦めろ」


「僕は体調が悪くてね。 早く帰りたいんだ」


ラグリスがわざとらしく咳き込みながらそう言うと相手は羅奈を睨み付けながら強く言葉を発した。


絶斬ゼツキを渡せ!!」


「ダメ!! この大鎌は渡さないわ!」


羅奈は絶斬を構えたまま力強く言った。


「なら…キサマ達を殺す!」


それを聞いた相手の全身は赤い光に包まれていき強い光が羅奈達を包み込んだ。


「渡セ!」


羅奈達が見たものは男の半魚人で両腕が魚のヒレになっているも顔は人間のままだった。


「っ…!」


「相変わらず醜い姿だよ…天使め!」


ラグリスは憎しみを露にしつつ羅奈を守ろうとしている。

羅奈は足が震えている。


(は…早く殺さないと…!)


頭で何度も繰り返すが体はいうことを効かず大きな隙を作ってしまっていた。

ラグリスは自分の指を噛み血を出して針にし、 天使に向かって素早く投げる。弱い攻撃で相手の力量を計るためだ。


「キサマの攻撃なんぞ効かん!」


天使は魔法を使い水鉄砲のように勢いよく左の手の平から発射し飛んでくる針を防ぐ。 それと同時に氷の塊を右の手の平から飛ばした。


「うわっ…!」


ラグリスは間一髪で避けると走りながら次の攻撃にうつる準備をする。

浅瀬を走り速度を上げながら針を手首に突き刺し血を出すと、 ナイフに変化させ胸ポケットから取り出した毒薬を塗ると、 相手に気づかれないようにワザと遠く離れた。


天使はラグリスに飽きたのか戦いに慣れていない羅奈に狙いを変え余裕綽々で叫ぶ。


「死ね! 絶斬ゼツキの所有者!」


片手を前に突きだし、 勇ましく言うと今度は手の平から氷のつぶてを発射する。


「くッ…!」


羅奈は絶斬ゼツキを手にしたまま当たらないように素早く動き回る。

羅奈は砂浜では足をとられると考えて浅瀬を走る。


天使はリンゴほどの氷の塊を羅奈の膝に目掛けて飛ばそうとするも腹部に違和感を感じた。

羅奈は相手に何が起こったのか気になり足を止め、 少し離れた先で見ていた。


「っ…!?」


天使は目を見開き口から血を吐き痛みのあまりフラフラと後ろに下がる。


「ギリギリだったね…!」


ラグリスが天使の腹からナイフを抜くと息をフゥーと吐く。

羅奈は目の前で苦しんでいる天使よそに小さく呟いた。


「……助かった」


「さぁ、 後は羅奈がトドメをさすんだ」


「…やっぱり私じゃないとダメなのかしら?」


羅奈は嫌がる素振りを見せるもラグリスは頷くだけだ。


(また天使を殺したら、 もう私の中では悪魔側についたことになってしまう)


羅奈は元々天使が好きで悪魔が嫌いだった。 もし戦わずに話し合いで解決することが出来たらどんなに平和だろう、 と常に考えていた。

羅奈は戦いに慣れていないため、 ラグリスやカルミオを巻き込んでしまうことに気持ちが耐えられなかった。

自分がもっと戦えればラグリスもカルミオも怪我をしなくて済むと思っていた。


「天使の息の根を止める…。 それが絶斬ゼツキの所有者の運命だからね」


ラグリスは羅奈の胸のうちなど知るよしもなく自分の考えを口に出す。

羅奈とは反対にラグリスは天使が嫌いで悪魔が好きだ。

ラグリスは羅奈を天使との戦いに巻き込むことを嫌っていた。 だからラグリスは早く終わらせるために、 いつも天使を容赦なく殺そうとしていた。


「ゲホっ…!!」


「見てごらん。 毒が回ってきた天使も殺してほしそうに君をみているよ?」


「……」


(このまま放っておいたら…天使は…)


羅奈はそう思いつつ早く死んでくれないかと待っていた。 だが、 ラグリスがそれを許さない。


「とりあえず。 僕が押さえつけておくから首を切り落としてくれよ」


無邪気な笑顔でそう言うと天使の腹に刺さっているナイフを抜き、 ラグリスは天使の背中へと腰をおろした。


「さぁ。 切り落とし――」


「ちょっと待って…!」


「……?」


ラグリスは怪訝な顔をして羅奈を見やる。

天使はもがき苦しんでいた。


「殺さずに話を聞き出すのはどうかしら?」


「驚いたよ…まさか拷問するのかい?」


「拷問だなんて…ただ問いかけをするだけよ」


「強い天使は羅奈の持つ絶斬ゼツキでしか殺せない…。 今すぐにらないと後でどうなるか分からないよ?」


「少しだけ待っててほしいの」


それを聞いたラグリスは少しの溜め息を吐く。


「……君は意外と頑固だね。 醜い天使、 羅奈が質問するから答えてやりなよ」


ラグリスは天使の髪の毛を掴み、 顔を羅奈の方へと向かせる。


天使には羅奈の瞳が恐ろしいまでに冷たく見えた。

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