口ゲンカ
──
部屋に戻った羅奈達はゆっくりと体を休める。
カルミオはオリアクスと雑談しており羅奈は椅子に座り、 ラグリスの寝顔を眺めていた。
「………っ!?」
何かに気がついた羅奈はすぐに立ちあがり出入口のドアを見つめる。
「お嬢ちゃんどうしたんだ?」
オリアクスは羅奈に何かあったのかと思い近づいてくる。
羅奈は小声でささやきながらオリアクスに告げた。
「オリアクスさん…。 なんだか部屋の外から恐ろしい気配を感じなかった?」
「「……っ――!!」」
オリアクスとカルミオはようやく羅奈の言葉を理解した。
「もしかして…天使なの?」
「………………」
羅奈はすがるようにオリアクスに語りかけるも何も返答がない。
オリアクスの顔色は焦りにみちていた。
魔界から使者が来るとは聞いておらず、 料理もさっき食べ終わり食器を片付けに来てもらった所だ。
――コンコン
静かな部屋に突然ノック音が響く。
「オレが出るから、念のためカルミオ達は奥にある風呂場に隠れていろ」
「ああ…気をつけろよ」
カルミオはそう言って羅奈を風呂場に連れていく。
それを見たオリアクスは深呼吸をするとノックされたドアをゆっくりと開けた。
「…倒れた奴の様子はどうだね?」
ラグリスと一緒に馬車を引いていた男がそこにいた。
オリアクスは警戒を強めながら呟く。
「ああ。……今は回復にむかっている」
それを聞いた男は安心したのか優しく微笑むと紙袋をオリアクスに渡した。
「果物を買ってきたんだ。良かったら皆で食べるといい。明日は昼から出発するからそう伝えてくれ、ではな」
「……ああ」
男は右手を自分の顔の位置まであげオリアクスを優しく見つめながら自分の部屋に帰っていくのだった。
オリアクスはドアと鍵を閉めてカルミオ達に声をかけた。
「もう出てきていいぜ」
ガチャリと開ける音がオリアクスの耳に入りカルミオ達が出てくる。
オリアクスは二人に果物を貰ったことを話す──
オリアクスが紙袋の中を覗きイチゴやミカン、 グレープフルーツを近くにあるテーブルの上に並べた。
羅奈は置かれたフルーツを見るも好きな物はなく、どちらかと言えば苦手な物ばかりだった。
カルミオはフルーツを見ながらため息を吐く。
「──果物か。 ボクとオリアクスは苦手な物ばかりだな。 悪魔の番人と絶斬の所有者が食べるといい」
「うん…ありがとう」
「にしても……あの気配は一体なんだったんだ? 天使の気配が少ししたな」
オリアクスは腕を組みながら考えていた。
その様子を見た羅奈は思ったことを口にする。
「さっき来た人ではないのかしら?」
「いや、 違う…アイツは人間だ」
オリアクスはボリボリと頭を掻きスッキリとしない様子だ。
ふと、カルミオが壁にある時計に視線を向けると針が夜10時調度を指していた。
「お嬢ちゃん。 風呂に入ってきたらどうだ?」
「悪魔の番人はボク達が診ておくからゆっくり浸かるといい」
「ありがとう。 そうさせてもらうわね」
そう言って羅奈はさっきカルミオと隠れていた風呂場へと移動した。
オリアクスは羅奈が行ったのを確認するとラグリスが寝ているベッドに移動し椅子に座る。
カルミオはなにか思うところがあるのかオリアクスに問いかける。
「オリアクス。 魔界に着いたらあの子供―――…絶斬の所有者はどうすつもりだ?」
「とりあえず観光させるぜ。 魔界の事を知ってほしいからな」
「観光? 監視の間違いではないか?」
「さすがに監視はかわいそうだろ? 観光が終わったら『エルザ』に会ってもらうつもりだ」
オリアクスは自信満々に答えるもカルミオは納得いかない表情をしていた。
――何を呑気な事を言っている。
カルミオは呆れながら心の中で呟く。
オリアクスの話には続きがあるようでカルミオの考えなどお構い無しに自分の言葉を紡いだ。
「それが終わったらお嬢ちゃんの好きにしてもらう…。 なあ、カルミオ。 どうだこの考えは? 絶斬の所有者である、 お嬢ちゃんの事を思った考えだろ?」
「……あの子供がそう素直に従うのか? むしろ怪しまれると思うんだが…」
オリアクスの意見を否定するかのようにカルミオは呟く。
それを聞いたオリアクスは弟はつまらない奴だなと思った。
「お嬢ちゃんはまだ幼いんだぜ!? オレ達のほうが歳上なんだから守ってやったほうがいいに決まってるだろ!!」
「あまり怒鳴るな…悪魔の番人が起きるぞ」
「……どうやらお前はお嬢ちゃんを守ろうとする気がないようだな」
「……ボクの話を最後まで聞いてくれ」
「関係ねーよ。 悪魔の番人に落ちるお前が悪い」
「オリアクス。 それは言い過ぎだぞ!!」
カルミオは拳を震わせながら強く言った。
――弱者を守るのが悪魔としての心構えである。
『エルザ』にそう教えられた事をオリアクスは今になって思い出す。
と、 同時にカルミオの事は悪魔らしくないと思っていた。
カルミオは自分の意見に耳を傾けず勝手に解釈してキレているオリアクスに腹が立っていた。
二人とも羅奈の年齢を知らないでいたが、 大体13歳くらいだと思っている。
その後も二人の話しあいは続いた――。
―その頃
「ハァァ~…。 やっぱりお風呂はいいわね~」
足を伸ばし肩にお湯をかけながら羅奈は呟く。
体は洗い終わったようで髪も濡れていた。
普段は左目が髪で隠れているが今は邪魔になった横髪を耳にかけている。
両目が見えている顔はやや大人びており、 体型は華奢だが胸は普通の大きさだ。
――ザバっ!!
風呂からあがりタイルに足をつけると、 羅奈は横にある全身鏡を見つめるとポツリと呟いた。
「…いつになったら…私は生き返ることができるの…?」
手を頬に触れ、そのままなぞる。
羅奈は久しぶりに見た自分の顔を見つめている。
(そういえば、 友達に私とお姉ちゃんはよく似ているって言われたわね)
思わず羅奈は家族の事を思い浮かべる。
「久しぶりに…会いたくなってしまったわね…」
羅奈は涙声を出しつつも、 さらに続けた。
「ママ…お姉ちゃん…パパ」
いつも呼んでいた大切な人達に届くように声をしぼり出す。
――早く生き返りたい。
羅奈は寂しさから辛くなるとしばらくの間座っていた。
残り湯を体にかけ風呂場を出ようとドアノブに手をかける。
「…っ!!」
違和感を感じた羅奈はその場で振り返る――が、 壁しか見えない。
「何か気持ち悪い気配がする…早くオリアクスさん達に知らせないと!!」
そう言って急いで羅奈は風呂場を出てタオルで体を拭き、黒の薄い長袖と短いレギンスを穿くと目の前にある部屋の扉を開けようとした時――。
「っ…!?」
突然――後頭部に強い衝撃が走り、 羅奈は思わずその場にた倒れこんだ。
(だれ…? っ…ぐ…!!)
視線を移すも背後には誰もおらず。 羅奈が気づかないうちに両手首は誰かに押さえつけられている。
「……お迎えにあがりました」
羅奈はその言葉を聴いたと同時に意識を失った…。
それを確認した相手は両手首から自分の腕を離すと羅奈を抱え、跡形もなく一瞬にして消えたのだった…。