兄弟喧嘩
「ラグリス、 しっかりして!!」
羅奈はラグリスの体をおこすと羅奈は頬をやや強めに叩いた。
心臓が止まっている羅奈の手はまるで氷のように冷たい。
「ハァ…ハァ…ゲホっ…ゴホッ…!!」
「お嬢ちゃん退いてくれ!」
荒い息遣いと咳だけが聞こえる。
見かねたオリアクスが割って入るとラグリスの体を抱えた。
「とにかくホテルの部屋に運ぶぞ!!」
「わかったわ!」
羅奈はホテルのドアを開け、 オリアクスを中に通す。
「いらっしゃいませ。 あの、 ソチラの方はどうされたのですか!?」
受付の男が慌てた様子で羅奈に声をかけた。
「友人が熱で倒れたんです!!」
「分かりました。 ではこちらに通してあげてください!」
若い男がそう言って、 羅奈達を部屋に連れていく。
中に通されると一つのベッドがあり、 オリアクスはラグリスをベッドに寝かせると羽織っている黒いコートを脱がした。ラグリスの二の腕や手首には切り傷があった。
受付の男は氷枕を用意しそこにラグリスを頭の下に置いてやる。次にオリアクスに体温計を渡し、 ラグリスの服の中に手を入れ脇に体温計を挟ませた。
「ありがとうございました」
羅奈が受付の男に頭を下げる。
「お客様の容態があれ以上酷くならなくて良かったです。 容態が落ち着いたら、 お部屋にご案内致します」
「わかりました」
「なにか用事がございましたら、 そこにある電話でお申し付けください」
「はい」
若い男は一礼するとフロントへ戻っていった。
──ピピピ
体温計の音が羅奈達の耳に入ってくる。
オリアクスはラグリスの脇から体温計を抜くと表示された体温を見る。
「39度か。 そりゃあしんどいハズだぜ」
「ここのホテルで薬を買えればいいのだけれど……」
「確か、 ホテルの中に売店があったな。 ちょっと見てくるぜ。 お嬢ちゃんはラグリスを頼む」
「ありがとうオリアクスさん」
バタンと音をたてながら扉が閉まるのを確認した。
羅奈はラグリスの手を冷たい手で握りながら帰りを待っていた。
──
オリアクスが売店の場所を聞こうとフロントまでやってきた。
するとさっきの若い男が対応する。
「売店はどこだ?」
「この先を左に曲がり、 つきあたりを右に曲がれば売店があります」
「感謝するぜ」
「お気をつけて」
オリアクスが売店に行こうと振り返ったその時だった。
「カルミオの気配がする」
オリアクスは入り口の扉を開けるとカルミオを探しにいった。
──
カルミオは全速力で走っている。
「僕を置いていくなんて許さないからな!!」
馬車の足跡をたどり、 この付近で一番近いホテルを見つけた。
一台の馬車とそこに繋がれた二頭の馬がいた。
「きっとここだな」
そう言ってカルミオがホテルの中に入ろうとした時だった。
カルミオを探していたオリアクスが目の前に現れた。
「何しにきた!!」
「絶斬の所有者を守るためにここにきた!!」
「お前は面接に落ちたんだ!!」
「僕は諦めてはいない!!」
オリアクスはカルミオの事を半人前と思っていた。 面接にも落ち、 そのことが認められなくてワガママを言っている弟にイライラしていた。
カルミオは手紙の入っていないポシェットからナイフを取り出しオリアクスもそれに答えるかのように魔法の構えをとる。
「しつこいな!! これ以上、 ワガママは許さねぇ!!」
オリアクスはそう言って氷の球体を手の平から放つ。
「カルミオ。 お前はこれ出来ねぇだろ!!」
「それくらいなら僕にもできる」
そう言って得意気な表情を見せるカルミオは手の平から炎の球体を飛ばすとお互いの魔法がぶつかり爆発した。
カルミオとオリアクスは一気に間合いをつめるとお互いに拳と拳をぶつけ合う。
オリアクスが再び手の平をカルミオの顔目掛けて球体を飛ばす、 カルミオがとっさにかわすと、 負けじとスイカ程の大きな炎の球体を飛ばした。
オリアクスは炎の球体を大きく斜めに飛んでかわした。
カルミオは避けたオリアクスに向かって得意気に鼻をならす。
「半人前のクセに…!」
「半人前、 半人前とうるさいぞ!!」
カルミオが走りながらオリアクスの腹を刺そうとナイフを振り下ろす。
──ガキン!!
オリアクスは青色の防壁をだし防ぐと、 目の前にある防壁を蹴って貫通させ、 カルミオの腹を蹴り飛ばした。
蹴られたカルミオは地面に叩きつけられた。
「だからお前は甘いんだ!!」
「うるさい!!」
カルミオは立ち上がり手を天にかざす。
10本の赤い光の矢がオリアクス目掛け降り注ぐ。
一本一本が太く轟音を鳴らしながら落ちていく。
「バカかテメェ!! この周辺をぶっ壊すつもりか!!」
オリアクスは周りに被害が出ると考え、 持てる魔力全てを使い片手で分厚い防壁を張った。
そこへ、 光の矢がぶつかると防壁は音を立てながら耐えていた。
ガンガンと音を立てながら光の矢は突き破ろうと進んでいく。
オリアクスは防壁を強固にするために空いていた手を突き出した。
すると突然、 光の矢がフッと消えた。
「ハァーハァー…」
カルミオは疲労から膝をつくと、 歩いてくるオリアクスを見上げた。
「ムチャしやがって」
そう言ってオリアクスは左手を差し伸べる。
「ムチャしなければアンタに勝てないからな」
「でもよ。 お前、 やるじゃねーか」
「ボクはまだ負けを認めたわけではないからな!!」
そう言ってカルミオは差し伸べてきた手を振り払うと一人で立ち上がる。
何かを思い出したようにオリアクスが焦ったように呟いた。
「しまった!! 薬買うの忘れてたぜ」
「絶斬の所有者がケガでもしたのか?」
「違うぜ。 ラグリスが熱で倒れたんだ」
「それは心配だな」
急いでオリアクス達は売店に寄り、 薬を買って帰るのだった。