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疑う心


「いま戻ったよ」


ラグリスは元気よくドアを開け中に入る。 目に飛び込んできたのはカルミオが項垂れており見かねた羅奈が背中を軽くポンポンと叩いている姿だった。

カルミオはメンタルが弱いのかもしれない。


「…ラグリス。 私が戻ってきたらカルミオさんが落ち込んでいて…理由を聞いても何も話さないのよ」


何か知らない? と言葉を続け羅奈はラグリスに理由を聞いた。

ほんの少し間をおいた後、 カルミオが面接を受けた事を話す。


「――そうだったのね…」


「………アナタは絶斬ゼツキを守るには向いていないと言われた」


ボソボソと小さな声でカルミオは力なく呟いた。

いつもの冷静で少し高い声色はからは想像もつかないくらいに落ち込んでいると羅奈は感じていた。


ふと、 羅奈はオリアクスに目を向けるとまだ夢の中らしいのか幸せそうな顔で口を半開きにして寝息をたてている。


「面接は毎月行われているから次も受けるといいよ。悪魔トイフェル・番人ヴァッヘの仕事はキツいから、すぐに辞める人が多いのさ」


ラグリスは励ますよう明るく話しかけた。

それを聞いたカルミオは表情が徐々に戻っていき、いつもの少しだけムスッとした顔になった。


「ねぇラグリス。魔界にはいつ行くのかしら?」


「今からさ。オリアクスを起こしてくれるかい? 僕は先に外へ行ってるよ」


ラグリスはそう言って部屋を出るとその場で咳き込み、額に手を当てた。


「これは熱があるね」


ラグリスは再び咳き込むと馬車のところへ向かった。


羅奈はオリアクスの頬を軽くペチペチと叩き、 起こそうとしている。

カルミオは立ち上がるとトイレに向かうため部屋を後にするのだった。


「オリアクスさん起きて。魔界に行くわよ」


少し力を入れて再び頬を数回叩くとオリアクスはようやく目を覚ました。


「ん……っ…魔界だと? ふぁぁ…」


「そうよ。支度して外に向かわないといけないの」


「わかった…」


そう言ってオリアクスはゆっくりと体を起こす。

寝ぼけまなこを擦ながら立ち上がると屈伸をする。

羅奈は椅子に立てていた竹刀袋の紐を結ぶと背負うようにかけた。


「お嬢ちゃん。オレも用意ができたぜ。カルミオは置いていく」


「仕方ないわね。じゃあ行きましょう」


オリアクスはドアを開けると羅奈を先に通らせた。

羅奈はオリアクスの紳士な行動に意外だなと思い笑みをもらす。


廊下に出た先にはカルミオがいつもと変わらない表情で待っている。


「ボクも行くぞ!!」


「面接に落ちたんだろ!! 着いて来るな!! 」


オリアクスはキツくそう言ってさっさと歩く。 羅奈は申し訳なさそうな表情をして、 ついて行った。


2人はラグリスの待つ外へと向うのであった。


外に出ると2人の目の前には中型の馬車が停まっている。


二頭いるうちの一頭の馬の手綱をラグリスが引いて待機していた。

ラグリスの隣には男が座っていてもう一頭の馬の手綱を持っている。

どうやらこの二人が馬を走らせ魔界まで運んでくれるようだ。


「アンタ等は中に入りな!!」


男は強い口調で羅奈達に言う。

羅奈には出発したくてウズウズしているようにも見えた。


――ギィィ…


馬車の中は思っていたよりも広く羅奈達はそれぞれ好きな位置に腰を下ろした。


「ヒヒーン!!」


馬が鳴くとガラガラと元気に馬車を引く。

ラグリスは疲れからか深いため息を吐くと隣にいる男に話しかけた。


「近くのホテルまでどれくらいかかります?」


「30分くらいだな。 しばらく走らせたら安いホテルに泊まる予定だ」


男の声が馬車の中まで聞こえたらしくオリアクスは気持ちが高ぶっている。

特にオリアクスは最近、 固いソファーでしか寝ていなかったこともありベッドで寝れると思うと心踊るまでに嬉しかった。


「オリアクスさん。魔界はどんな所なのかしら?」


羅奈は首を傾げながらオリアクスに声をかけた。


「魔界は空気がキレイで都市があって自然も少しある所だな。美味うまい食べ物が沢山あるからお嬢ちゃんも気に入ると思うぜ」


「それは楽しみね」


オリアクスは故郷の事を聞かれ興奮気味に話す。

声のトーンをやや落しながら羅奈は楽しむように表情を作る。


羅奈の想像では地獄のような風景に血の海が広がっているとばかり思っていたので楽しむ以前に驚きのほうが大きかった。


「お嬢ちゃんはカルミオに疑われてたみたいだから。アイツも一緒じゃなくて安心しただろ?」


「そんなことはないわ。……でもどうして私を疑うのかしらね?」


「昔、カルミオとオレが用事で人間界に行った時に人間達から悪魔がいると言われて暴行を受けたんだ。だから、カルミオは人間を嫌っている」


「なんて酷いことを……!! 二人ともケガはなかったの?」


「すぐに魔界に戻って医者に手当てしてもらった。だから大怪我にはならずすんだ」


「よかった。私も人間だけど、差別する人達は本当に最低だと思うわ。しかも暴行だなんて……悪魔が何をしたっていうのよ」


「やっぱり人間にもお嬢ちゃんみたいにいい奴がいるんだな。カルミオももっとお嬢ちゃんと話したらいいのによ。ま、今頃は飲み物でも買ってるだろ」


──その頃


「ボクも着いていくぞ」


カルミオはまだ諦めていなかった。郵便配達の仕事は引き継ぐ悪魔が見つかった。

面接には落ちたが絶斬ゼツキの所有者である羅奈を守らなけばいけない。


そこで、 カルミオは馬車を追いかけることにした。


──


「おーい!! ホテルに着いたぞー!!」


男の声が馬車の中まで聞こえる。

羅奈達は降りると、 目の前にある赤色の屋根が特長の5階建てのホテルを見上げていた。

男はさっさとホテルの中に入ると先に宿泊の手続きをしている。


「着いたよ、さぁ早く中に……」


背後からラグリスの声が耳にはいる。

羅奈は振り返りラグリスを見ると顔が赤い事に気が付いた。


「アナタ顔が真っ赤だわ…!!」


「お、おいラグリス…大丈夫か?」


ラグリスの体調の悪さは一目で分かるくらいヒドイものだった。

大量の汗がラグリスの頬をつたう。


――ピタ…


心配になった羅奈はラグリスの額に手を当てた。

死んでいる事も関係しているのかは分からないが、 ラグリスには自分の体温よりとても冷たく感じていた。


「ラグリス…熱があるんじゃ…」


――大丈夫。 そう言おうとしたラグリスは地面に膝をつきその場に倒れたのであった…。

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