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オリアクス


「どうぞ、こちらです」


「………」


その人物を連れてくるとアストレアは休憩室に入っていくのをラグリスは確認した。


ラグリスはうつ向いており手は緊張から震えていた。

理由は指名されて話を進めるといった人とのやり取りが苦手だからだ。


ラグリスが悪魔トイフェル・番人ヴァッヘに所属した一番の理由は天使を皆殺しにするためだった。

悪魔トイフェル・番人ヴァッヘの仕事を初めて11ヶ月。同僚達は来客が指名するという形で悪魔の悩み話を聞いたり、 魔界への派遣の手続きをしていたのだが、 まだ所属して一年未満のラグリスには魔界の除草作業など簡単な仕事しか与えられない。


どうせ絶斬ゼツキの事や悪魔のことを聞かれるだろうと思いつつもいつまでも苦手とするワケにはいかない。


待っている客は足を数回コツコツと床に鳴らす。

ラグリスは急かされていると感じていた。



「………」


案内された人物はラグリスの目の前に立っており一言も喋らない。


「大変お待たせしました。ラグリスと言います。遠い所から来てくださりありがとうございます」


ようやくラグリスは深く一礼するが何の返答も聞こえてこない。

不思議に思ったラグリスはゆっくりと顔をあげその人物を見つめた。


「あの……お客さま?」


「クク……アハハハハ!! お前、幼なじみの顔も忘れたのかよ?」


「え?」


ラグリスがその人物の顔を見るとすぐに懐かしさが込み上げ嬉しそうに名前を呼んだ。


「オリアクス、久しぶりだね!!」


「ああ!!……1年ぶりだなラグリス!!」


オリアクスと呼ばれた銀髪の男は無垢な笑みを浮かべた。

ラグリスは近くのイスに腰を下ろすと先に座っているオリアクスとしばらく思い出話に花を咲かせていた―。



――その頃



「ボクはカフェオレを飲むが何かいるか?」


「オレンジジュースがいいわ」


あれから待ったがラグリスが来る気配はなく、その場で見かねたラグリスの同僚に羅奈達は待合室に通された。


今は途中で見つけた自販機の前に二人で立っており飲み物を買っている最中だ。


カルミオは小銭を入れボタンを2回押し自販機から缶を取りだし。

その場で羅奈に渡し、自分の分を開け少し飲んだ後戻っていく。

羅奈も黙って着いていき待合室に入ると固いソファーに腰を下ろした。羅奈の前にはカルミオが座っている。


「まだか……。いつまで待たせる」


羅奈もカルミオと同じ事を思っていた。

ラグリスは顔を見せる気配すらない。それどころか待合室に人すら寄り付かない。

羅奈はふてくされているカルミオに視線を移した。


「……少しいいかしら?」


何か聞きたい事がある様子の羅奈は疑問を浮かべたのかカルミオの頬を見つめていた。


「ボクの顔に何かついてるのか?」


「その頬の赤い模様はどうしたの?」


「模様? ああ、証のことか……」


苛立ちを隠す気もないカルミオは溜め息を吐くと羅奈に言葉を強めて説明した。


「証?」


「悪魔は生まれつき体のどこかに証が現れる。まぁ人間であるアナタには見慣れないか……」


「そうだったのね」


立ち上がったカルミオはカフェオレを飲み干すと缶をごみ箱に捨てる。


「…悪魔トイフェル・番人ヴァッヘはまだか……」


「のんびり待ちましょう」


カルミオをなだめるように言うとその後に沈黙が流れ続けていた。



――コンコン


誰かが扉をノックする音が羅奈達に聴こえる。


「誰だ?」


「……」


カルミオは声を強め相手が誰なのかを確認するが返事はかえってこない。

不思議に思ったカルミオは立ち上がると扉を少し開けて外を覗く。

羅奈はその様子を静かに見つめていた。


「やっと来たか…悪魔トイフェル・番人ヴァッヘ


カルミオは呆れた声で一言呟き扉を全開にすると目の前にいるカルミオを無視してラグリスがヘトヘトになりながら羅奈の前まで歩いてきた。


「やっと話し合いが終わったよ~」


「結構かかったわね。 30分くらいかしら?」



カルミオが扉を閉めようとしたその時に人影があることに気が付く。

視線を羅奈達に向けると話し続けており、カルミオが居なくても構わない雰囲気が流れていた。


「もう一人いたのか……」


そう言ってカルミオは部屋から顔をだすと相手の姿を確認する。


「よぉ……久しぶりだな」


「……!?」


――バタンッ!!


とっさにカルミオはドアが壊れんばかりの力で閉めた。

動揺しているのが羅奈の目から見ても分かるくらいに落ち着かずソワソワしている。


「カルミオ……さん?」


羅奈が異変に気づき声をかけてくる。

だがカルミオには届かず虚しく消えていく。


「あ、そうだ」


「な、なんだ…悪魔トイフェル・番人ヴァッヘ?」


「カルミオさんと羅奈に紹介したい人がいるんだ」


ラグリスがそう呟いた瞬間だった――

カルミオは必死に隠れる場所を探すために動く。

その豹変ぶりにラグリスも羅奈も口をポカンと開けていた。


「アイツに会いたくない……!!」


「会いたくないって……どうしたの?」


羅奈は血眼になりながら隠れ場所を探すカルミオを怪訝な表情で見つめている。


ラグリスも突然の事に驚くも紹介しなければならないので外で待っている相手に声をかける。


「入ってくれて構わないよ。にしても顔がそっくりだねぇ」


その言葉を合図に一人の男が入ってきた。


「……ホントに入ってよかったのかよ?」


「大丈夫さ……オリアクス」


苦笑いしつつラグリスにオリアクスと呼ばれた男が羅奈達の前まで歩いてくる。

髪は綺麗な銀髪にノースリーブのゴシック風の服に黒いアームカバー、白のデニム生地の長ズボンを履いており黒のブーツに光が反射している。

瞳は赤く、肌は色白で、頭からは黄色の小さな羊の角が目をひく。


さっきまでカルミオが座っていた椅子に腰をおろした。

オリアクスの目の前にはラグリスと羅奈が座っている。


「い……今すぐ帰れっ!!」


カルミオの声は二人が座っている背後から聴こえた。

怯えているのか声色が震えている。


オリアクスはフッと鼻で笑い座ったままの状態でカルミオに声をかけた。


「オレは絶斬ゼツキの所有者を魔界に連れて行く為に来た。ついでにお前も一度魔界に帰ってこい」


重い空気が流れオリアクスはカルミオに説き伏せるように言うとすかさずラグリスが口を挟む。


「あのさ……羅奈にも説明してあげなよ?」


「羅奈? ……ああ。絶斬ゼツキの所有者の男だろ? どこにいるんだよ?」


カルミオのことはどうでもいいと思ったらしく、ラグリスの言葉に耳を傾けた。

オリアクスの目的は絶斬ゼツキの所有者である羅奈を魔界に連れて行くことである。

だが、オリアクスは羅奈が目の前にいることが判らないでいた。

それは事前に伝えられていた容姿や性別が違っていたからだ。


それを聞いたラグリスはやれやれと言いたげな表情を浮かべ、オリアクスを見つめた。


「オリアクスの目の前に大人しく座ってる女の子だよ」


「……は?」


オリアクスは何度も羅奈の顔を見て何度も瞳をまばたきさせていた。


「こんな小さなお嬢ちゃんが…絶斬ゼツキの所有者?」


何かの間違いだろう? とオリアクスは思ったが何も言わないラグリスを見て事実だと理解したのだった。


羅奈は顔を見られていることなど気にもせずオリアクスの頭から生えている黄色の小さな羊の角に視線を集中させている。


(飾りかしら?)


オリアクスは興味深く見てくる視線に気付くと話を始めたいためコホンと小さく咳をする。

羅奈はそのことにようやく気づくと挨拶をするために小さな口を開いた。

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