本部へ…
まるで闇のようだと言っても間違いない程の暗さが日が昇ることにより空が明るくなっていく。
夜明けがはじまったばかりの時間に一人の男が大きな岩の上に立っていた。 名前はオリアクス。
髪は染めているのか地毛なのか分からないがキレイな銀色をしていた。
ショートヘアーで襟足がはねていることが分かる。
ゴシック風の服装に2本のベルトがクロスして巻かれた黒のアームカバーを両腕に着ていることが確認でき、白のデニム生地を使った長いズボンを履いておりオリアクスの足の長さを目立たせている。
顔立ちは整っており、瞳は血のように赤く両耳には金色のピアスをつけていた。
これだけ見れば普通の人間に見えるが、実際は両耳が尖っており頭に小さく黄色い羊の角がはえており身長は176㎝。
まるで悪魔のようにもみえるオリアクスはずっと立っていながら一言も喋らない。
眠っているのか、何かを考えているのかは分からないが。 ただ一つ言えるのはジッと日が昇るのを今か今かと待ちわびているようだ。
「………もう行かなくては」
短く呟かれたその声は低くく冷たい感じをうける。
「ハァ……今から行けば間に合うだろ」
めんどくさそうに溜め息を吐き岩からおりると足早に歩きだして行った。
砂利道をしばらく進むと立て札に目を向ける。
そこには悪魔の番人の本部はこの先歩いて2時間と書かれてあった――
太陽の光りが宿屋にある大きな窓から射し込んでくる。
羅奈の体は光りに照らされ、全身がポカポカと暖かくなっていくのを感じた。
「…もう…朝?」
羅奈は起きあがるとそのまま目を擦り、昨日の事を思い出す。
あれから手紙を拾いつづけ、カルミオがポシェットに全て片付けたのを確認してからベッドに入ったことまでは覚えている。
その後の記憶が正しければ、羅奈が布団をかけ眠ろうとした時はまだラグリス達は起きていて何かを話し合っていた。
「…あら? 床がキレイになってる…」
羅奈はベッドから下りると血で酷く汚れていた床がピカピカになっていることに気がつく。
天使の死体と頭もなくなっているが、羅奈はきっとラグリス達がなんとかしたのだろうと思っていた。
少しずつ頭が目覚めてきたのかあることに気がつく。
「二人とも…どこに行ったの?」
ラグリスとカルミオがいない。
羅奈は気になりつつも顔を洗いに洗面所へ向かう。
蛇口をひねり水を両手ですくうと顔にかけた。
――バシャッ
「ふぅ…」
冷たい水が気持ちよく、零れた雫が羅奈の肌をつたう。
羅奈は目の前にある鏡を見て髪を触る。
「髪がパサついてる…待ってる間にシャワーでも浴びようかしら?」
もう2日も入っていないため全身が気持ち悪く感じる。
洗面所の近くにはバスタオルが山積みになっているのでそれを使おうと考えていた。
――ガチャっ
「羅奈、 起きてるかい?」
ラグリスが入り口のドアを開け部屋に入ってきた。
目の前には壁があり羅奈の姿が見当たらないらしく首を動かしながら探していた。
「おはよう。 ここにいるわよ」
声に気づいた羅奈がひょこっと顔を出す。
「僕達が居なくて驚いた? 実は羅奈が寝たあと僕が君を抱きかかえて隣の部屋のベッドに移動させたんだよ。 死体と一緒に寝るのは嫌だろうと思ってね。 ところでカルミオさんを知らないかい? 姿が見当たらないんだ」
困った様子のラグリスは羅奈に問いかけた。
「私はさっき目が覚めたばかりだから見てないわよ?」
一緒じゃあないの?と羅奈が返答するとラグリスはため息をついた。
「僕が記録を書いている時に部屋を出ていったんだよ…。 今日は本部に行くって約束していたんだけどね…」
「もしかして先に行ったんじゃない?」
「うーん…場所は僕しか知らないしなぁ…」
そんな話をしていると扉がガチャリと音を立てて開いた。
「遅れて悪い、 もう出発するのか?」
カルミオは脱いだトレンチコートを片手に持ち部屋に入る。
コートを脱いだインナーは白い逆十字架がプリントされた黒い長袖を着ている。
「うん。 そうだよ」
「そこの子供のお守りもしないとな…」
カルミオは羅奈を指さした。
「カルミオさん。 私のことからかってるの?」
カルミオはからかうように羅奈に告げ、言われた本人は少し不服そうだ。
ラグリスとカルミオは先に部屋を出て羅奈を待っていた。
壁に立てた絶斬を竹刀袋に入れ、持つと歩いて部屋を出た。ラグリスとカルミオは代金を受付の机に置くと先に宿屋を後にした。
外に出ると南に向かって歩みを進める。
羅奈は途中で疲れをみせるも頑張って歩き続けた。
ラグリスは羅奈の体調をみながらこまめに休息をとり、昼食を探しに近くの川に魚を取りに行ったりもした。
人通りの多い場所に出るとカルミオは住宅街のポストに手紙を入れていき、待っている間に羅奈達は喫茶店でお茶をしている。
しばらくするとカルミオも合流した。
「フゥ…。半分は配達完了した」
「カルミオさんは働き者ね」
ポシェットから取り出したタオルで汗を拭っているカルミオに羅奈は声をかける。
「不真面目な悪魔がやらないから代わりに配達しているだけだ」
「そ、そう。……大変ね」
羅奈はコホンと咳払いをすると横でラグリスが何かをしているのに気が付く。
カルミオから受け取った手紙を真剣に読んでいる。
「…はぁ。忙がしくなるなぁ」
「ラグリス、どうしたの?」
深いため息を吐き、ラグリスは紅茶を飲みほす。
「本部に僕のことを待っている人がいるから戻って来いって書かれていてね」
「じゃあ早く行かないとね」
そう言えば羅奈は椅子から立ち上がると竹刀袋を持つ。
ラグリスも立ち上がるとコートの襟を直した。
カルミオは先にラグリスの横を通り二人を待っている。
「ここからだと40分くらいだね…。さ、頑張って歩こうか」
「ええ」
「悪魔の番人……案内を頼んだぞ」
3人は本部に向かって再び歩きだした。
──40分後
白いアンティークの建物を前に羅奈達は立っていた。
外観は3階建てになっており、小さな窓が3つある。
所々だが少しヒビがあり古くに建てられたことが分かる。
ラグリスは石で作られた階段を数段上がり1階の黒い扉のドアノブを握ると押して中に入っていく。
羅奈とカルミオも後に続いた。
中は広く明るかった。机が向かい合わせに並んでおり、受付と思われる男女が数人、椅子に座って角や尻尾が生えた悪魔の対応をしており慌ただしく人が行き来している。
(なんだか市役所の雰囲気みたいね……)
羅奈は心の中でそう呟くと辺りを見回していた。
「ただいま戻りました」
ラグリスの声が部屋に響き渡る。
それに気が付いた他の者は口々にこう言った。
「「「ご苦労様」」」
ラグリスが動くとカルミオと羅奈も後ろから着いていく。
「あらぁ? 思ったより早かったのねぇ~」
随分と前に会った魔女に似た格好をした女。 アストレアがラグリスに声をかけてきた。
ラグリスには先輩と呼ばれている女だ。
アストレアの姿を見た瞬間ラグリスの笑顔は引きつっている。
「なんとか間に合いました…。ノートを返すのと。あとは…記録本の確認をお願いします」
「まーたアタシの仕事を増やしちゃって…。少しは先輩の仕事を減らすっていう考えはないのぉ?」
不機嫌にそう言うアストレアを無視してラグリスは質問をした。
「僕のことを待っている人がいるんですよね? その人は今――」
「はいはい……。その人なら今呼んでくるわよ……ったく、面倒ったらありゃしないんだから!!」
先輩と呼ばれているアストレアは薄いクリーム色の髪を揺らしながら奥の部屋に入っていった。
「アストレアさん機嫌が悪いのかしら?」
「あの女からキツい香水の匂いがする……鼻が曲がりそうだ」
「ラグリスも大変そうね……」
羅奈達はアストレアが居ないことを良いことに感想を述べていた。
「だから先輩は嫌なんだよ……。悪いけどカルミオさん、面談はもう少し待ってくれるかい?」
ラグリスが呆れ気味にそう呟くとカルミオは黙って頷くのだった。