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交戦


ラグリスが羅奈を守るように立ち塞がる。

それを横目で伺ったカルミオは異形の存在となった少女に素早く近づき短剣を相手の腹に突き刺そうと振りかざす。


――ガキィン!!


高い金属音が部屋に響き渡る。

羅奈とラグリスは音の大きさに思わず両手で耳を塞いだ。


少女の皮膚は鱗状となり切っ先を弾き返す。


「っ…!!」


驚きで体が硬直しているカルミオに目掛け少女は毒を吐き出そうと薄く口を開く。


「危ない!!」


ラグリスがコートの内ポケットから黒い針を取りだし少女の口に目掛け投げる。


少女は瞬時に反応し、僅かに顔を反らした。


『グっ!!』


針は少女の頬にかすり傷を付け、血が流れでているが羅奈達に余裕の表情を見せる。


相手に深手を負わせられない苛立ちからカルミオは軽く舌打ちをし、目の前の少女テキをギロリと睨み短剣をその場で構えなおす。


「…!?」


さっきまで戦っていた少女の姿がどこにも見当たらない。


ラグリスとカルミオは姿を消す魔法を使ったと理解はするも相手はどこから攻撃を仕掛けてくるか分からないでいる。


「あっ!?」


だが、羅奈だけは違っていた。

少女の姿がハッキリと見えていたのだ。

それまでの気弱な声から一変し、強い声色で危機を知らせる。


「カルミオさん!! 後ろから来るわ!!」


羅奈が精一杯の声を絞りだし、カルミオに伝える。


カルミオは言われたとおりに短剣を振りかざした。


ザシュッ!!


刃は少女の腹部を切り裂き、真っ赤な鮮血が溢れだす。

厚く切り開かれた腹の断面図が羅奈の目に飛び込んできた。


『ァァァァァァ―!!』


少女の叫び声が部屋を覆うように響き渡る。

血は止まることなく溢れだし床を染めていく。


少女はヤケになり固いウロコで覆われている蛇の身体をカルミオに向かってムチの様に叩きつけ吹き飛ばした。


――ドッ!!


「グァ!!」


壁に全身を強打したカルミオはズズッと音をたてながら床にゆっくりと体をおろしていく。

打ち付けた衝撃でポシェットが大きく開き、大量の手紙がヒラヒラと宙を舞った。


「グッ…」


頭を打ちグッタリとした様子だ。

数秒も経たないうちに気絶して横向きに倒れてしまった。

額の切傷から血が流れている。


「うっ…」


羅奈がその様子に目を背け、後退りしようとした時だ――。


『マダ……!!』


少女は長い体を羅奈に巻き付けて一気に締め上げる。

ギリギリと全身がキツく縛られた感覚が襲う。


羅奈は絶斬ゼツキを構えようと必死にもがくも全く動かない。


「羅奈!!」


ラグリスが服の内ポケットから血液が入った小瓶を取り出し、蓋を開けバタフライナイフに血を付着させる。

スッとナイフの刃をなぞると新たな刃が作られていく。

短かった刃の長さが30センチの剣となった。


ラグリスは剣を手にその場で素早く宙返りをして少女の頭上へと体を向かせる。


「離れろ!!」


『…?』


少女は羅奈に集中していたためラグリスに気付かない。

ラグリスはためらいもなく少女の脳天を剣で貫通させた。

固いものを突き刺す感覚がラグリスの手に伝わる。


少女は巻きついた体を羅奈から離すと力なくその場に倒れたのだった。


「羅奈、大丈夫かい!!」


ラグリスは床に着地した後、羅奈の様子を伺うために近付いた。


「私は大丈夫よ、それよりカルミオさんは無事なの?」


羅奈は身体中がジンジンとした痛みに耐えつつカルミオを心配する。


顔は痛みを我慢しているあまり少し歪んでいた。


羅奈はその場に腰を下ろすと心配そうな顔をカルミオの方へと向けた。


「おーい、無事かい?」


ラグリスはカルミオの頬を軽くペチペチと数回叩く。


「…っ…?」


意識を取り戻したカルミオがゆっくりと目をあける。

顔色は普段と変わらないが、額の血はまだ流れ続けていた。


「すぐに手当てしたほうがよさそうだね」


ラグリスがカルミオの額に手の平を当て、血を拭った。

カルミオはまだ頭が回らないらしく、自分が一番気になっている事を口にする。


「…天使と絶斬ゼツキの所有者はどうなった?」


「天使はさっき殺したよ。あと羅奈は無事だから安心しなよ」


「そうか……」


カルミオは安堵の息をもらすとその場で立ち上がる。

少し足取りが重いがなんとか歩いて羅奈の傍まで近づいた。


「大変だったな……。怪我はないか?」


「私は大丈夫よ。それよりカルミオさんは早く手当てしたほうが…」


「そんな不安な顔を見せないでくれ。ボクはこんな傷は怪我にはいらないからな…」


そう言ってカルミオはポシェットの中を探り包帯を取りだし額に巻きつけていく。


「早く良くなるといいわね」


羅奈は言い終わった後、カルミオから顔をそむけ地に伏している天使を見つめていた。


(ホントに死んでいるのかしら?)


あれほどしぶとい敵は初めてだったので羅奈は警戒しながら観察をする。


「羅奈、どうしたんだい?」


少し離れた所にいるラグリスが傍まで寄ってきた。


「しつこく私を狙って来たからホントに死んでいるか気になっているのよ」


「天使は生命力が強いから生半可な攻撃じゃあ死なないんだ」


「……じゃあ完全に殺すことは不可能ってことなの?」


羅奈が頭を数回ほど掻きながら呟くと横からカルミオが話しかけてきた。


絶斬ゼツキで殺すしかない。 もっとも絶斬ゼツキの所有者が戦えるといいんだが…」


カルミオは含み笑いをし横目でわざとらしく羅奈を見やる。

羅奈はその視線に嫌味を言われていると思ったらしく少しだけ機嫌を悪くした。


「私だって戦えるわ!」


羅奈は語尾を強めて怒っていることを強調する。

その異変にラグリスがようやく気付きカルミオに言い聞かせるように呟く。


「カルミオさん。 羅奈は戦闘は苦手なんだよ」


「アナタは本当に絶斬ゼツキの所有者なのか? 絶斬ゼツキを持っている者は戦うことが好きだと悪魔の間では有名な話しなんだが…」


カルミオは疑いの目で羅奈を見つめラグリスはごまかすことに必死だ。


「あまり疑うようなら、契約は破棄にすることもできるんだけどなぁ…」


「なっ…‼」


ラグリスの思いもよらない発言にカルミオは驚きの声をあげる。

痛い所をつつかれたのか僅かに固まっていた。

苦虫を噛み潰した表情を見せつつコホンと咳払いをする。


ラグリスはその表情カオを見て笑いを堪えていた。


(フゥ…助かったわ)


羅奈はホッと胸を撫で下ろす。


「ボクはまだ絶斬ゼツキの所有者を疑っているからな…それに、質問に答えてもらってない」


冷たく抑揚のない声でカルミオは静かに言葉を紡いでいく。


「質問…?」


対して羅奈は驚いたのか声色は少し高くなっている。


ラグリスには何を聞かれるのか分からない為不安になり身構えているようにも見えた。


「どうやって天使を壁に張り付けにしたか、という質問だ」


カルミオはキツい眼差しで羅奈を見つめる。

ラグリスは黙って聞いていた。


「最初に襲われた時に首を絞められて殺されるのが嫌だったから死んだフリをしたわ。 それから天使が絶斬ゼツキを掴んだ瞬間に突然、絶斬ゼツキが勝手に動き始めたの」


絶斬ゼツキが意思を持っていると言いたいのか?」


「私には分からない…。 ただ、私の意志で相手を殺したいとは思わなかったわ」


カルミオの羅奈への疑いは増すばかりで頭がスッキリしない様子だ。

ラグリスは半信半疑で聞いており、カルミオほど疑ってはいなかった。


ただラグリスは悪魔トイフェル・番人ヴァッヘであるため、疑うような素振りを見せてしまったらカルミオから信用してもらえなくなる可能性が高いため肯定や否定も出来ない。

あくまでも立場は中立であり絶斬ゼツキを持つ羅奈と悪魔を支援する。

それが悪魔トイフェル・番人ヴァッヘの役割だとラグリスは思っていた。

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