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悪魔と…


ラグリスとカルミオは廊下を黙って足早に歩いている。

壁には値段の高そうな絵画が飾られているがラグリスとカルミオに美術品を好む様子は見受けれない。

二人の目には全く映らず興味無さげにただ素通りしていくだけだ。


今は値段が高い絵よりも絶斬ゼツキの方が大事だと二人は思っていた。


悪魔トイフェル・番人ヴァッヘ絶斬ゼツキの所有者は戦えるのか?」


「………」


カルミオの問いかけにラグリスは口を開かない。

カルミオは足早に歩くラグリスの姿を見て急いでいると察した。


おかしい―…。


ラグリスは心の中でポツリと呟く。


後ろにいるカルミオはラグリスに着いていくだけで精一杯な様子である。


「羅奈の気配がしない…?!」



悪魔トイフェル・番人ヴァッヘ!!」


ラグリスは全速力でかけていく。

今走っている場所は羅奈がいる部屋からはそれほど離れてはいない。

にも関わらず一向に部屋にたどり着かない。

ダダダダッとやかましく音が辺りに響きわたる。


「待て!! 天使の気配がする!!」


カルミオは背後から声をかけるがラグリスからは返事は返ってこない


勝手に行動するな。 とカルミオは心の中で怒りを露にするがラグリスは気にもせず走り続けていた。


一方、カルミオは息を切らしながら走る速度がだんだんと下がっていった。

走るのが苦手なカルミオは辛そうな表情を浮かべ肩で息をしながら廊下を歩いていく。


ラグリスはやがて見えてきた角を左に曲がろうとした時、突然人影が現れた。


ーードンっ!!


正面からぶつかった二人は鈍い音と振動を響かせ固い床に尻餅をつかせた。


「っ…!!」


ラグリスは頭を押さえ苦しみの声をあげている。

衝撃が強かったのかヨロヨロと立ち上がり目の前で同じように痛がっている相手をラグリスは驚いた顔で見つめていた。


「ラグリス…っ!!」


「羅奈!? どうして部屋から出てきーー」


「それより部屋にきて!!」


ようやく追い付いたカルミオはラグリスと羅奈の様子を見て緊急事態が起こったと気付いた。

よく見ると羅奈の服の袖には小さな赤い血が付着している。

それにいつも背負っている竹刀袋が見当たらない。

肌身離さず持っている大事な絶斬モノがなかった。


ラグリスは羅奈の話を聞くことにしか頭にないようで不安になりながらも二人は後を付いていった。


ーーガチャ


部屋のドアが音を立てて開かれ、ラグリスとカルミオは先に中へ入っていく。


「……!!」


二人の目に飛びこんできたのは腹を絶斬ゼツキに貫かれ壁に張り付けになっている少女だった。

血が今もなお流れ続けており、モノクロタイルの床は赤に染まっていた。


少女は力なく両腕をだらんと下ろしている。


「私が気絶から目を覚ましたらこうなっていたわ…」


羅奈はポツリと呟くように説明するが、ラグリスはそんなことはどうでもよかった。


羅奈が無事ならそれでいいーーそう心の中ラグリスは呟く。


「また天使か…」


カルミオは張り付けになっている少女に近付いて確認している。

ラグリスも一緒になってその少女を見ているとある事に気がついた。


「顔が血で染まっていてよく分からなかったが…。 そこの子供に…絶斬ゼツキの所有者に随分と似ていないか?」


アナタもそう思うだろう? とラグリスにそう言いたげな表情を見せると視線を少女へと戻す。


気になったラグリスは血がついた少女の肌を手のひらで拭う。

するとそこには羅奈と瓜二つの顔があった。


ラグリスは一瞬目を疑うが羅奈が死んだ存在であることを知っているので、この少女が魔法を使って羅奈に姿形を似せたのだろうと考えていた。


ラグリスは羅奈がこの世界ツバィルにいた時は血を流す所は一度も見ていないが、すでに死んでいるのでたとえナイフで深く傷を付けられても血は流れないと思っていた。


「おい、悪魔トイフェル・番人ヴァッヘ…そこの子供が震えてるぞ?」


カルミオは体を震わせている羅奈を指差す。

その声に気がついたラグリスは後ろにいる羅奈に声をかけた。


「羅奈、どうしたんだい?」


「……襲われたことが恐くて…まだ震えが止まらないの」


羅奈はその場に膝をつき、両腕を交差し自分の体を強く抱き締めた。


心配になりラグリスは羅奈の側に行き背中を優しく擦る。


「……絶斬ゼツキの所有者に聞きたいことがある」


冷ややかな視線を向け、淡々とした声でカルミオは羅奈に問い掛けた。


羅奈はカルミオの声のトーンに違和感を感じながら答えようと口を開く。


「……どうしたの?」


「この少女が襲ってきた時にどうやって切り抜けた…?」


「それは…」


カルミオは羅奈を疑いの眼差しで見やる。


羅奈に近付こうとした足を一歩踏み出したその時だった。


『っ…グッ…ァァ!!』


張り付けになっている少女が急に息を吹き返した。

口から血を吐き必死に何かを訴えようと呻き声をあげる。


「キャッ…!」


驚いた羅奈は短く甲高い悲鳴をもらす。

よほど恐怖なのか体はさらに震え今にも泣き出しそうになっている。


ラグリスがバタフライナイフを手に羅奈の前に立った。

カルミオも短剣を構え羅奈を守るように少女の前に立ちはだかる。


絶斬ゼツキ…ッ…』


少女は腹に刺さった絶斬ゼツキの柄を手に掴んだ瞬間。まばゆい光が少女の身体をを包み込む。


「っ…!!」


「うわっ」


羅奈とラグリスは目を瞑るなか、何かに気がついたのかカルミオだけは黙って光を見続けていた。


やがて光が止むと先ほどまで張り付けにされていた人物はそこにはいなかった。


「化…物…?」


羅奈の口からは自然と言葉が紡ぎだされていた。


こんな存在は人間ではない、ありえない。


羅奈は信じられないのか瞬きを何度も繰り返すと同時にこの出来事が夢であればいい、と心の中で飽きるほど呟いた。


ラグリスやカルミオは目の前の敵に集中しており、驚きや焦りは感じられない。


―ポッ…


冷や汗が床に落ちる音が辺りに響く。


音に反応した羅奈は視線を敵から外しラグリスとカルミオを見つめた。


「はは…。 いつ見ても天使は気持ち悪いや…」


ラグリスは声を震わせながら呟く。

恐怖しているのか、それとも諦めからの震えか…それは羅奈には理解できないでいた。

ただハッキリと分かるのはラグリスの額を汗が濡らしていたということだ。


羅奈は視線を敵に戻す。


羅奈達の前には上半身が少女の体、下半身がヘビとなった異形の存在が威嚇するようにこちらを睨み付けていた。


『……コロス』


少女の口からは牙と長い舌が覗く。


「来るぞ!!」


誰よりも早くカルミオが反応し、動けないでいる羅奈とラグリスに伝えるのだった――。

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