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エーアの森


ラグリスが寝息をたてるなか、羅奈はベッドから立ち上がり辺りを見回すと机の上に置いてあるページが開かれたメモ帳を見つけた。


そのページの上には一枚の写真が置かれていた。


「家族写真?」


そこには朝日と噴水をバックに3人で写っている。

帽子を被った若い男に双子と思われる人物が抱き抱えられていた。


(家族か……。ママ達は今頃どうしてるかしら?)


羅奈は思わず家族のことを思い出す。

生前は姉がよく見舞いに来てくれ、両親とは週に1回電話で話をしたことが羅奈の記憶に強く残っていた。


(早く生き返らないと。私にはやり残したことが沢山あるのに……)


想いを胸に秘めていると、羅奈が手にした写真の中の双子に目を向ける。


(さすが双子ね、二人とも顔がそっくりだわ。……でもこの子達スゴく中性的ね。男にも女にも見えるわ)


「ちょっと! ……勝手に見ないでくれよ!」


羅奈は慌てて振り返ると不機嫌なラグリスがそこには立っていた。


ラグリスは写真を返してもらうとメモ帳の中に挟む。


「勝手に見てごめん、ねぇ帽子を被った男の人はアナタのお父さん?」


「んー……そうだよ」


呟くその姿はまだ寝足りないのかボーッとしている。

ラグリスはベッドに渋々戻ろうとするが、何かを思い出しハッとしては辺りを見回した。


「羅奈、今は何時か分かる?」


慌てふためきながら羅奈に確認するが、この部屋には時計がない。


「もう夜じゃない?」


羅奈は多分ね、と軽い声色で付け加えるがラグリスの慌てる姿に内心は戸惑いを感じていた。



――トントン


ドアをノックする音がする。

ラグリスがドアを開けようと手をかけた瞬間、向こう側にいる相手が先に開けた。


「また来てしまってごめんなさいね?」


アストレアが部屋に入ってくる、数時間前に出会ったラグリスの先輩だ。


アストレアはそう呟いた後に茶色いノートをラグリスに差し出す。


「わ……わざわざありがとうございます」


「今から人探しを頼むわ、詳しくはノートをお読みになってくださる?」


急に仕事を与えられて、ラグリスは軽く舌打ちをする。

面倒くさいと言いたげな表情は相手にも伝わっていた。


「ダメよぉ、可愛い女の子は先輩の言うこと聞かないとぉ」


(え!? ラグリスは女の子だったの!!)


ラグリスを馬鹿にする猫なで声を出しながら、髪をクルクルと指に絡ませ弄ぶ。


「今回は絶斬ゼツキを守りながら人探しをしてくださる?」


「先輩。人探しの件についてですが……僕は嫌です」


「アンタ。ノートは読んだの?」


アストレアに言われるとラグリスはノートを開く。 細かく情報が書かれており、 人探しの依頼人の名前はオリアクスと書かれていた。


「これでも嫌ですって言うのぉ?」


「いえ。 この仕事、引き受けました。今すぐに向かおうと思うので場所の確認と写真か何か手掛かりになるのを欲しいんですが」


ラグリスは淡々と事務的に話す。


「これくらいしかないけれど」


アストレアは帽子の中から写真を取り出すとラグリスに手渡した。

羅奈も気になるのかこっそりと写真を見つめている。


その人物はポシェットを肩にかけ黒いニット帽を被り、濃い緑色の髪をした男の姿だった。

左頬にある赤色のタトゥー。 髪はショートヘアーだが左の髪が少し長く、特徴のある髪型だ。

表情は無表情で薄い茶色のトレンチコートを着ている。


「名前、分かります?」


「カルミオと言うらしいわ。 もっとも偽名でしょうよ」


「え、偽名?」


ラグリスは納得した様子だが、羅奈は訳がわからないでいる。


「本名を隠すのは二つの種族しかないんだ」


ラグリスは笑顔で羅奈に答えるとその場に立ち上がり、ベッドの隙間から一冊の本を羅奈に差し出す。


ページを捲っていくと、悪魔と天使の絵が描かれている。


人間に純白の羽根を生やした天使と漆黒の羽根を生やした悪魔だ。


『対となる存在』がこの本の題名タイトルらしい。


悪魔と天使の絵の下には説明文が書かれているが羅奈には読めない。


「分かってもらえたかい? この写真の人は天使か悪魔かのどっちかと言うことさ」


「どうしてそんな事が分かるのよ? 私には普通の人間にしかみえないわよ」


アストレアは質問ばかりしている羅奈のことが気に入らないのか軽く舌打ちをしていた。


「アタシは場所についてお話ししたいのよ? お嬢さんは静かにね」


幼い子供をあやすかのような口振りでアストレアは勝手に話を進める。


「場所はエーアの森だから。ほらさっさと行ってきなさい、帰ったら報告お願いするわよ」


アストレアは不機嫌に言うと足早に部屋を出ていくのだった。


「やっと帰ってくれたよ。さて、面倒くさいけど、先輩がうるさいから僕達もエーアの森に向かおうか」


「なんで私も行かなきゃいかないの?」


「君を守りながら探してと先輩に言われたからだよ」


「私にはメリットがないじゃない。ラグリスが行ってくれば?」


「生き返るためには他人との交流が必ず必要なんだよ」


「……分かったわ。じゃあ行きましょうか」


ラグリスは用意をすると部屋を出ていった。

仕方なく羅奈も絶斬ゼツキを持ちラグリスの後を追いかける。


ラグリスが壁に埋め込まれているスイッチを押すと扉が閉まり跡形もなく消えた。


「ねぇ、ラグリスの性別は女の子なの?」


「え? 僕は君に女と言ったことあったかい?──ああ、先輩の発言なら気にしなくていいよ。あの人、可愛い顔の子には女の子呼びする事があるから。あれ、困ってるんだよね」


ラグリスはタメ息を吐くと羅奈は大変ね。と言葉を返し、話題を変えた。


「森に行くにはどれくらいかかる?」


「近いからすぐだよ」


ラグリスは微笑みながら返事を返す。


――数分後


夜のエーアの森に着いた羅奈達は少し休憩したあと奥深くに入っていく。



前を歩くラグリスは振り返ると羅奈にこう告げる。


「羅奈。仕事だよ」



羅奈の目の前には太さや細さがバラバラな木々が沢山あった。

切り倒すには少し時間がかかりそうだ。


「振るう練習に丁度いいわね」


木々の目の前に立つと羅奈は絶斬を竹刀袋から取り出すと自分との高さを比較していた。


(絶斬ゼツキは私の背……、153㎝よりあるから長さはたぶん170cmくらいといったところね)


その場で勢いよく振り回す。


――バキバキッ


たった一振りでものすごい数の木々が音を立てて切り落とされ倒れていく。


「っ…?!」


羅奈は慣れない動作のため、 手の平に痛みを感じすぐに振るうのを止める。


「力を込めすぎだよ」


「どう使えばいいのか分からないのよ」


やれやれと呟きながら見かねたラグリスが羅奈の背後に立つと柄に手を重ねる。


「いいかい? 腕だけじゃなく、全身に力を込めて。今回は木々ばかりだし実戦じゃないから落ち着いて振るえばいいさ」


ラグリスはいい終わると羅奈の背後に下がった。


羅奈は力を込めて振るうと木々はバキバキと音を立てながらなぎ倒されていく。


「なるほど、これだったら大丈夫ね」


羅奈はそう言いながら頷くとコツが分かったのか順調に振るい続けた。


その頃、ラグリスはその場に座りながら女に渡されたノートを読んでいる。

内容は写真の男について。

その男は各地を転々としており、絶斬ゼツキの持ち主を探しているようだ。


羅奈が絶斬ゼツキの持ち主なので狙われる可能性は大きい。

そこでラグリスはカルミオと契約をして監視しようと思っていた。


――パタン……



ノートを閉じるとラグリスは戦いの準備に取りかかる。


ラグリスはズボンのポケットからバタフライナイフがあることを確認する。

その準備を終わらせたと同時に羅奈の仕事も終わったのだった。

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