対面
玉座の前まで来ると、ラグリスは立て膝をつき頭を下げる。
羅奈も遅れて立て膝をついた。
「ようこそ我が城へ、私はこの国の王である……庶民よ。今日は何用か?」
ラグリスと羅奈がゆっくりと顔をあげる。
王の姿を近くで見た羅奈はその姿を見て声にならないくらい驚いていた。
ラグリスはそんな羅奈のことなど知るよしもなく口を開いた。
「実はこの者のことなんですが……、コチラをみてください」
そう言うとラグリスは羅奈が背負っている竹刀袋の紐をほどき、包帯に巻かれた絶斬を取り出して指差した。
「ほう。考えたくはないが……、もしや絶斬 か?」
王がそう言うと周りがざわめき始める。
「はい…。仰るとうりです、この者は絶斬をまだ使いこなせないのですが」
ラグリスはざわめきをよそに話を続ける。
その間、羅奈はなんとか話を聞くフリをしているが全く話に集中できずにその体は震えていた。
王が玉座から降りると羅奈の方へとやって来ると、トンと肩に手を置き体は大丈夫か? と聞く。
「……」
羅奈がゆっくり王の顔を見ると声を震わせながらこう呟いた。
「あの……王様、狼です……よね?」
羅奈が恐怖に支配されるのも無理はない、大型犬より二回りも大きな白い狼が自分の隣にいるのだから。
顔はかなり近く王の真っ黒な鼻が羅奈の額に当たっていて冷たい感触と息遣いが伝わる。
ざわめきがあったのはまるで嘘のように今度は沈黙が流れ、城内には緊迫した空気が漂った。
沈黙の空気が流れる中で王が気にする事もなくゆっくりと口を開く。
ダラダラと垂れた唾液が高級な床に音を立てながら…。
「驚かれるのも仕方ないな、何処までこの世界について知っているんだ?」
王が再び玉座に座ると羅奈の返事を待った。
羅奈はしばらく考えたあとこう答える。
「私はこの世界に来たばかりなのであまり詳しくはありません…、ですが絶斬について少しは理解しています」
その言葉を聞いた王の隣にいる兵士達が口を開き始めた。
「絶斬を持っているお前は悪魔だ!!」
「今すぐ処刑を!! この少女だけでも殺すのです!!」
批難を浴びせる兵士達をラグリスは冷ややかな目で見つめる。その隣で羅奈は突然の言われように驚きを隠せないでいた。
羅奈の頭は状況に着いていけない。
城内には兵士の批難しか響き渡らずにいたが、その批難の声を消したのは王だった。
「私の話を聞け、さもなければ全員食い殺すぞ?」
グルル、と低く唸り声をあげながら王は言った。
兵士達は固まり何も言えなかった。
「絶斬は狙われている。それはお前達も理解しているハズだ」
その言葉を聞いて羅奈とラグリスは静かに頷いた。
「何故狙われるのか、それを説明するにはこの世界のことについて話さないといけない」
ゆっくりかつ丁寧に王は羅奈達に教えていく。
「この世界は悪魔達が住む魔界と天使達が住む天界、そして人間達が住む人間界が一つにまとまり存在している…。この3国は同盟を結んでおり互いに助けたりしていてな…、昔は戦争が起こったりしていたが今は平和だ」
その言葉を聞いたラグリスが顔を絶斬のほうに向けた
。
本来なら王が話している最中に顔をそらす、という行為は絶対にしてはならない…だが、『何か』が気になったラグリスは無表情のまま絶斬を見続けていた。
羅奈は絶斬を見られていることなど知らずにずっと王の言葉に耳を傾け、自分なりに解釈して聞いていた。
「魔界には悪魔が住み、天界には天使が住んでいる。たまにこの国に働きに来ているようだ…、機会があれば会って話を聞いてみるといいだろう」
王が少し間をあけて少し息継ぎをすると再び口を開く。
「絶斬が狙われたり、人々から恐れられたりすることだが。この国はたまに処刑が行われることがある。その処刑場で罪人の首を跳ねる為に使用されたのが『絶斬』だ。だが、その鎌を持った者は寿命が大幅に縮んでしまうと言われているよ。周りの人間も呪いにかかり命を落とす者も少なくはない。現在はそなたが所有者となってはいるが…本当に体は大丈夫か? 絶斬は呪われているのだぞ?」
「……今のところは大丈夫です」
「そうか……。不思議な事もあるものだな」
そう言うと王は話を終わら、王は少しの間席を外した。
羅奈達は話の続きが始まるまで待つよう王に言われて待合室まで兵士に案内される。
広い廊下を進んで5分ほどで着いた。
扉を開けると、目の前には高級な縦長のイスがこちらを向いて二つ並んであるだけの狭い部屋だった。
羅奈が座ると先に座っていたラグリスが独り言を言った。
「なんだよ、皆して羅奈の悪口言ってさ」
怒りと呆れが混ざった声で呟く。ラグリスはあの場所で否定することは出来たハズだ、だがラグリスは場の空気に威圧され何も言えなかった自分にも腹が立っていた。
「色々な事が一度に起こったから、いちいち覚えてられないわよ」
ハァっと深いため息をつくとラグリスを見つめる。
「そうなのかい? 後で分からない事があったら僕に聞いてね」
そう言っているうちに兵士が部屋に入ってくる。
「王がお呼びだ」
そう言うと羅奈達は立ち上がり、また玉座へ兵士に案
内されて向うのだった。
「理解してもらえたか? 本当はすぐに帰らせてやりたかったが……、すまないな」
さっきまでの尊大な態度とは違い気だるそうな感じだ。
そう聞かれると羅奈が口を開いた。
「大体は理解出来ました。あの、大変失礼なことをお聞きしますが…王様はどうして狼の姿なのですか?」
一瞬ラグリスが焦った顔で羅奈の顔を見つめていたが羅奈は申し訳なさそうな顔で返事を待っていた。
「絶斬を守るため仮の姿をしているのだ」
「守る? でも、さっきは呪われていると…」
「呪われているというのは、実は噂にすぎん。絶斬を悪魔から奪われないようにするため仕方ないことなのだ。悪魔共は人間が住むこの国には脅威にしかならない。人間の味方は天使のみ。悪魔など排除の対象にしかならん」
「じゃあ、悪魔や天使がこの国に働きに来ているというのは…実際は天使だけが出稼ぎに訪れている。ということですか?」
「そういうことになる。ただ、この国の王として黒い噂が絶えない絶斬を持つそなたは悪魔以上に危険な存在だ。絶斬を狙い、悪魔がこの国にやって来られると争いの回避に動かねばならん。ここには、そなたの居場所はない」
ハァ、と嘆くようにため息をつき話を続ける。
「そなたの種族は人間だ。本来なら、天使が守るべき存在。だが…絶斬を持つため天使にすら敵と見なされ排除の対象になる。絶斬をこちらに渡すなら私も役目を果たすことができ、そなたがこの国に住むこともできよう。絶斬は警備が万全なこの城に封印することができる」
その言葉に羅奈は辛そうな顔をして答えた。
「そうですね」
「そなた、絶斬を手放すという選択はないのか?」
それを聞いた羅奈は真剣な顔で王に答えを示す。
「王様には申し訳ありませんが、私は絶斬を手放すという考えはありません!!」
「そうか……。なら、好きにすると良い。絶斬を守る役目の事はそなたは気にしなくて良い。仕事が一つ減っただけだからな。……それから最後になるが、これだけは伝えておく。悪魔も絶斬を狙っている、気をつけろ」
そう言うと玉座から下り部屋を後にするのだった。
話が終わり近くに待機していた兵士に案内されて出口まで来ると昼になっていた。
「結局、悪魔も天使も人間も……私にとっては敵ということになるのね」
羅奈は大きなため息をつくと、ラグリスが神妙な顔で話しかけてきた。
「大丈夫、僕が必ず君を守るから。それに悪魔にも良い奴がいるさ。とりあえず帰ろうか、今日は僕の家に泊まるといいよ」
そう言うと羅奈達は城の門を後にした。